松井秀、絶対に落とせない一戦で放った一発 ヤンキースに“追い風”の滑り出し

畑中久司

相性のいいツインズ戦

プレーオフ地区シリーズ、ツインズとの初戦で試合を決定付ける2ランを放った松井秀 【Getty Images】

 ツインズの本拠地メトロドームで経験した忘れられない出来事がある。松井秀喜のメジャー2年目、2004年のことだ。

 ホーム側監督室だった。ヤンキースが勝利した試合後の監督会見に参加し、地元メディアの後方から敗戦の弁を聞いていた。話題が途切れたとき、ツインズのロン・ガーデンハイヤー監督は筆者を指差し、こう言ったのだ。

 ”Your guy killed us again.”

 簡単な言い回しだったが、地元メディアも合点がいっている様子で笑っている。筆者もすぐに理解できた。それ以上、質問する必要はないようにさえ思えた。

 「マツイにまたやられたよ」

 ガーデンハイヤー監督がそういうのには理由がある。松井はツインズに相性がいい。

 メジャー7年間で35試合に出場し、通算で打率3割2分5厘、6本塁打、26打点。10試合以上戦っているチームの中では最高の打率を残している。

 年度別に見ると――。

2003年:7試合 .320、1本塁打、9打点
2004年:6試合 .400、3本塁打、7打点
2005年:6試合 .435、0本塁打、4打点
2006年:3試合 .100、0本塁打、0打点
2007年:4試合 .313、2本塁打、3打点
2008年:4試合 .313、0本塁打、2打点
2009年:5試合 .250、0本塁打、1打点

 特に当初の3年間は爆発的に打っていることが分かる。ちなみに03、04年の地区シリーズでツインズと対戦し、ともに1本ずつ本塁打を記録している。

 ツインズ戦になり、ガーデンハイヤー監督の顔を見ると、件の出来事を思い出す。

風を味方にセンターへ本塁打

 10月7日(現地時間)、地区シリーズ第1戦。最近8年間で5度の地区制覇にチームを導いてきた名将は、今回もまた同じことを思っているに違いない。

<第1打席>
 投手:デュエンシング
 2回先頭打者。
 低めの速球を引っ掛けてセカンドゴロ。

<第2打席>
 投手:デュエンシング
 4回先頭打者。
 初球、外角への速球を引っ掛けてファーストゴロ。

 首を傾げたくなるような打席が続き、迎えた第3打席。2点リードの5回2死一塁だった。

 ツインズの2番手左腕フランシスコ・リリアーノが投じた外角への速球を、バットの芯よりも少し先あたりではじき返した。打球はセンターのフェンスを越え、「モニュメントパーク」に飛び込んだ。

 今季公式戦で打った28本塁打のうち、センターの距離表示よりも左側に入ったのは1本しかない。ポストシーズンの舞台でいつもと違う一発が出たのは、松井が大きな味方をつけたからでもあった。

 当日のニューヨーク地方は、朝から強風が吹き荒れていた。ホームから外野方向へ、試合開始時で秒速10メートル、瞬間最大では秒速15メートル。最上階席など球場の場所によっては、台風並みの強風を感じるほどだった。

 「打った瞬間は取れると思った」

 そう言ったのはセンターを守っていたデナード・スパン。俊足外野手が見せた打球の追い方が、異常な条件だったことを物語る。左中間方向へ膨らみながら追い始め、最後はほぼ定位置の真後ろで打球を見送った。

 「最後は風の一押しがあった。風がなかったら微妙じゃないですか」

 松井も風の助けがあったことを認めている。

 さらに、松井に味方したのはリリアーノへのスイッチ。通算対戦成績が4打数無安打の相手がマウンドに上がっても、松井はこう言った。

 「ピッチャーが代わって自分には良かったのかもしれない」

 デュエンシングと対戦した2打席を「打たされた」と振り返るように、どうしても合わない何かを感じていたのかもしれない。

 ポストシーズン通算7本目となる本塁打で4点差となってからは、ツインズの執念が薄れたような雰囲気を感じた。前日、地区優勝決定戦を行い、ニューヨーク入りしたのは午前3時だったという。

 本当の戦いは第2戦から――ツインズは最初からそう思っていたのではないか。だとすれば、ヤンキースは第1戦を絶対に落とせなかった。そこで公式戦のような戦いができたのは大きい。松井にだけではなくヤンキースにも“追い風”が吹いているように見える滑り出しとなった。

<了>
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