全国大会という「未知の領域」で戦った高校生たち=高校選抜バスケ・ウインターカップ2009 第2日

渡辺淳二
 高校選抜バスケットボール大会、「JOMOウインターカップ2009」の大会2日目。東京体育館の天井をつき抜けるような大声援が鳴り響く。大舞台で全力を出し切りたい、そんな強い意志がコート上だけでなく、ベンチから、そして観客席からも伝わってくるかのようだ。まさにチーム一丸となり、「未知の領域」に足を踏み入れた高校生たちの挑戦を追った。

激戦区東京を勝ち抜いた八雲学園が3回戦へ

初出場ながら3回戦進出を決めた、東京都代表の八雲学園。#5田渕かおりが積極的に攻める 【(C)JBA】

 ここ数年の東京都女子は、東京成徳大学が絶ぺきとして立ちはだかり、実践学園と明星学園が双へきをなす様相を呈してきた。事実、今夏のインターハイ(全国総合体育大会)に出場したのも下馬評どおりこの3チームだ。その一角、明星学園を東京都予選で破り、開催地枠で初出場を遂げたのが八雲学園である。

 八雲学園は緒戦の和歌山信愛女短大付戦で大量リードを奪いながら追撃を許しての辛勝だった。その試合について「自分たちのリズムで戦えませんでした。ゲームの配分がうまくいきませんでした」と振り返る高木優子コーチ。さらに迎えた2回戦でも、岡山・就実に揺さぶりをかけられる。シュートが入るとマンツーマン。シュートが決まらないと、エリアを守るゾーン・ディフェンス。時には前線からプレッシャーをかけてくる相手に戸惑ってしまう……。
「普段の練習で対応できるようにしていましたが、ついドリブルをついてしまったことがミスにつながりました」(高木コーチ)。だが、ゲームの波が相手に傾きそうなところで踏み止まったのが#5田渕かおりだ。
 就実のプレス・ディフェンスに対して、パワーフォワードである彼女が確実に相手の陣内へとボールを運ぶ。自分のシュートが外れても粘り強くリバウンドを拾い、#8加島葵のスリーポイントシュートをおぜん立て。就実の猛追を振り切ったのである。

 昨年まで、観客席からウインターカップを眺めていた#5田渕は、大舞台でプレーした感触をこう表現する。
「上から見ているといろいろなことが見えました。でも実際にウインターカップのコートに立つと、まるで見えなくなってしまいますね(苦笑)」
 それでもチームが苦しい立場に追い込まれた時には、「とにかくディフェンスだけは頑張ろう」と、自らに言い聞かせたという。相手のシュートミスを誘い、自分たちの攻撃回数を増やしたことが勝因となった東京都予選。大きな壁を乗り越えたその時の戦い方を貫いたことが、初出場での3回戦進出につながったのだ。

 高木コーチが言う。
「いつかは東京都予選を突破したいと、ずっと思っていました。東京の名に恥じないように次(3回戦)に臨みます。全国大会は未知の世界、相手に胸を借りるつもりで戦います」
 東京都高校体育連盟の技術委員を兼務する高木コーチはそう言い残して、次の試合の戦評係へと足早に向かった。

最後の追い上げ届かず、玉名工は1回戦敗退

県立玉名工業#9古閑雅美が、岡山学芸館#8ンドゥールモリスダリをかわしチャンスメイクする 【(C)JBA】

 一方男子では、初出場の熊本県立玉名工業が緒戦で、岡山学芸館の「高さ」に挑戦していた。最高身長が#4上原大輝の183センチである玉名工。それに対して学芸館は、183センチ以上の選手を5人も擁する。特にセネガルからの留学生、#8ンドゥールモリスダリは200センチ。
 この身長差を覆すべく玉名工が取った作戦とは……。
「ゴール下に入っていく選手をおとりにして、まわりが動いてシュートポイントを作る。ディフェンスでは、留学生に1対1で攻められないように、まわりも協力して守ろうと」。こう明かすのは、昨年熊本商業の女子チームを率いてウインターカップでベスト16に入り、今春、玉名工に転任した吉野勉コーチである。

 作戦を持って臨んだ1回戦だったが、開始早々、玉名工のアウトサイドからのシュートがほとんど決まらず、リバウンドをことごとく学芸館の#8ダリに奪われる。その#8ダリには、アリウープ(空中でパスを受けてそのままダンクシュートに持ち込むスーパープレー)まで決められてしまう始末。おまけに、#8ダリをマークしていた#4上原のファウルが前半で3つになるという、苦しい状況に追い込まれ、学芸館に前半終了の時点で20点のリードを奪われた。

「留学生の高さを意識するあまり、シュートがこぼれている。いつもどおり、シュートは最後まで打ち切ろう」。
 ハーフタイムに吉野コーチからそう指示を受けた玉名工が後半、猛チャージを見せる。「3年生が前向きな気持ちでディフェンスをしてくれました。それが追い上げのきっかけとなったのです」(吉野コーチ)

 ファウルがかさむ183センチの#4上原の代わりに、165センチの3年生、#15吉永吏志が力強く接触して#8ダリをゴールに近づかせず、パスミスを誘う。そこからオフェンスのリズムが作られるようになったのだ。チーム最高の18得点をあげた#9古閑雅美が言う。
「前半はパスを外だけで回していました。だから後半は、インサイドにドリブルで切り込んでディフェンスを引きつけてからパスを出すようにしたんです」
 チャンスメイクをしながらタイミングよく自分のシュートに持ち込み、6点差にまで追い上げる健闘を見せたのである。しかし最後は追いつけず、1回戦敗退となった。

「僕ら3年生にとっては最後の大会。悔いの残らない試合をしたかったし、自分たちの持ち味であるスピードは出せたと思います」
 玉名工#9古閑は高校生活最後の挑戦を、晴れやかな表情でそう結んだ。

<了>
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著者プロフィール

1965年、神奈川県出身。バスケットボールを中心に取材活動を進めるフリーライター。バスケットボール・マガジン(ベースボール・マガジン社)、中学・高校バスケットボール(白夜書房)、その他、各種技術指導書(西東社)などで執筆。

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