イチロー「気持ちのいいチームでしたね」=2009シーズンを終えて
前人未到の記録達成と連日のサヨナラ打
前人未到の9年連続200安打には9月13日のレンジャーズ戦で達成 【Getty Images】
しかしながら、残り5本としてアナハイムへ乗り込んだものの、そこで14打数1安打とブレーキがかかる。
記録へのフィーバーが障害の一つだった。
オークランドでは、せいぜい20人程度のメディア。それが一気に3倍となり、普段と比べれば10倍の報道陣がイチローのすべてを逃すまいと見つめる。
さすがのイチローも、戸惑いを隠さなかった。
「普通の環境なら、恐怖なんて出てこないですよ。試合数を考えればね。ただ、見知らぬ人が増えるので、(記録を達成)できない選択肢を取り除かれるわけですよね。そのときに恐怖って思う。今回の場合は、自分の中からくる恐怖じゃなくて、外からの影響で恐怖が生まれるっていう、なんか変な感じだった」
それをなんとか克服し、9年連続200安打という、100年以上も破られることのなかったメジャー記録を更新したのは、9月13日のレンジャーズ戦――ダブルヘッダーの第2試合のこと。
第1試合は午後12時35分に試合開始予定が、雨のために遅れて午後5時5分に。
第2試合の開始は午後8時となり、まばらな観客の前での達成には、どこか寂しさが漂ったが、イチローは「解放された」と、一塁ベース上で一人安堵した。
その後は、「ちょっと自由にやらせてもらう」と宣言。
9月17日と18日、連続で試合を決めたのは、そんな思いからくる結果だったのか。
特に18日はヤンキース戦。マリアーノ・リベラから放ったサヨナラ2ランは、本人も、「いやあ、なかなか忘れないでしょう」と試合後に振り返った。ドン・ワカマツ監督も今季、最も印象に残っているシーンを聞かれて、「イチローのサヨナラ本塁打だ」と答えている。
価値観を共有できたチームメート
試合に先立ち、チームは午後12時からミーティングを行ったが、ワカマツ監督がそれを提案したそう。
そのときイチローは、「最初、1周するって聞いたときは、ちょっとやりすぎなんじゃないかなあと思った」と言うが、チームは勝利を収め、そう流れたことに違和感はなかった。
イチローも、自然な形で入れたかと聞かれ、「だと思いますね。僕はそう思いましたけど」と答えている。
ケン・グリフィーが、三塁側のダグアウト前で担がれた。その時、グリフィーの引退を匂わせるセレモニーだったのかと思ったが、それはイチローが、「いや(そういう打ち合わせは)全然なかったです。途中でそうなった。うん」と否定している。
さて、1年を振り返ってイチローは、「いいチームだったなあ」と感慨深げに感想をもらした。
「単純に気持ちのいいチームでしたね」
そう思わせるもの。イチローには確信があった。
「価値観を共有できている感じが、すごくうれしかった」と話した後につないだ言葉が印象的。
「そんなことはもう、無理だと思っていたので」
そこには、昨季の強烈な孤独が透ける。
それを現象として、「(今季は)音楽を聴く時間が随分と減りましたからね。イヤホンを付けている時間が圧倒的に少なかったですから」とやや遠回りに説明したイチローだが、そこでグリフィーやマイク・スウィーニーが今年のチーム内で果たした役割については、触れるまでもなかった。
それでも届かなかったプレーオフ――。悔しさはあるはずだが、それを感じ出させない清々しさがイチローにある。
実は昨年も、シーズン最終戦の後に長いシーズン総括の記者会見があったが、チームに関する質問は1問だけ。あとは、すべてイチロー個人に割かれた。
対照的に今年は、ほとんどがチームに絡んだ質問。イチローもうれしそうに話す。
今度こそ本当にプレーオフを狙う基盤ができた――そういう感覚を共有できるチームメートがいる。
それ故の充実感が、彼の中ににじんでいた。
<了>