武藤敬司25周年記念 特別インタビュー最終回

スポーツナビ

武藤、三沢さんを語る

武藤が改めて語る三沢さんへの思い 【t.SAKUMA】

――さて、04年にノアの東京ドーム大会で故三沢光晴さんと初対決をされました。ずっと“天才”と比較されて、ついに対峙することになりましたが対戦が決まったときはいかがでしたか?

 別にそんなに臆することもなければ、何もないんだけど。ぶっちゃけた話、俺が新日本にいて彼が全日本にいるころは、比較はされたけど俺は新日本の現場で忙しいし外を向いてないじゃん。向こうもきっとそうだと思う。マスコミが騒ぐほど、そんなにお互い意識はしていない中、おそらく意識し始めたのは俺が独立して向こうも独立しているときだよね。

――武藤さんが全日へ行き、三沢さんもノアを設立したころですか

 多分、境遇が一緒というようなところでね。言うなれば、うちが両国で大会(04年7月18日、三沢vs.小島聡)があってプラス俺の20周年記念大会(04年10月31日、武藤&三沢組vs.馳&佐々木健介組)がある中で、向こうは東京ドーム大会(04年7月10日、三沢&小川良成組vs.武藤&太陽ケア組)があって、バーターだ(笑)。

――ああ(笑)

 たださ、やっぱりなんだかんだ言って、俺は新日本プロレスで猪木さんの門下というかそういう所で育って、三沢(元)社長は馬場さんの所で育っている。で、馬場さんというのはおそらく、力道山から始まって馬場さんに伝わって“保守本流”なんだよ、きっと。だから馬場さんがいる時代はアメリカも保守本流のNWAと付き合っていて、NWAの選手たちが来たり。NWAの選手たちはアメリカ行ってもスターばっかりだ。ハーリー・レイスとかドリー・ファンク・Jr.だとか。みんなアメリカでも通用する連中が(全日本に)来ていた。

――70年代〜80年代の全日本ですね

 ただ、猪木さんというのはその反対に行っているから。異種格闘技、無名でもタイガー・ジェット・シンとかビッグバン・ベイダーとかを作り上げる……そこには考える力も生まれるし、要は“攻める”体質。それは多分、俺と一緒じゃん。受け継いでいる部分。

――確かに武藤さんは攻める企画が多いです

 一方で、保守本流の“守る”。これはプロレスのリングにも入ってるし。だから(三沢さんは)“守りの天才”って言われていたけど、もしかしたらそのキャッチフレーズって“受身”だけのことじゃないような気がする。

――それは戦ってみて感じたんですか?

 そうっすね。“動かざること山の如し”みたいなイメージだよね。俺は何でも攻めていくからさ。失敗してでも攻めていくものだと思ってやっているから。そういう違いは何となくありそうですよね。

――なるほど。さて全日本としてはそのころから“パッケージプロレス”が確立されていたと思いますが、当時からファンには自信を持って提供していたという自負はありますか?

 まぁまぁ地に足が着いたビジネスとしているなというね。どこの世界もそうで余力はないのかもしれないけど、やってて面白いですよ、今でも……逆に三沢社長の方が、ファンが追い求めているものが強すぎて、やっぱり“四天王時代のプロレス”とかその辺からまだ離れきれてないんじゃないかなと。もしかして分からないけど、それが今回の事故につながったとも予測されるし。

 俺のパッケージという部分、言葉の意味には1試合目から第7試合まで極力かぶる試合がないようにする。かぶることもあるかもしれないし、心がけている部分ではあるけど、途中お笑いが入ったりして意外とかぶらない。

――確かに全日本はシリアス、お笑い、若手、ヒールなど分かりやすく並べられている気はします

 心がけているのは、かぶる試合はイヤなんです。なぜかと言うと、セミファイナルでバックドロップを5発打ったら、メーンでは6発打つとか、そういうやり方。かぶるとそうなるわけだから。5試合目でバックドロップを3発、じゃあ6試合目で6発。こっちは10発やろうとか。俺からしてみたら、それはナンセンスだなと思っている。

――そういう意図があってパッケージプロレスは作られているんですね

 まぁこんなものは勝手な俺の持論であって。今の全日本は自然にそうなっているんだけど、うまい具合にさ。

武藤「(船木には)それほど期待もしていない」

電撃参戦・プロレス復帰を果たす船木(右) 【t.SAKUMA】

――分かりました。それでは8.30両国国技館についてお聞かせください。まず、武藤&船木組vs.蝶野&みのる組というすごいカードが組まれました。この組み合わせは武藤さんのアイデアなんですか?

 そうだよ。

――船木さんのプロレス復帰を含め、いつぐらいから考えていたんですか?

 早くからアバウトには思っていたよ。もうかなり前から思い描いていたかもしれない。そのパズルの1つには、コマの中にインプットはされているじゃない、なんとなく。

――思い出をくすぐられるような試合ですが

 25周年といういい区切りとしてね。

――まずどう考えても船木さんが……

 中心になるんだわ、これは(笑)。

――自身の25周年記念ではあるんですけどね(笑)。でも久しぶりのプロレス復帰ということで、サポートしようという考えはあるんですか?

 だって分かんねぇじゃん、どれぐらいなんなのかって。一切、未知じゃん。でもそれがこのマッチメークの一番の面白いところであって。予定調和にならない……全然分からない。どれぐらいの出来なのかも分からないから。

――船木さんは全日本の道場で練習されているそうですね

 合同練習に参加している。だけど周りの話を聞くと、非常にいいらしいね、やっぱり。あとムキになってやっているらしいね、若者に負けないように。道場も暑いしさ。

――武藤さんが船木選手に期待するものはなんですか?

 別にいい試合をどうとかではなく……なんかもう、それほど期待もしていないですよね。

――そうなんですか(笑)

 ぶっちゃけた話、マッチメークが決まって、あとはもうその時点で感無量で十二分に満足しているというかさ。あとはどうにでもなれというような(笑)。だって、意外と俺はあんまり知らないんだけど、鈴木と船木の仲だっていろいろあるらしいよ。

――何か深いものがあるような雰囲気ですよね

 その中で、そこまで期待してもしょうがないじゃん(笑)。ここにとりあえず集まったってことがね。あとは感情むき出しにしてどうなのかというのは分からないわ。

――どうにでもなれと

 たださ、さっきも25周年の生い立ちを言っている中で、みんな(プロレスラーとしての)出足で同じ釜の飯を食っているんだ(全員デビューは新日本プロレス)。当時の新日本はプロレスの思想というか、いろいろなものが交ざって結局みんなが別々の道を歩いていったんだわ。途中まで俺と蝶野、船木と鈴木は一緒の道だったけど、それも途中で割れてさ。で、この25周年というくくりのもと、とりあえず1回集まるわけだ。それは非常に感無量というか。

――運命であり、必然の再会ですね

 ただ、やっぱりさ、ある意味、生き様もぶつけなきゃならない。プライドもぶつけなきゃならない。そういう部分のぶつかり合いはきっとあると思うんだよね。それは何となく譲れないところもあるわけであって、おのおのがそう思っている。そこがうまくスイングしなかったらグデグデの試合になるかもしれないし。

武藤「三沢社長の置き土産…やっぱりプロレスは面白いんだと証明したい」

「やっぱりプロレスは改めて面白いんだよということを、この興行で証明したい」 【t.SAKUMA】

――試合の展開はまったく想像できませんか?

 分からないですね。やっぱりキーポイントは船木だから。振り幅がどうなのか全然分からないから。感情も分からないし。鈴木が(船木のことを)どう思っているのか。蝶野もどう思っているのか。蝶野と俺、鈴木と俺のラインというのは25年の中で見ている部分もあるから。やっぱりマンネリという部分では船木(のライン)に劣ってしまうもんな。だけど、船木に負けず劣らずがんばろうとは思っているよね。

――ご自身にとっても楽しみな試合になりそうですね

 これが一点で終わるのか、これからまた生まれていくのか。これも分からない。まぁ過去・現在・未来をみんな見せたいですよね。

――続いて高山善廣vs.諏訪魔の三冠戦についてです。展望はいかがですか?

 諏訪魔を見ているけど、すげーストイックに練習しているよ。肉体も変わっているから。

――諏訪魔選手が三冠を取れる可能性は高いですか?

 十二分にチャンスはあるでしょ。で、ボチボチ取ってもらわないとさ、やっぱりGURENTAI中心というのも、そろそろ飽きてきたしさ(笑)。まぁ俺も三沢社長も比較されている中でさ、接点が1回しかない中で比較されてきて、ノアは新しい選手(潮崎豪)が(GHCヘビー級ベルトを)今現在巻いているわけで。諏訪魔も早く刺激を受けてがんばってほしいよね。

――それでは最後に両国大会や、自身の25周年以後に向けてメッセージをお願いします

 これから先は、今やってて楽しいからいいんだけどさ……1つ、今年、三沢社長のことがあって、俺も文部科学部会に行ったりしたけど(三沢さんの死亡事故を受け、馳自民党文科部会長の呼びかけで3つのメジャー団体幹部が話し合いの場を持った)、なんだかんだ三沢社長が置き土産としてプロレスという活字をすごく露出させて知名度も上がっている中、今は逆にチャンスのような気がするんだよね。これはノアだけじゃなく、プロレス界にとってのことだと思うからさ。やっぱりプロレスは改めて面白いんだよということを、この興行で証明したい。

――ありがとうございました

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