山梨学院大附の藤巻、国立競技場へ導く恩返し弾=高校サッカー準々決勝

平野貴也

準決勝へと導く一発

ゴールを決めて喜ぶ山梨学院大附の藤巻 【たかすつとむ】

 風下の前半を耐えて後半を迎えた山梨学院大附に勝利をもたらしたのは、強烈なロングシュートだった。後半5分、右サイドでパスをつないで相手の守備を寄せると、中央へ入れた横パスをMF鈴木峻太が背中で相手DFを抑えて後ろ向きになりながら左へ流した。バイタルエリアからのバックパスでゴールまでは距離があったが、小柄なサイドバック藤巻謙は左足を思い切り振り抜いた。打った本人はゴールの隅に飛んだことにビックリしたが、観客を含めた全員がその威力に驚いた。ボールはGKの手をはじき飛ばしてゴールへ飛び込んだ。

 相手のルーテル学院にとっては、極めて重い一撃だった。技術に勝る山梨学院大附に対して手堅い守備からのカウンターを狙うのがゲームプラン。前線でチャンスを待つ今大会のシンデレラボーイ山本大貴(5得点)の一発に懸けていたが、風上のうちに得点が奪えなかった。どうにか無失点に抑えて1点勝負で勝つという気持ちが強まっていただけに小野秀二郎監督も「相手はショートパスでキレイなサッカーをしてくる。唯一、長いキックを蹴ってきたのが、計算を度外視したようなあの思い切りの良いシュート。あれ以外はすべてこちらの網にかかっていたのに……」と一瞬で守備網を突き破った決勝点に脱帽だった。

入部後のカルチャーショック

初出場ながら4強入りを果たした山梨学院大附(青)。9日には準決勝が行われる国利競技場のピッチに立つ 【たかすつとむ】

 ベスト4入りを決めた山梨学院大附は初出場。過去の実績はないが、サッカー関係者の間ではダークホースとして注目されていた。横森巧監督は、かつて同じ県の韮崎を高校総体優勝に導いた名将。選手も中学時代にFC東京U−15むさしで全国優勝を経験しているメンバーが多く在籍するなど、県外から優秀な人材が集まるようになっている。
 藤巻はその中では珍しくなりつつある山梨県出身の選手だ。中学3年の冬、所属していたクラブチーム、フォルトゥナFCのスタッフから勧められて山梨学院大附の練習に参加。精度の高いキックが評価されて声がかかった。
 高校選手権では、活躍した選手が報道陣から入部理由を聞かれるのはいわばお約束。多くの選手はチームスタイルや先輩にあこがれたと胸を張って答えるのだが、藤巻は違った。「自分の中では進学先は韮崎と決めていたんだけど、勉強が苦手で行けるところがなかなかなくて……。いきなり決まった感じだった」と第一志望ではなかったことを照れくさそうな表情で打ち明けた。

 運命の赴くままに入部した先ではカルチャーショックが待っていた。
「うまい人がいると聞いてはいたけど、(主将の)碓井鉄平(FC東京U−15むさし出身)が練習試合でプレーしているのを見たら技術はずば抜けているし、パスを出すところとか見えている範囲も県内の選手とは全然違ってビックリした。県外から来た選手はみんなうまくて、友達になってもらえるか心配していました」と雰囲気にのまれた当時の自分を笑った。

大けがから復帰 気合を込めて臨んだ今大会

勝利の瞬間、歓喜する山梨学院大附の選手たち(青) 【たかすつとむ】

 しかし、藤巻の心配事が解消されるのに時間はかからなかった。1年時から出場機会に恵まれたからだ。「持ち味はキックと運動量。県外から来た選手みたいに細かいことはできない」と本人は謙そんするが、指揮官の評価は高い。この試合でも、横森監督は決勝弾をフロック(まぐれ)と見なした報道陣を諭すように「彼はもともとああいうシュートを持っているし、これまでに決めたこともある。ジャストミートすればすごいキックがある選手。値千金のゴールだった」と賛辞を惜しまなかった。

 藤巻はこの夏、医師から「あともう少し悪ければ手術しかなかった」と診断された左足首じん帯断裂の大けがを負った。9月に復帰したものの、山梨県大会はわずかに途中出場した程度。先発復帰は難しいと覚悟をしていたが、大会直前の12月下旬に行われた御殿場合宿でレギュラーに復帰。今大会には「かなり(気持ちが)へこんだけど、監督が最後にチャンスをくれた」と気合いを込めて臨んでいる。帰還を待っていたと言わんばかりに抜てきした指揮官の期待に応えるスーパーシュートは、(準決勝が行われる)国立競技場へ導く恩返し弾となった。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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