アイシン、リーグでの経験を生かし3連覇達成=天皇杯・皇后杯バスケ オールジャパン2010 最終日

北村美夏

アイシンは変化に対応する力を“失敗”から得た。写真は#10竹内公輔 【(C)JBA】

 全日本総合バスケットボール選手権(オールジャパン)大会最終日は、アイシンが84−73で日立を降して3年連続7回目の優勝を飾った。アイシンは2002〜2005年の4連覇に次ぐ3連覇。
 大会ベスト5にはアイシン#3柏木真介・#10竹内公輔、日立#11菅裕一・#15竹内譲次、パナソニック#6永山誠が選出された。

バスケットの醍醐味が凝縮された40分

 同じカードで行われた昨年の天皇杯決勝は、「前半で勝負がついてしまった」と両チームとも認める展開だった。しかし今大会は一転、選手起用や細かい戦術変化の応酬によって主導権が行き来する、手に汗握る場面の連続となった。

 立ち上がりは両チームともインサイドで激しいディフェンスを展開。その中で、日立が竹内譲のアシストから#20佐藤稔浩のスリーポイントシュートなどで27点をたたき出して先行する。しかし第1ピリオド終盤に起用されたアイシン#6朝山正悟がファーストタッチでスリーポイントシュートを沈める。第2ピリオドに入ると、守ってはスティールを連発し、そこから速い展開に持ち込んで一気に逆転して見せた。

 後半は第2ピリオドの勢いそのままに、アイシンが10点以上の差をつける。このまま押し切るかと思われたが、日立はここでルーキーの#9西村文男が起用に応えてチャンスメーク。しかし、4点差からどうしても近づくことが出来ず、最後は「勝負所は、すべての責任を持つガードの自分が行こうと思っていた」という柏木の得点を守ったアイシンが勝利した。

「選手全員がいい仕事をしてくれた」とアイシン・鈴木貴美一ヘッドコーチが振り返るように、スタメンか控えか、日本人選手か外国人選手か、またはベテランか新加入かにも違いがない、バランスのよさが光った。アイシンは実に5人が2けた得点。対する日立も3人が10点以上、3人が9点をあげ、チーム一丸となって戦った。しかし、あと1歩届かなかった部分を、小野秀二ヘッドコーチは「精度の差」と表現した。

 では、アイシンが天皇杯決勝という日本一をかけたビッグゲームで、きっちり力を出せた要因はなんだろうか。

アイシン3連覇の秘訣は「見えない苦労」

 鈴木ヘッドコーチは、「スタッフも選手も、過去にいろいろな失敗を繰り返し経験しているから、それをバネに戦況の変化に対応できるようになった」と言う。JBLのレギュラーシーズンでは16勝4敗と圧倒的な強さを見せるが、勝ったゲームの中にも、主力のファウルトラブルやけがといったピンチ、または個々の選手のミスもあった。
 特に新加入の朝山、#7ジョシュ・グロスには「レギュラーシーズンで思い切りやらせて、あえて失敗を経験させた」というが、経験を積ませることと勝利とを両立させるのはまさに我慢の連続だった。そういった勝つための“見えない苦労”が積み重なり、大舞台での活躍につながったのだ。
「アイシンはいつも簡単に勝っているように見えるかもしれませんが、その後ろにいろいろな苦労があることが、中に入ってみて分かりました」(朝山)

「勝ったことがないチームには勝つことが、勝ち続けようとするチームには失敗が何よりの薬」と鈴木ヘッドコーチ。かつては、さまざまな人生経験を積んだベテラン選手たちが、1つずつ成功を重ねることによって初優勝と大会V4を達成した。世代交代を経て、主力メンバーはガラリと変わり、再びの3連覇。だが、やはり“経験のアイシン”は健在だった。

JBL後半戦で、「アイシン阻止」に燃えるチームたち

後半はほぼベンチにいた日立#20佐藤。この悔しい経験をリーグにぶつける 【(C)JBA】

「失敗する経験」という意味では、日立の選手たちはこの決勝でかけがえのない経験をしたと言える。ルーキーの西村、成長目覚しい#27近森裕佳は思い切りよくゴールに向かっていき見せ場を作ったが、一方で若さゆえのミスも少なからずあった。
 また、若手だけでなく、今シーズンからメーンガードを務める佐藤は、めずらしく「ディフェンス!」と大きな声でチームを鼓舞するなど、かなり気合を入れて臨んでいた。しかし、第1ピリオドのリードを守りきれず、「気持ちが空回りしたのか分からないが、うまくいかなかった。自分が情けない」と唇をかんだ。
 
「すぐリーグが再開するので、そこで頑張りたい」と佐藤。もちろん日立だけでなく、準決勝でアイシンに敗れたパナソニックも「天皇杯で出た課題を必ず修正して、アイシンに勝って優勝したい」(永山)とリベンジに燃えている。

 JBLでも2連覇中のアイシンは、今回の優勝でリーグ3連覇と天皇杯との2冠を目指すことになる。アイシンが逃げ切るのか、それとも他チームの追撃が上回るのか。1月15日に再開するJBLレギュラーシーズンが楽しみになる大会の幕切れだった。

<了>
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著者プロフィール

 1983年生まれ。バスケットボール男子日本代表を中心に、高校、大学からJBL・WJBL、ストリートや椅子バス、デフバスまで様々なカテゴリーのバスケットボールを取材。中学・高校バスケットボール(白夜書房)などの雑誌、「S−move」「JsportsPRESS」等のウェブ媒体で執筆。2009年末に有志でポータルサイト・「クラッチタイム」創設

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