大宮、新戦力のDNAで生まれ変わった姿へ=激化するポジション争いとともに迎える新シーズン

土地将靖

激戦区はボランチとGK

今季も中心選手として期待される藤本(右)も、「まずはレギュラーをしっかり取ること」と意気込みをのぞかせる 【写真提供:大宮アルディージャ】

 初日の練習後、藤本主税はこう語った。「まず開幕までのサバイバルを勝たないと。今はレギュラーをしっかり取ることしか考えてない」。昨季キャプテンを務め、おそらく今年もチームの中心となるだろう選手からしてこの言葉である。限られたポジションをめぐる生存競争は、すでに始まっている。
 一番の注目は、守護神の座。昨季34試合フル出場した江角浩司に、昨季J1リーグ最少失点率の北野が真っ向勝負を挑む。「お互いに戦うことによってピッチに立った時にまたレベルアップできる。戦って勝ち取った選手がピッチに立てばいい」と北野が淡々と語れば、江角も「実力ある選手が入ってきたことは自分にとっても刺激になる。まったく負ける気はしない」と意気込む。J1、J2で実績のある多田も指をくわえているわけではなく、昨季プロ初の公式戦ベンチを経験した3年目の清水慶記も、「次はピッチへ」とプロデビューを渇望している。4分の1の枠を争うし烈な争いは、やはり新任の古島清人GKコーチのメニューにより、一足早く初日からスタートを切った。

 ボランチも激戦区。昨季は金澤慎、橋本早十が不動のレギュラーコンビだったが、青木拓矢の台頭、安英学の加入により全く分からなくなった。青木は昨季の終盤、J1残留の懸かったモンテディオ山形、柏レイソルとの2連戦で先発フル出場。出場停止だった金澤の穴を埋めてなお余りある働きを見せた。今年1月6日に行なわれたイエメン代表とのアジアカップ最終予選では、諸事情があったにせよ初の日本代表に選出された。試合出場はならなかったが「同じポジションで出てる選手も同年代で、レベルも高かった」と刺激を受けて帰ってきた。今季は背番号も一けた。クラブの期待の大きさは身に染みているようだ。

 安は初日の練習後、北朝鮮代表遠征へ合流のためチームを離れた。グアムキャンプには帯同できず、宮崎キャンプからの合流というのは大きなハンデだ。だが、これまでの実績ではレギュラーボランチ最有力候補であることに間違いない。FIFAワールドカップへの出場を見据え、「自分を必要としてくれるチームでプレーしたかった」と出場機会を求めての移籍。代表チームの実力アップ、新チームへの同化と二足のわらじを履くことになるが、「暇な選手よりも忙しい選手の方が幸せ。忙しいうちが華」と意に介さない。
 ルーキー2人が加わっただけのアタッカー陣も、既存メンバー間でレギュラー争いは激しい。昨季はボランチだった橋本も「まだ分からない」と今季はサイドに回る可能性を示唆する。FW、サイドアタッカーと限られた枠をめぐる戦いは、シーズンを通じて1年間続くことになるだろう。

新メンバーによる勝者のメンタリティーに期待

川崎から移籍した村上(写真)をはじめ、張監督は新メンバーが持つ勝者のメンタリティーに期待している 【写真提供:大宮アルディージャ】

 素材はそろった。あとはシェフ、すなわち監督がどのように調理するか、だ。
 特に守備組織の構築には困難が予想される。従来通りの4バックの布陣と仮定すると、GKを含めた5人の選手がお互い全くの初顔合わせ、という稀有(けう)な組み合わせとなる。
 これまでは、伝統的とも言われたアルディージャとしての守備、というものがあったが、そのDNAがどの程度残されているのか。いや、そうしたものに頼るのはかえって危険が大きい。新しいメンバーによる新しいアルディージャの守備を築き上げる――そう考えた方がよさそうだ。
 張外龍監督は、グアムキャンプ開始後すぐに戦術練習への着手を明言した。「新しいコンビネーションを組み上げていかなければならない。2〜3日目ぐらいから、個別のグループ練習を行っていきたい」。指揮官でさえ、大幅なメンバーの入れ替わりに対しては期待とともに危機感に近いものも感じているようだ。

 とはいえ、新メンバーには大きな期待を抱いている。その1つが、勝者のメンタリティーだ。「チャンピオンになったチーム、あるいはチャンピオンと言ってもふさわしいチーム、ルーキーの大学生も優勝の経験者。しかも、その中でレギュラーだった選手たち」(張監督)が加わり、上位を目指せるメンバーがそろいつつあると実感している。ヤマザキナビスコカップウィナーの座に輝いた深谷、韓国FAカップを制した安、強豪川崎で常にメンバーの座を勝ち取ってきた村上。彼らがその中で得てきたメンタリティーは、悲しいかな既存のアルディージャのメンバーには持ち得ないものである。今後は、そうしたものを新しいアルディージャのDNAとして受け継いでいかなければならない。

 うわさになった何人かのビッグネームの名前は、新戦力にはない。新戦力に不安を抱いているサポーターの方もいるかもしれない。だが、チームの実情に即した堅実な補強ができたのではないか、そんな印象を受けている。まずは2月13日、グアムキャンプ打ち上げ後にNACK5スタジアム大宮で行われる「さいたまシティカップ」水原三星ブルーウィングス戦で、その実力を見たい。

<了>

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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