「イニエスタなくしてメッシなし」=城彰二氏が語るクラブW杯の見どころ

宇都宮徹壱

9日に開幕するクラブW杯の魅力を語った城氏 【宇都宮徹壱】

 いつもと違う師走である。少なくとも、私たち日本のサッカーファンにとっては。
 今年の冬、私たちは自分たちの国で、クラブ世界ナンバーワンの大会を目にすることができない。過去4大会、日本で開催されてきたFIFAクラブワールドカップ(W杯)だが、今年は遠く中東UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビで開催される。1981年にスタートした前身のトヨタカップから数えれば、実に28年ぶりに「世界一を決める大会」は日本から離れることとなる。頭では分かっていたことだが、サッカーファンの冬の風物詩が身近で見られないことについては、いちまつの寂しさを禁じ得ない。

 大会が(一時的とはいえ)日本から離れ、しかもJクラブも出場しない今回のクラブW杯。それでも、それなりに楽しみ方はあるはずだ。そんなわけで、今大会の楽しみ方のヒントを得るべく、元日本代表のサッカー解説者、城彰二さんにお話をうかがうことにした。城さんといえば現役時代、バジャドリーの一員としてリーガ・エスパニョーラでプレーしており、今大会の優勝候補の筆頭、バルセロナとの対戦経験を持っている。また、日本代表として98年のW杯に出場した際には、現在エストゥディアンテスの中心選手となっているベロン(アルゼンチン代表)ともマッチアップしている。今大会を語っていただく上で、まさにうってつけの存在であると言えよう。

 そんなわけで、大会期間中は現地アブダビで解説するという城さんに、今大会の見どころや注目点、さらには大会そのものの魅力について語っていただいた。(聞き手:宇都宮徹壱 取材日:12月1日)

前回のバルセロナは1人に頼りすぎた

初のクラブW杯で世界王者を狙うメッシ(中央)。城氏は「ボールの置き所がすごい」と絶賛する 【Getty Images】

――今大会は初めてUAEでの開催となります。また、2大会連続で出場していた日本勢が不出場。その中で注目点を挙げるとすれば何でしょうか?

 フットボールの楽しさという意味では、一番楽しいゲームをするバルセロナが出場することが一番大きいんじゃないでしょうか。バルセロナは世界のフットボーラーがあこがれるクラブですし、戦術やパスワークからのわくわくするゴール前でのプレーがあります。あとはメンバーですね。世界でトップ10に入るぐらいの選手がピッチに立っていることが一番の魅力だと思います。

――バルセロナは世界で一番魅力的なサッカーをし、なおかつ強いチーム、と見られていますが、不思議とこれまで世界王者にはなっていません。前回出場した2006年大会時のメンバーと現在のチームにどんな差があるのでしょうか?

 前回はロナウジーニョ、デコ、グジョンセンが出場しました。選手個々の能力は現メンバーと比べても変わらないと思います。ただ、1人に頼りすぎたチーム編成だったかなと。ロナウジーニョの出来次第でチームが変わる。もちろん良い選手はいましたが、チーム戦術という意味では今のペップ(グアルディオアラ監督の愛称)の戦術とは全く違う。ロナウジーニョは頼られるだけの技量を持っていましたし、誰もがあこがれる選手で、絶頂期でもありました。チームとしても彼中心にやるのは当然だったという気もします。

――バルセロナというクラブは、選手の新陳代謝、監督もそうですが、ものすごくその動きに合わせるかのように、あるいは先を読むかのように変えていきますよね。そこはどうご覧になりますか?

 バルサというクラブは育成年代からそうですけど、戦い方など、(チームの)軸がぶれていません。ユースやジュニアユースのチームを見に行きましたが、トップチームと同じサッカーをしているんですよ。監督が代わっても同じサッカーを続けられて、そこにアクセントを加えていくというやり方。この軸がぶれないことがバルサの強さの秘訣(ひけつ)です。ロナウジーニョがいたころは当時のライカールト監督の色が出すぎたのかなと。ペップはずっとバルサでプレーヤーとしてもやってきたし、選手を1つの駒として扱うというか。その中でも、戦術眼や、ここは絶対に逃せないバルサの心臓という部分をスーパースターに頼らない。逆にイニエスタだったり、シャビだったり、心臓といわれる部分を大事にして、イブラヒモビッチやメッシをうまく機能させています。

メッシはボールの置き所がすごい

――先日、メッシがバロンドール(世界年間最優秀選手賞)を受賞しましたが、FWの立場から見てあらためてメッシのすごさは何でしょう?

 あれだけ小さくても(169センチ)、190センチぐらいの相手に負けないというのはボディーバランスがすごく優れていると思います。スペインで実際に会ってみましたが、彼は本当に線が細い。テベス(マンチェスター・シティ)のようにガチッとしていないんですが、体幹がものすごく強い。メッシは常に(相手選手の)プレッシャーがある環境で育ってきたようです。バルセロナに来る前のアルゼンチンでは、すごく狭いエリアで何ができるかというトレーニングをしてきたみたいなので、そういった積み重ねが生きています。
 彼の特長としてはよくドリブルと言われますが、僕はボールの置き所がすごいなと思いますね。相手の足を見ているんじゃないかと思うぐらいで、コントロールすると(相手の足が)出てこない、逆にわざと足を出させて、そこで自分の素早さで抜いていく。ロナウド(コリンチャンス)のように(ボールを)またぐことなしに、ノーフェイントでかわす。ボールの持ち運び方、道をうまく見つけて、そこに瞬発力がある。そういったものがメッシの一番の特長だと思います。

――今大会、おそらくバルセロナがタイトルに一番近い位置にいるかと思いますが、懸念されるのはハードスケジュールです。2日と5日に国内リーグがあって、9日にチャンピオンズリーグがあって、13日にまた国内リーグ。そして16日にクラブワールドカップの初戦を迎えます

 バックアップメンバーでもう1チーム作れるくらいの力がありますから、そのあたりは全然問題ないんじゃないでしょうか。前回バルサが出場したとき、ちょっと力を抜いているかなと感じたんですね。自分たちの力を過信していたのか、どこか「タイトルは取れるだろう」と。それが(蓋をあけてみたら)インテルナシオナルにやられてしまいましたよね。そういう意味では、クラブ世界一を決める大会の重さをあらためて認識したと思います。バルサの場合、決勝戦をどう戦うかがポイントになってくると思うので、ある意味、初戦でどんな選手を起用するのか注目ですね。たぶん、シャビ、イニエスタあたりは初戦から絶対に外さないけど、メッシ、イブラヒモビッチはあえて外してくるんじゃないかと思います。バルサの心臓と言われる部分は残して、バルサらしいサッカーができるように、なおかつ力を抜きながらでも勝てる選手を入れてくるんじゃないでしょうか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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