松井秀、勝負強さで勝ち取った地位=魔物潜むプレーオフへ向けて

畑中久司

最終戦で1安打「次につながる」

打率2割7分4厘、28本塁打、90打点の成績だった松井秀、果たしてプレーオフではどんな活躍を見せるのか? 【Getty Images】

 10月4日(現地時間)のレギュラーシーズン最終戦。6回、松井秀喜はレイズ先発のウェイド・デービスから中前打を放った。地区優勝が決まった9月27日のレッドソックス戦での逆転タイムリーから16打席ぶりとなるヒットだった。

「いい形で打てた。次につながるという意味でも良かった」

 そう言いながら浮かべる安堵(あんど)の表情が印象的だった。頭の中はポストシーズンのことで埋まっているように見えたからだ。

「現時点では(シーズンの)自己判断はなかなかできない」

 いまはまだ振り返るときではなく、あくまでもポストシーズンを含めて判断する、そんな宣言にも思えた。

 半年前を思い出してみよう。

 左ヒザ手術明けで首脳陣から与えられた役割はDH。しかし、ここ数年の傾向として、ベテラン選手の多いヤンキースは、DH枠を使って“半休養”に充てている。となれば、必然的に松井が立てる打席は少なくなる。

 初めから取り巻く環境は厳しかった。

 最終戦が終わって松井がポストシーズンを見据えられる立ち位置にいると断言できた人は、果たしてどれほどいただろうか。

「600打席にも到達せずにこの成績を残しているのは驚き。手術してすぐに以前と同じようにプレーするのは難しいのに、本当に素晴らしいことだ」

 そう言ったのはジョー・ジラルディ監督。少なくとも指揮官にとって松井の働きは“うれしい誤算”だったようだ。

プレーオフでは「5番・DH」

 456打数(527打席)で125安打。
 打率2割7分4厘、28本塁打、90打点。

 これが今季の松井が残した打撃3部門での成績だった。

 松井自身は「打率が低いという感じはある」と表現する一方で、本塁打に関しては「良くもなく悪くもない」と話した。メジャーでの7年間で、最低の打率と2番目に多い本塁打。一見、アンバランスにみえるギャップは、どう説明できるか。

「いろんな要素があると思う」

 松井はそのひと言だけで多くを語ってはくれなかった。分析する角度によってとらえ方が違ってくるからかもしれないが、打者としてのタイプが変わったと見るのも間違いではないだろう。

 成績以前にシーズンを通して気にしたのは、いかにして故障を避けるか。「今年は結果も必要だけど、ケガだけはしないようにしないといけない」。その思いが通じたことが松井には何よりも大きな意味を持っている。

 シーズン終盤に見せた勝負強さは、首脳陣にある決断を促した。ジラルディ監督は最終カードを前に、ポストシーズンで松井を「5番・DH」で起用する方針を明言。「ラインアップの中で重要な役割を担う選手だから」と説明した。

シーズン103勝とチーム力は充実だが

 ヤンキースは松井が入団した2003年以降で最多のシーズン103勝を挙げた。前半戦を貯金14で終え、後半戦は初戦から8連勝。たった1カ月で貯金は30になった。

 ちょうどこのころ、松井は地区優勝への手応えを口にしている。

「チームの状態はここ数年で一番いい。投手陣が安定しているから負けにくい」

 そこで聞いた。
 今年こそ最後まで行けると思わないか?

「いや、プレーオフはまた別の話だよ」

 少し厳しい表情に変わった松井は言った。

 ポストシーズンには魔物が住んでいる。例えば07年の地区シリーズ。突然、大量発生した羽アリがヤンキースの行く手を阻んだのは記憶に新しい。

 そして、必ずといっていいほどドラマが隠されている。

 選ばれし者だけが頂点まで行ける――。

 野球の神様は今季、誰に手を差し伸べるのか。

 新球場に移転して生まれ変わったヤンキースには?
 ピンストライプ姿が見納めになるかもしれない松井には?

 運命のチームを決める戦いがいよいよ始まる。

<了>
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