「ベストメンバー」の真意=アジアカップ予選 日本代表6−0香港代表

宇都宮徹壱

台風一過で迎えたアジアカップ予選

岡崎(左)はホームでハットトリックを達成。ストライカーとして急成長していることをうかがわせた 【写真は共同】

 何とも奇妙な朝だった。
 8日の午前9時、静岡の上空は雲の流れこそ早いものの、昨日の大雨がうそのようにカラリと晴れ渡っていた。テレビをつけると「非常に強力」と言われ続けた台風18号は、東海地方を離れて北関東に抜けたようだが、依然として静岡は暴風圏を示すサークルの中に含まれている。それでも「台風一過」であることは間違いない。
 それから3時間後、日本サッカー協会の公式サイトは、この日のアジアカップ予選、日本対香港の日本平での開催を高らかに宣言。SARS(重症急性呼吸器症候群)の影響で大会そのものが延期となった、2003年5月の東アジア選手権(その後、同年12月に開催)以来となる代表戦の中止は、何とか回避されることとなった。関係者の多くが、安堵感で胸をなで下ろしたことだろう。

 さて、ワールドカップ(W杯)本大会まで8カ月を切った今月、日本代表は8日(香港戦)、10日(スコットランド戦)、14日(トーゴ戦)と、何と1週間で3試合を戦う。このうち、公式戦はこの香港戦のみ。FIFA(国際サッカー連盟)ランキングでは最も低い相手(128位)ながら、それゆえに決して負けてはならない相手である。とはいえ、最後にアジアカップ予選が行われたのは1月28日。今から9カ月前の話である。さすがに記憶が薄れている方も少なくないだろうから、簡単におさらいをしておきたい。

 今予選、バーレーン、イエメン、香港と同組の日本は、すでに2試合を終えている。熊本で開催されたイエメンとの初戦こそ2−1で勝利したものの、バーレーンとのアウエー戦では苦手意識が頭をもたげたのか、あっけなく0−1で敗戦。この結果、日本は首位の座をバーレーンに明け渡して2位に甘んじることとなった。2011年にカタールで開催される本大会に出場できるのは、予選グループ2位まで。3位以下との実力差を考えるなら、日本の予選突破はよほどのことがない限り堅いはずだ。それでも、不覚をとったバーレーンにもホームできっちり借りを返し、堂々の1位突破を目指すべきだろう。

 今回対戦する香港は、バーレーンに1−3、イエメンに0−1で2連敗しており、現在最下位。とはいえ韓国人のキム・パンゴンが監督に就任してから、着実なステップアップを続けている。台湾で行われた東アジア選手権予選では、地元台湾を4−0で一蹴。さらに44年ぶりのW杯出場を決めた北朝鮮に対しても、粘り強い守備でスコアレスドローに持ち込み、3大会ぶりの本大会出場を果たしている。しかし香港は、決して守備力だけで日本に挑むつもりはないようだ。キム監督は前日会見でこう語っている。
「われわれはフットボールをしに来た。だから十分に攻撃もしていくつもりだ」

指揮官が選んだ11人は、またしても!

 そんなわけで日本代表である。
 今回の3連戦にあたり、岡田武史監督は海外組6名を含む28名の選手を招集。森本貴幸、岩下敬輔、山本海人、そして石川直宏と、初招集のメンバーは4名(森本はオランダ遠征で選出するもけがのため辞退。石川は岡田体制になってから初)。これに西川周作、徳永悠平、佐藤寿人といった復帰組3名が加わり、全体の4分の1がフレッシュな顔ぶれとなった。ただし、前日午前の練習(午後の公式トレーニングは中止となった)に参加していたのは24名。残り4名はその日、Jリーグの試合があったためである。7日夜、豪雨のために後半29分で中止となったJ1第25節、鹿島対川崎が行われた。この試合では、岩政大樹と内田篤人、そして川島永嗣と中村憲剛が出場しており、この香港戦には出場しない(ただし川島は、山本がアジアカップの登録メンバーに含まれていないためベンチ入りしている)。

 今回の香港戦が台風の影響を受けず、予定通りに行われることになって良かったと思うのは、何も日程だけの問題ではない。実は私自身、メンバーの流動化と競争を促す意味でも、ぜひとも中止は避けてほしいと密かに願っていた。より具体的に言えば、レギュラーが半ば保証されている内田と中村憲に代わって、どの選手がどんな形で試されるのか、ぜひとも見ておきたかったのである。

 念のため申し添えておくが、私には内田と中村憲に何ら含むところはない。そうではなくて、今の段階からスタメンを固定化してしまうことで、日本代表が本来持ち得ていたであろう可能性が削がれてしまうことを、何より問題視しているのである。ところが岡田監督の場合、時折フレッシュな顔ぶれを招集するものの、やはり「分かっている」選手を起用する傾向が顕著だ。せっかくフレッシュな顔ぶれが招集されても、結局はベンチを温めただけでクラブに帰らせるというパターンが繰り返されてきた。こうしたメンバー固定化の傾向は、特にDFに顕著だが、中盤に関しても似たような状況が続いている。W杯までの8カ月は、ベスト4を目指すにはあまりにも短すぎるが、さりとてスタメンを固めるにはいささか長すぎる。チームコンセプトにより磨きをかけるのも大事だが、それと同時に選手層に厚みを加えておくことも、チームを進化させるためには必須であろう。

 そこで今回の香港戦である。内田の代わりに、バックアッパーの駒野友一が起用されるのは規定路線。だが、徳永が抜てきされる可能性も決してゼロではないだろう。では中村憲が抜けた中盤の左、もしくはトップ下に入るのは誰か。これまでの流れでいけば、オランダ遠征にけがで離脱した大久保嘉人だろう。だが、このところクラブでも代表でも出番が限られていた松井大輔を見極める、絶好の機会と見ることも可能だ。あるいは、中村俊輔と本田圭佑との共存というテーマに取り組むこともできるし、それと関連して5年ぶりの代表復帰を果たした石川の扱いも大いに気になるところだ。

 果たして、岡田監督が選んだスタメン11人は以下の通りである。
 GK西川。DFは右から駒野、中澤佑二、田中マルクス闘莉王、長友佑都。中盤は守備的な位置に遠藤保仁と長谷部誠、右に中村俊輔、左に大久保。ツートップは玉田圭司と岡崎慎司。何と、GKと右サイドバック以外は、ほぼ「おなじみの顔ぶれ」である。しかも、森本と岩下と石川はベンチにも入っていない。いくら公式戦とはいえ、かように慎重にメンバーを選ぶ指揮官に、軽い失望感を覚えたのは決して私だけではなかったと思う。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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