バルセロナの忘れられない1年=FIFAクラブワールドカップ UAE 2009

自らの呪縛と戦うことになるバルセロナ

クラブ世界一となり、選手やスタッフに胴上げされるグアルディオラ監督 【Photo:MEXSPORT/アフロ】

 FIFAクラブワールドカップ(W杯)2009は、バルセロナがアルゼンチンのエストゥディアンテスを延長戦の末に2−1で下し、苦しみながらもクラブ世界一の座を初めて手にした。激闘となった決勝の前日、欧州王者を指揮するジョゼップ・グアルディオラは、「09年に起きたことと比べれば、バルセロナの未来は暗いものになる」と語った。
 そう、バルセロナは今後、自らの栄光と戦っていかなければならない。クラブW杯で優勝したことで、“ブラウ・グラナ”(青とえんじ。バルセロナの愛称)はこの年、前人未到の6冠を達成した。スペイン国王杯、リーガ・エスパニョーラ、チャンピオンズリーグ、UEFAスーパーカップ、スペイン・スーパーカップ、そしてクラブW杯。バルセロナは名実共に世界一のクラブとなり、センセーショナルな1年が間もなく終わりを告げる。

 南米チャンピオンとのクラブW杯決勝は、歴史に残る死闘となった。89分までバルセロナは1点のビハインドを負っており、この日途中出場したカンテラ(下部組織)出身のペドロが、終了間際に起死回生の同点ゴールを挙げたのだ。そして、延長後半の110分、メッシがダニエウ・アウベスのクロスを胸で押し込み、2−1と勝ち越した。

 グアルディオラはこの決勝で、自身が単にスター軍団を率いる若き指揮官というだけでなく、鋭い観察眼を持った偉大なる監督であることを証明してみせた。後半開始とともにピッチへ送り出したペドロが同点弾。83分には、同じくカンテラ出身の若きジェフレンの投入という驚きのさい配を見せた。これが結果として吉と出て、延長に入るとフレッシュなベネズエラ出身のウインガーが、度々エストゥディアンテスのサイドを切り崩した。この日、名将アレハンドロ・サベージャ率いる南米王者が、組織的な守備で試合の主導権を握っていたことを考えれば、グアルディオラの見せた選手交代は、決して簡単なものではなかったと言える。

南米王者のバルサ対策は完ぺきだったが……

 バルセロナは今大会の2試合を通じて、決して普段のレベルの戦いを見せたわけではない。準決勝のアトランテ戦では前半5分で失点し、早々に1点を追う厳しい展開となった。前半のうちに1−1に追いつきはしたものの、故障明けで万全のコンディションでなかったリオネル・メッシの不在が響き、またいくつかのミスも重なった。だが後半に入り、メッシを投入すると、その2分後に千両役者が勝ち越し点。最終的には3−1で北中米カリブ海王者を寄せ付けなかった。

 この試合を見たエストゥディアンテスは、完ぺきとも言える“バルセロナ対策”を施して決勝に臨んだ。バルセロナの生命線でもある中盤からのパスワークを素早いプレッシングで封じ、相手にスペースを与えなかったのだ。そして、アトランテ戦をお手本にしたかのように、前半37分にはマウロ・ボセッリがバルセロナのすきを突いて先制。ブラウ・グラナには、準決勝よりはるかに重い1点がのしかかった。南米王者の実力は、メキシコのチームとは比べ物にならないからである。ペドロのゴールがなければ、優勝トロフィーが彼らの手から滑り落ちるところだった。

 だが、ファン・セバスティアン・ベロンを中心とするエストゥディアンテスは、南米の伝統に忠実というべきか、先制すると守備ラインを下げ、相手にボールを明け渡した。ペドロの投入でメッシを中盤にコンバートしたバルセロナは、ここから徐々にリズムを取り戻す。普段であれば高い決定力を誇るイブラヒモビッチがこの日は不発だったこともあり、なかなかゴールは生まれなかったが、前半から飛ばしたエストゥディアンテスの運動量が落ちるのは必然でもあった。延長戦に入ってからは一方的にヨーロッパ王者が攻め込む展開となり、最後はメッシがゴールネットを揺らした。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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