「イニエスタなくしてメッシなし」=城彰二氏が語るクラブW杯の見どころ

宇都宮徹壱

日本に一番足りないのはシンキングスピード

「メッシが生きるのもイニエスタ(写真)のおかげ」と城氏が語るように、バルセロナのサッカーは彼なしで成り立たない 【Getty Images】

――代表とクラブの違いはあるにせよ、来年のW杯イヤーを控え、サッカーファンが世界を意識する時期だと思います。世界との距離感をあらためて認識するために、クラブW杯のどういう部分に注目すべきだと思いますか?

 近年、日本も進化してレベルが上がったと思います。だけど世界も上がっているんですね。僕の感覚だと、2006年のW杯の前と比べると、少し離れてしまったかなという印象があります。ドイツ大会の前までは近くなったという気もしたんですが、W杯が終わってから一気に離されたという印象です。
 サッカーはチームの連係力やいろいろなものがありますが、やっぱり個なんですね。1対1の強さだったり、ボールを奪われない、奪い返す、ここが究極だと思います。それに対して連係力が出てくる。その個人のスキルの差をすごく感じています。昔はサッカーの本にヘディングの仕方や、ボールの蹴り方、足首の軸足はこう置いてとか書いてあってそれをやっていたわけですが、もはやそういう時代ではなくなってきています。いろいろなゲームを見ながらトラップの技術や、ボールの蹴り方など、細かいところまで見てもらうと、世界との差やアイデアが見られるんじゃないかと。日本の選手がやらないようなコントロールだったり、身体の使い方を見てもらいたいですね。そういった部分を世界基準として比較して、ここは通用するのかなと感じながら見てもらうと、すごくいいと思います。

 僕は選手にも見てほしいですね。やるのはもちろん経験になります。スピード感や、見ている以上のものを肌で感じられます。でも見ることもすごく大事で、客観的に見てこういう動き出し、こういう場面では何をしたのか、そういうところを選手も含めて、日本のみんなが見て、どうすれば世界に通用するのか、その課題を見つけて修正していければと思います。

――アフリカ人選手のようなプレーは日本人には無理なんでしょうが、メッシのようにあれだけ線が細くても強い相手、高い相手に対して互角以上に戦えるというのは、日本のプレーヤーにヒントが隠れていそうですね

 そうでしょうね。もちろん線が細いけど、爆発的な瞬発力だったりいろんな部分が違いますけど、一番は頭のスピードですね。次の展開力、次に何をするかだけではなくて、そのもっと先までイメージして、それがチームとして共有できている。そこが大きな差だと思います。50メートルで2秒、3秒違うわけじゃないし、コントロールする技術も日本は高くなってきています。だけど足りないのは、シンキングスピード、判断ですよね。そのスピードが上がり、イメージを共有できる人数が1人から2人になって、2人が3人になって、そうすると日本が今目指しているボールと人が連動したサッカーが繰り広げられると思います。

メッシがバロンドールを取れたのもイニエスタのおかげ

「ファンだけでなく選手にも見てもらいたい」。城氏はクラブW杯から得られる経験は大きいと語った 【宇都宮徹壱】

――城さんが個人的に注目する選手、チームを挙げてください。誰もが注目するメッシとバルセロナ以外でお願いします

 イニエスタですね。彼のゲームコントロールやポジショニングです。たぶんメッシが生きるのは彼がいるからなんです。彼とシャビ、この2枚看板は最高です。みんなメッシだ、イブラヒモビッチだ、と言うんですが、僕はまったくそう思わないですね。メッシがバロンドールを取れたのもイニエスタのおかけだと思います。それくらい好きな選手ですし、プレーを見ていて素晴らしい選手だと思います。

 チームで言えば、韓国の浦項ですかね。このチームは日本に近いものがあります。同じアジアで戦ってきて、どういう戦い方で世界に挑むのか。守備的にいくと思うんですが、今のアジアのレベルってどうなのと置き換えたときに、どのくらいできるのか。DF2人が代表クラスなので、どれくらい守れてどの程度攻撃に転じられるのかというのは注目ですね。浦項がチームとしてどこまで戦えるのか、これがアジアの基準になると思いますから。
 浦項はブラジル人監督なんです。すごく緻密な人でミーティングなどもすごくやると聞いています。勝つためのサッカーをやって、内容的には面白くない試合になるかもしれないですが、世界のトップと戦うために何ができるかというのを見てみたいですね。

――最後に、クラブW杯2009を一言で予想するとどんな大会になると思いますか?

 クラブで四六時中一緒にプレーしているので、質の高いサッカーが見られます。あとはバルサが、「よし、やってやろう」という気持ちになって、本気になってくれればいいですね。メッシは前回けがをして来れなかったですから、その悔しさはすごくあると思います。バロンドールを受賞して、そのプライドもあるでしょうし、魅せながら勝つサッカーを期待したいですね。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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