ジーターの見果てぬ夢=ヤンキースの球団記録を塗り替えたキャプテンの素顔
ワンマンオーナーも微笑
ヤンキースのジーターが球団最多安打記録を更新 【Getty Images】
9月11日(現地時間)― 。ジーターはライト前への一打で暗く沈んだ8年前の忌まわしい思いとは対極の新たな記憶と歴史をニューヨーカーに刻み込んだ。鳴り止まない熱狂的なスタンディング・オベーション。一塁の塁上でヘルメットを高々と掲げて応えるジーター。その一体感こそ、彼が特別な存在であることを象徴するシーンだった――。
「こういうことを想像もしなかったし、夢にも思っていなかった」と、35歳のジーターは試合後の記者会見で言った。「このチームでプレーすることが夢だった。その夢が実現したあとは、ここで長い間コンスタントなプレーができることだけを願っていた。だから記録を作るなんて、本当に考えられなかった」
ジーターは6歳のとき、熱心なヤンキースファンだった祖母に連れられ、初めてヤンキー・スタジアムを訪れた。その日から「ヤンキースの遊撃手」になるのが夢となった。
「審判を敬え、文句を言うな」と、父親にしつけられて野球を続けてきた。だから、クレームをつけることはない。きわどい判定で主審と言葉を交わすのは確認の場合に限られる。
「キミのじいさんはいい人かい?」と、ベンチにやってきた3歳ぐらいの女の子に声を掛けたのはフルシーズン2年目のこと。タンパのスプリングトレーニングでのひとこま。ベンチ周辺にいた全員が一瞬凍りついたが、すぐに爆笑に変わった。じいさんとはその女の子の手を引いていたオーナーのジョージ・スタインブレナーだったからだ。
毎年のように監督やGMのクビをすげ替えてきた超ワンマンオーナーを前に、そんな軽口をたたける選手など、これまでひとりもいなかった。新人王を獲得したばかりのジーターはまだ22歳で、195安打しか打っていなかった。そんな若者の、聞きようによっては生意気なひと言に対して、スタインブレナー・オーナーは微笑を返した。そのとき、球団の期待の大きさと、ジーターという選手の限りない未来が感じられた。
「今まで見てきた中で、最高のシーズン」とA・ロッド
しかし、彼は個人記録にまったく興味を示さない。
「チームスポーツをやっているのだから、何よりも勝つことがすべて」という考えを貫いている。従って、個人成績に関する取材を極端に嫌う。それは新人の頃から見事に一貫している。
98年から2000年までの3連覇以来、ヤンキースはワールドシリーズ優勝から遠ざかっている。
「ヨギ(ベラ)が10回獲っているのなら、オレは11回を目指す」と言ったのは、4回目の優勝を果たした00年のワールドシリーズ後のことだった。そのときは、実現可能に思えた。それほどヤンキースは充実していた。
優勝から見放されている間に、ジーターは11代目の主将に任命された。当然、責任が重くのしかかる。毎年のようにやってくるビッグネームの配慮や、新人のケアも必要になる。役割はしばしばフィールド外にも広がる。
「オレの英語の先生はテレビとデレックだよ。彼にはよく食事に連れて行ってもらい、英語を教えてもらった」というのは、アルフォンソ・ソリアーノ(現カブス)だ。
チームはまとまったが、勝てない。そして、フルシーズン1年目からの指揮官、ジョー・トーリ監督が去り、慣れ親しんだ球場とも別れを告げた。
しかし、ジーターの勝利への執念はいささかも衰えるところがない。
「今はチャンピオンリングをもうひとつ増やすことだけを考えている」
そのチャンスが巡ってきた。地区優勝へのマジック減らしは順調に進んでいる。一番打者として、打率3割3分2厘、17ホーマー、64打点、出塁率3割9分9厘、26盗塁をマークして快進撃を支えてきた。
「今まで見てきた中で、最高のシーズン」と、僚友アレックス・ロドリゲスが太鼓判を押すほどの調子。
5回目の世界一を目指す戦いは、これからが佳境だ。そして、その先に続くベラを超える栄光のチャンピオンリング。ジーターの見果てぬ夢は続く。
(成績は現地時間9月15日の試合終了時点)
<了>
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