男子決勝、勝負の鍵を握る注目選手たち=天皇杯・皇后杯バスケ オールジャパン2010

北村美夏

準決勝のパナソニック戦を逆転で勝利をおさめたアイシン。抜群の安定感で連覇を狙う 【(C)JBA】

 全日本総合バスケットボール選手権(オールジャパン)も残すところ男子決勝のみとなった。大会6日目に行われた男子準決勝では、日立がレラカムイ北海道に、アイシンがパナソニックにそれぞれ勝利し、決勝は昨年と同カードとなった。
 とは言え、選手個々のプレーもチームの状態も決して昨年のままではない。両チームに新しい風を吹かせている2人の選手に焦点を当て、決勝の行方を占ってみたい。

新加入のシックスマン、朝山正悟の存在感

 パナソニックとの準決勝残り30秒。相手ベンチのテクニカルファウルにより得たフリースローのシューターとして、アイシンは今シーズンよりチームに加わった#6朝山正悟を選んだ。フリースローの練習時にペアを組む#32桜木ジェイアールが、朝山の好調を理由に「打て」と言ってくれたという。しかし、結果は2本ともミス。「『お前はチキンハート(臆病者)だ』と言われてしまいました」と苦笑いを浮かべた。それでも十分チームになじんでいることが分かるエピソードだ。

 準決勝での朝山のスタッツ(個人成績)は、ベンチから約20分の出場で4得点だった。だが、この数字以上に、コートやベンチでさまざまな表情を見せる彼の存在感は大きい。特に、昨シーズンは天皇杯とリーグの2冠を達成し、今シーズンもリーグで断トツの首位と、王者の貫録が漂うアイシンにとっては、新鮮なキャラクターと言える。

「いい雰囲気を作ることがシックスマンの役割ですし、何よりアイシンは優勝に向かって一丸になっているすごくいいチーム。だから自然にそういうプレーや表情が出るんだと思います」と朝山は言う。先述の成績から分かるように、アイシンには役者はそろっている。そこに、いい流れを増幅させ、悪い流れのときはそれを断ち切れるように振舞う朝山が加わった王者は、3連覇に向けまさに死角なしの状態だ。

ジャーニーマンが決勝で得る“答え”とは

今季からアイシンに移籍した#6朝山正悟。シックスマンとして重要な立場を担う 【(C)JBA】

 朝山はトップリーグで過ごした6シーズンの間に、4つのチームを渡り歩いた。欧米プロスポーツでは移籍の多い選手を“ジャーニーマン”と呼ぶが、朝山は日本のバスケット界では数少ないジャーニーマンの1人なのだ。チームが変わるたびに、バスケットのスタイルはもちろん、住む場所など生活の環境も変わる。しかし、彼はその苦労を人に見せることがない。

「もちろん慣れるのは大変ですが、一方で人との新しい出会いによってここまで成長させてもらったとも思います。だから辛い部分より楽しいところを探してやるようにしていますし、今の自分の立場にもすごく満足しています。あとは、目標のチャンピオンをつかめれば――。自分がアイシンに来た答えが出る、そんな気もしています」

 王者・アイシンの中で、逆に言えば朝山だけが天皇杯、JBLでの優勝経験を持たない。主力として40分プレーできる力を持ちながらも、強い所でやりたい、その一心で行き着いたチームで悲願の結果をつかむことができるか。決勝でのプレーに期待がかかる。

急成長を遂げスタメンに抜てきされた日立・近森裕佳

「決勝では欲を出さず、ディフェンスを頑張りたい」と語った日立#27近森裕佳 【(C)JBA】

 一方、JBLのレギュラーシーズンでは8チーム中6位に沈んでいる日立だが、アイシンの#10竹内公輔が「6位にいる方がおかしい。決勝に来るだけの力があるチーム」と評するように決勝進出にふさわしい戦力を持つ。インサイドは#15竹内譲次と#33ラマー・ライス、#35タイラー・スミスという昨年から不動のメンバー。アウトサイドは、長くチームの顔だった五十嵐圭が今季からトヨタ自動車に移籍したが、ベテランの#20佐藤稔浩と#11菅裕一が1・2番ポジションを固めている。

 では、残る3番ポジションはというと、2年目の#22近森裕佳が奮闘している。レギュラーシーズンでコツコツとプレータイムを伸ばし、オールジャパンでは満を持してスタメンに抜てき。小野秀二ヘッドコーチも「1年間アウトサイドのプレーを学んできたことが、ここにきて非常に良くなってきた」と目を細める成長ぶりを見せているのだ。
 特に日立はパワーフォワードの竹内譲が外からのシュートを積極的に放っていく分、学生時代にペイントエリアで身体を張ってきた近森のリバウンド力は大きな武器になっている。

「前回のオールジャパンは準々決勝と準決勝の、勝負の決まった残り数分しかコートに立てなかった。正直、自分の中で“オールジャパンを戦った”という感覚はゼロに近かったです。それに比べたら、プレータイムが短いのは悔しい部分なんですが、今年はスタートで出してもらっているので、決勝でもしっかり自分の力を出してチームに貢献したい」と近森自身も意気込みを口にする。

ディフェンスのキーポジションで切磋琢磨する若手3人衆

 この近森の急成長は、3年目の#28酒井泰滋と4年目の#8大屋秀作というライバルの存在抜きには語れない。大屋は負傷により戦列を離れているが、酒井は走力という近森とはまた違った武器を持ち、オールジャパンでも1試合トータルのプレータイムは、近森よりも長い時間を得ている。「酒井は最近伸び悩んでいたが、準決勝は彼らしさが戻ってきた」と小野ヘッドコーチも信頼を寄せる選手だ。

 近森はポジションを争う3人の中で、「自分が1番経験も実績もない。ヘッドコーチの信頼を得て2人の中に割って入るには、2人以上に努力しなければならない」と練習に励んできた。ここまでは、「大屋も含めて3人で切磋琢磨(せっさたくま)しながら、力を上げてくれれば」という小野ヘッドコーチの思わく通りに来ているというわけだ。

 小野ヘッドコーチがこのポジションに求める役割は、「リバウンドと走ること、そして身体で負けないディフェンス」の3つだ。準々決勝、準決勝とシュータータイプの選手とのマッチアップが続いたが、決勝を戦うアイシンは身体能力もパワーもある#7ジョシュ・グロスを3番ポジションに据える。「僕らのディフェンスの出来が試合に影響する」とは酒井。一方の近森も「決勝で1番求められるのはディフェンス」と自覚している。彼らの伸びがアイシンの想定を超えたとき、それは日立を初の頂点へ導くキーになるかもしれない。

注目の男子決勝は、11日の14時より行われる。

<了>
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著者プロフィール

 1983年生まれ。バスケットボール男子日本代表を中心に、高校、大学からJBL・WJBL、ストリートや椅子バス、デフバスまで様々なカテゴリーのバスケットボールを取材。中学・高校バスケットボール(白夜書房)などの雑誌、「S−move」「JsportsPRESS」等のウェブ媒体で執筆。2009年末に有志でポータルサイト・「クラッチタイム」創設

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