アブダビは今日も雨=宇都宮徹壱のアブダビ日記2009

宇都宮徹壱

時ならぬ大雨で散々のオフ日

土砂降りの中、泰然自若と歩いている民族衣装の男。この国には傘をさす習慣があまりないようだ 【宇都宮徹壱】

 アブダビ滞在6日目。この日はFIFA(国際サッカー連盟)クラブワールドカップ(W杯)2009の試合も会見もないので、完全オフに充てることにした。とはいえ、オフ日といっても格別に行きたいところがあるわけでもない。そもそもアブダビ自体、決して観光都市とは言い難い土地柄である。ネットを通じて何人かにアイデアを募集してみたのだが、砂漠クルージングはひとりだとつまらないし、アラビア湾の島まで遠出するには天気もよろしくないし、ということで近場のオールドスークに行ってみることにした。「スーク」とは市場のことだが、取り立てて珍しいものがあるわけでもない。それでも私は、人がごった返しているような場所に身を置いてみたかった。それくらい、アブダビの日常には人気(じんき)というものが、まるで感じられなかったのである。

 ホテルからタクシーに乗り、およそ10分ほどでオールドスークに到着。だが、それらしきにぎわいは全く感じられない。タクシーの運転手いわく「今は新しいビルを建設中なので、スークはない」とのこと。おいおい、そういうことは出発する前に行ってくれよ! と思ったが後の祭り。仕方ないので、しばし周辺を徘徊(はいかい)しながら、昼食にありつけそうな店を探すことにする。オールドスークは、メーンストリートのひとつであるハムダン・ストリートに面しており、それなりに開けた場所である。ところが、そういう立地にあっても、やはり食べ物屋はなかなか見つからない。時おりパン屋は見かけるものの、ファーストフード店もなければカフェもない。高層ビルが林立し、だだっ広い道路を車が行き来するだけの、本当に砂漠のような都市の中、またしても私は食べ物を求めてさまよい続けることとなった。

 そうこうしているうちに、大粒の雨が落ちてくる。すぐに止むだろうとタカをくくっていたら、しゃれにならないくらいの大雨になったので、急いでビルのひさしに身を寄せた。ビルには、いくつかの店舗が入っているようだが、なぜか閉店状態で中に入ることができない。メーンストリートにありながら、雨宿りできるような店がどこにも見当たらないとは、どういうことか。アブダビという街は、本当に不思議なところである。
 その後、20分くらいビルのひさしの下に突っ立っていただろうか。一向に雨が止む気配がなかったので、意を決して飛び出して何とかタクシーを確保する。ホテルに戻る道すがら、道路に雨水がたまっていたので、勢いよく水しぶきがあがる。ドライブというより、まるでクルージングのようだ。バングラデシュからやって来たという若いドライバーは「故郷に帰って来たみたいだよ!」と子供のようにはしゃいでいた。

来年、クラブW杯に参戦予定のサポータ諸氏へ

アブダビの中心街では、高層ビルと巨大な看板をあちこちで目にするが、通行人の姿はまばらだ 【宇都宮徹壱】

 そんなわけで早々にホテルに戻り、昼食代わりにポテトチップスをつまみながらこの日の日記を書いている。だがホテルに戻ってみると、この大雨による影響だろうか、サーバーがダウンしてしまい、ネットもつながらなければテレビも映らない。観光もできず、昼飯も食えず、ホテルに戻ってもテレビもネットも見ることができないとは、何という最悪のオフ日であろうか。ホテルのフロントは「あと15分から20分くらいで復旧の予定です」と言っていたが、約束の時間からすでに1時間以上が経過しているのに、状況は一向に改善されない。文字通り「インシャラー(神の思し召しのままに)」状態である。

 何やらグチばかり言っているようなので、話題を変える。
 先日、来季のAFCチャンピオンズリーグの組み合わせが発表された。日本からはすでに、鹿島アントラーズ、川崎フロンターレ、そしてガンバ大阪の出場が決まっている。残りの天皇杯枠については、ベガルタ仙台、G大阪、名古屋グランパス、清水エスパルスがベスト4に名乗りを挙げており、もしG大阪が優勝した場合には、リーグ4位のサンフレッチェ広島が出場権を得ることになっている。当該クラブのサポーターは、今から来季のACLでの遠征費をあれこれ胸算用し、さらには来年もアブダビで開催予定のクラブW杯にも思いをめぐらせていることだろう。そこで、かなり気が早いのは承知の上で、来年のアブダビ遠征を真剣に考えているサポーター諸氏のために、私からささやかなアドバイスをお届けすることにしたい。

 すでに、ACLでの中東遠征を経験済みのサポーターは、少なからずいることだろう。だが、弾丸ツアーが主流となるACLと、現地に滞在しながら応援することになるクラブW杯とでは、自ずと準備が異なってくる。後者の場合、今大会の浦項スティーラーズを例にとると、準々決勝、準決勝、そして3位決勝戦(あるいは決勝)までの3試合、合計9日間も現地に滞在しなければならない。さすがにそんなに休める人は少ないだろうが、やはり、それなりの日数をアブダビで過ごすことを前提に計画を立てなければなるまい。考えてみれば、これは実に画期的なことだと思う。日本代表のサポーターであれば、これまで何度も開催国に長期滞在することがあったが、これがクラブレベルとなると、まったくと言ってよいほど経験がないはずである。

 つまり、来季のACLでアジア王者となったJクラブのサポーターは、これまで国内の誰もが経験していない「アウエーでの長期滞在」を経験することになるのである。これはACL王者の先達である、浦和レッズやG大阪のサポーターも経験していない、全く新たな地平であると言っても過言ではない(そうして考えると、今さらながらに名古屋のサポーターは惜しいことをしたと思う)。
 この稿、長くなるので、続きは翌日の日記にしたためることとする。

<翌日に続く>
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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