松井秀のワンマンショーで幕を閉じたワールドシリーズ
逆境に負けずたどり着いた頂点
松井秀はワールドシリーズ6試合で打率6割1分5厘、3本塁打、8打点の活躍でMVPに輝いた 【Getty Images】
ワールドシリーズ第6戦で4打数3安打、1本塁打。そしてシリーズタイ記録となる6打点。チームメートすら呆気にとられる猛打でヤンキースを27度目の世界一に導き、当然のようにMVPを獲得した。ケガを乗り越え、ここ2年間は定位置も保証されない逆境にも負けなかった。日本が生んだ最強のスラッガーが、渡米7年目にしてついに世界の頂点に立ったのだ。
「最高ですね。この日のために1年間も頑張って来たわけですから。何年もここにいましたけど、初めてここ(世界一)まで来れて最高です」
そう語った松井の第6戦での打棒を、一部の地元記者は「ニューヨークのベースボール史に残るパフォーマンス」と表現した。
まず2回裏にはフィリーズの先発ペドロ・マルチネスと8球に渡るバトルを繰り広げた末に、右翼席にたたき込む先制2ラン。続く3回には2死満塁でマルティネスに2ストライクと追い込まれながら、見送ればボールの高めの速球をセンター前に運んで2人のランナーをかえした。
「(第2打席は)ぽんぽんとファウルで追い込まれたんですけど、最後はアウトコース高めだと思います。ストライクに近いところだったけれど、うまく打てました」
松井は後にこともなげにそう振り返ったが、しかしこの時点でスコアはまだ2対1。直前に主砲アレックス・ロドリゲスが三振に打ち取られていたことを考えれば、この第2打席の適時打こそが今夜の最も重要なヒットだったかもしれない。
客席からこだました「MVP」コール
フィリーズ先発のマルティネスから先制2ランをたたき込んだ松井秀 【Getty Images】
「松井には何を投げても打たれてしまった。ハップのスライダーも打った。ペドロからの2安打は速球だったしね」
フィリーズのチャーリー・マニエル監督もそう感嘆した通り、今夜の、いや今シリーズの松井にとって、もう相手が誰であろうと関係なかったのだろう。
通算13打数8安打で打率6割1分5厘は史上3位(10打席以上)、3本塁打、8打点はチーム最多。
特に殿堂入り確実の名投手ペドロを、シリーズを通じて4打数4安打2本塁打1四球と完ぺきに打ち込んだ(おかげで筆者は試合中、ヤンキースファンがペドロを罵倒する「フーズ・ユア・ダディ!(おまえのご主人様は誰だ?)」の日本語訳を複数の地元記者から尋ねられる羽目となった)。
今夜の第4打席を迎えた際、松井はスタンディング・オベーションで迎えられ、「MVP」の大コールがスタジアムにこだました。契約最終年の、最後の試合でファンに見せた今季ベスト・パフォーマンス。終わってみればすべて筋書き通りと思えてしまうほどの、とびきり幸福な「ハリウッド・エンディング」。
松井自身の来季以降を考えても、この日の活躍の意味は大きかったと言って良い。これほどの大爆発の後では、放出の引き金を引くのは誰にとっても難しい決断になるに違いない……。
いや、去就の話はまた別の機会に譲るべきなのだろう。ニューヨークに久々にタイトルが戻って来た夜に、相応しい話題とは思えない。
そしてニューヨークの伝説に
レギュラーシーズンを圧倒的な強さで勝ち抜き、ポストシーズンに入って以降も昇竜の勢いだったツインズ、3年連続アメリカンリーグ西地区を制したエンゼルス、昨季王者フィリーズにすべて力の差を見せつけて一蹴した。そしてそのニューヨークが勝ち取った栄冠に、日本が生んだスラッガーも印象的な形で貢献を果たした。今夜だけは、それで十分なのだろう。
「マッティ(松井の愛称)は出会ったときからずっと勝負強い選手であり続けてきた。とにかく勝負強いんだ」
すべてが終わった後の、ジョー・ジラルディ監督のそんなシンプルなコメントも心に残る。実際にニューヨーカーは、昔も今も、「世界一の立役者」の勝負強さを忘れることはない。09年最後の夜に見せた松井の打撃は、これから先も、いつまでも、この街の人々の間で語り継がれていくに違いない。
<了>
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