「ベストメンバー」の真意=アジアカップ予選 日本代表6−0香港代表

宇都宮徹壱

岡崎のハットトリックで日本が圧勝

左サイドで存在感を発揮した長友。積極的な攻撃参加で起点となり、自らゴールも決めた 【写真は共同】

 終わってみれば日本の圧勝に終わったこの試合。さっそく、得点経過を中心に振り返ってみることにしたい。
 序盤から攻勢をかける日本、必死の守りで対抗する香港、という構図は90分間を通してほとんど変わらなかった。と同時に、両者の狙いもまたずっと明確だった。すなわち、両サイドから何度もクロスを供給してゴールを狙う日本に対し、香港はある程度サイドでの主導権を手放した上で、その分、中を固めて跳ね返す守備に徹していた。

 それでも先制したのは日本だった。前半18分、香港のディフェンスラインを貫くような長谷部のスルーパスが岡崎へ。受けた岡崎は、そのまま右に流れて得意の体勢からゴール左を突き刺すシュートを決める。地元、清水のファンを狂喜させる岡崎の凱旋(がいせん)ゴールが決まると、その後の日本は完全に試合の主導権を握った。前半29分には、ディフェンスラインの裏に抜けた岡崎が再びシュート。弾道は左ポストをたたくが、こぼれ球を拾った長友がDFをかわしていったん中に切れ込み、そこからニアサイドに強烈なシュートを突き刺してみせた。その後も日本はたびたびチャンスを作るものの、香港のオフサイドラインに引っかかり、2点のリードでハーフタイムを迎える。

 後半は、いずれもコーナーキックから、日本が2ゴールを挙げる。後半6分、遠藤のショートコーナーから大久保が中に入れて中澤が豪快にヘディングシュート。22分には、中村俊のコーナーキックをファーサイドに走り込んできた闘莉王が押し込んで点差を広げた。だが、そろそろ流れの中でのゴールが欲しいところ。それも、相手DFとGKの間を狙い澄ますようなクロスに、数人の選手がなだれ込んでゴールを決めるような――それこそ前日練習で何度も試みていたような、そんなゴールシーンが見てみたい。

 それに近いプレーが見られたのが、後半30分だった。長谷部からのスルーパスに、途中出場の徳永が右サイドで受けてドリブルで持ち込み、精度のあるクロスを供給。これに走り込んできた岡崎がピタリと頭で合わせてネットを揺らす。岡崎はさらにその3分後、佐藤(後半30分に大久保と交代)のシュートが相手GKにはじかれたところを着実に詰めて、この試合3点目をゲット。日本平に詰めかけた地元ファンを大いに沸かせた。日本代表でのハットトリックは、2000年10月に行われたアジアカップ、対ウズベキスタン戦で、高原直泰と西沢明訓が達成して以来、実に9年ぶりのことである。

 結局、6−0で日本が香港に完勝。圧倒的なスコアもさることながら、岡崎の代表での成長ぶりが、静岡のお客さんにとって何よりのプレゼントになったことは、間違いないだろう。その意味でも、この試合を日本平で開催したのは大正解であった。

岡田さい配の評価は「3試合トータルで」

 試合後の会見。いつものように無表情な岡田監督に対して「今日の6ゴールのうち、どれが最もうれしかったか?」という質問があった。指揮官はまず「僕は何でもいいです、ゴールが入れば(笑)」と言いながらも、こう続けた。

「駒野がディフェンスラインの裏に鋭いクロスを入れたのを大久保が入れなかったのと、前半に右サイドから長谷部だったと思うんですけど(実際には中村俊)、素晴しいクロスに3人、4人飛び込んでいったのに誰も触れなかった。それから、後半に左から俊輔がディフェンスラインの裏に素晴らしいクロスを入れたのに、やはりシュートミスだった。そういう方が印象に残っています」

 本当に正直な人だと思う。おそらく岡田監督は、この試合でクロスからいい形でゴールを決められることを最大の目標にしていたのだろう。これまでにも、ニアサイドからの飛び込みでの得点をテーマに掲げたことがあったが、9月のオランダ遠征での「クロスの成功率がどうしても低い」というデータから、より理想的なクロスからのゴールを選手たちにイメージさせ、それをこの香港戦で実践させることを求めていた。その結果として、ゴール寸前までの形はできたものの、文句なしのフィニッシュに至らなかったことが、指揮官としては不満だったようだ。
 とはいえ、もちろん収穫もあった。その筆頭は、岡崎のストライカーとしての覚醒(かくせい)が、もはや揺るぎないものとなりつつあることだろう。再び、岡田監督の言葉から。

「まだまだ雑なところもあるんですが、裏に出ていくとか、クロスに入っていくタイミングというのが、ゼロコンマ何秒感じるのが早い」

 その岡崎と並んで、先の欧州遠征以降、さらに一皮むけた長友の左サイドでの存在感が増したことについても、特筆すべきであろう。また、初キャップを刻んだ徳永、そして西川が(あまり見せ場はなかったが)、いずれも及第点以上の働きを見せたことについても、今日の収穫として十分に評価できるものであった。
 そうして考えると、森本や石川といった新戦力がベンチ入りしなかったことについては、今さらながらに悔やまれる。とはいえ岡田監督は、どうやら「慎重さ」だけで「ベストメンバー」を組んだわけではなさそうだ。それは、以下のコメントからもうかがえる。

「集まって2日で、まだ(チームに)慣れていない面があって、こういうところでいきなり公式戦というのは、ちょっとかわいそうかなと。今日、この試合を見ることによって、彼らも練習でやっていることのイメージができる」

 この言葉を好意的に解釈するなら、森本や石川が外されたのは、今後の試合で活躍してもらうための“親心”だった、ということになる。
 次のスコットランド戦までは、中1日。新戦力が試される可能性は、必然的に高まるはずだ。この日、岡崎の2点目をアシストした徳永について、岡田監督は「3試合トータルで」評価したいと語っている。指揮官のさい配についても、この「3試合トータルで」の選手起用と戦い方を見てから、私たちは評価を下すべきなのかもしれない。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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