常識を覆す川島高、“確率向上”で挑む甲子園=センバツ高校野球・直前リポート

寺下友徳

グラウンドにそろう不利な条件

21世紀枠での甲子園出場を決め、喜ぶ川島高ナイン 【寺下友徳】

 選手登録わずか18人で昨秋の徳島県大会で3位に入った県立川島高(徳島)は、続く四国大会でも高松高(香川)を破り8強入りしたことが高く評価され、21世紀枠での甲子園初出場を決めた。その選出理由には「併設型中高一貫校の狭いグラウンドを使った短時間での効率的な練習」も挙げられた。では、現地では一体どのような練習が日々行われているのであろうか? 実際に訪ねてみると、そこにはこれまでの高校野球の常識を覆すトリビアな世界が広がっていた。

 2月12日、雨上がりとなった取材日。「ここは県内でも1、2を争う水はけの悪さなんですよ」と苦笑いする北谷雄一監督の目の前には、内野ノックができる足下の確保すら不可能な軟弱なグラウンドがあった。しかも、一二塁間の10メートル後ろにはサッカーボールが飛び交い、レフト側奥深くにはソフトボール部の姿も。川島高の所在地は満々と水をたたえる吉野川流域の狭あい地にある徳島県吉野川市川島町であるが、硬式野球部は学校の立地条件同様、ほとんどの活動日がスモールスペースでの練習を強いられているのだ。

「狭いグラウンドの効率的練習」の実態

リートブロックに軸足を乗せるティー打撃で「インサイド・アウト」を体感 【寺下友徳】

 しかし「基本的にプラス思考」な指揮官はそんな困難も意に介さず、練習ではさまざまな工夫を凝らしている。グラウンド状態が良ければ、唯一自由に使うことができる内野エリアでの守備練習やサインプレーを徹底して行い、フリーバッティングでは投手に二塁方向に投げさせ、バックネットに向かって打ち込み狭いグラウンドのハンデを解消。加えてティーバッティングではコンクリートブロックに軸足を乗せることで、スイングスピード向上の鉄則である「インサイド・アウト」を体感させている。

 さらに、この日フリーバッティングと同時進行で行われたレフト方向への外野守備練習におけるノッカーは、なんとOBの服部泰卓(現・千葉ロッテ)から寄贈されたピッチングマシン。スタート地点を3箇所にとった外野手たちは、上向きに置かれたマシンが放つボールの落下点へ次々と走りこみ、ソフトボール部の邪魔にならない位置でさまざまな形での捕球を繰り返していた。
 確かに、高校生の一流クラスの打球スピードで、かつほかの部活の邪魔にならないように、同じ場所に飛ばす芸当はピッチングマシンでなければできないもの。「マシンでの捕球は後ろへの打球を捕るのに役に立っています。球際にも強くなりました」と川島高打線の切り込み隊長である大西学(3年)も話すように、着眼点を変えたピッチングマシンの有効活用は、紅白戦を行うのも困難な選手たちの実戦勘を養成する助けになっている。

全国モードの練習加え、いざ夢舞台へ!

 それにしても、なぜ川島高の練習はこのようなバラエティーに富んでいるのだろうか。そこには数学教師である北谷監督が「数学I」で普段教え、本人も大好きな科目だという「確率」の考えが大きく影響している。
「例えば、野球のエラーは内野守備のミスがほとんどですよね。だから、ウチが内野守備練習しかできないことも、エラーを防ぐ確率の高いことができたと考えればいい。僕は攻撃も守備も確率をいかに上げるかを考えて、そのためにどんな準備をできるかを考えています」。
 野球は、確率の向上が勝利に直結するスポーツ。個々の実力は高くない川島高であるが、右横手の東谷祐希(3年)を大黒柱にした昨秋の快進撃が決して偶然の産物ではないことは、一連の練習と監督、選手たちのコメントを見聞きしても十分にうかがえた。

 なお、現在の川島高はピッチングマシンを下に向け、内野ゴロの捕球練習に活用するなど、全国で戦うための新たな練習にもチャレンジしている。主将の藤畠慶祐(3年)も「普段練習していることを出したい」と意気込む春の夢舞台まで、彼らの確率向上への努力は続いていく。

※学年は新学年

<了>
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著者プロフィール

1971年、福井県生まれの東京都東村山市育ち。國學院久我山高→亜細亜大と進学した学生時代は「応援道」に没頭し、就職後は種々雑多な職歴を経験。2004年からは本格的に執筆活動を開始し、07年2月からは関東から愛媛県松山市に居を移し四国のスポーツを追及する。高校野球関連では「野球太郎」、「ホームラン」を中心に寄稿。

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