大宮、原点回帰へのリスタート=リーグ再開後の3連戦に懸ける

土地将靖

山場となる3連戦に向け攻撃力アップへ

新加入のブラジル人FWラファエル。長身だが、足元の技術にも長けている 【写真提供:大宮アルディージャ】

 湿気と熱を多く含んだ空気ではあるが、都心のそれよりは幾分和らいだ感がある。グラウンド脇の林では、カブトムシやクワガタも目にすることができた。そんな自然に囲まれた静岡県御殿場市の時之栖グラウンド。人工的な音が何もない中でボールを蹴る音が、そして、時折笛の音と低くしわがれた声が響いてくる。

「いいか、それが原則だ。忘れたらダメだ」

 紺地にオレンジのラインがあしらわれた練習着に身を包んだ選手たちは、それまでのプレーを止めると声の主に視線を集め、その指示に神経を集中させる。声が止まると笛が鳴ってプレー再開、そしてその繰り返し――。サッカーしかない4日間。大宮アルディージャの夏季キャンプは、ピンと張り詰めた緊張感に包まれていた。

 第20節のアルビレックス新潟戦をスコアレスドローで終えると、選手たちは2日間のオフに入った。それまでの連戦での疲れを癒やし、2週間後に再開されるリーグ戦に備えるためだ。
 特に、再開初戦のジュビロ磐田戦からの3試合は大きな山場となる。9位の磐田、11位の横浜F・マリノス、16位のジェフユナイテッド千葉と、順位の近いチームと中2日での3連戦。J2降格圏である下位3チームを引き離すと同時に、目標である5位――ACL(AFCチャンピオンズリーグ)出場権獲得なら3位以内を射程圏内に収めるために、何としても結果、すなわち勝利が必要となる。

 勝つためには、当たり前だが最低1つはゴールがなければならない。しかし、7月以降に大宮が挙げたゴールは5試合でわずかに2。4試合が無得点に終わっている。
 象徴的な試合が直近の新潟戦だ。アウエーながら上位チーム相手に引き分けて勝ち点1を分け合った。その結果だけを見れば十分なのかもしれない。だが、中盤のフォローもなく孤立した2トップに、ただロングボールを放り込むだけでは、チャンスが生まれるわけはない。
「(攻撃が)あまりにも単発過ぎて、点を取れる雰囲気を作れなかった」(藤本主税)
 FW陣が前線での守備役に追われている現状では、勝利など望むべくもない。もう一度、得点への期待に満ちた勢いを、縦への速さを取り戻さなければならないのだ。

「原則」の浸透――組織と連動性

「心身のリフレッシュ」と「切り替えの速さ」

 張外龍(チャン・ウェリョン)監督は、この2点を大きなテーマとして8月4日からの夏季キャンプに臨んだ。運動量を要求される大宮のサッカーにおいて、フィジカルコンディションは重要なファクターだ。短期間ながらみっちりと鍛え、再開後の連戦を乗り切る体力を養わなければならない。その体力をバックボーンに、今季の原点である攻守の切り替えの速さを取り戻す。そうして初めて得点が、そして勝利への光が見えてくる。

 7人対7人のミニゲームで張監督は、トップに位置した選手のファーストアプローチと、それに対するほかの選手の連動、特に最終ラインの押し上げを強調した。これが、冒頭に挙げた「原則」である。
「高い位置でボールを奪える時ばかりじゃない。自陣に引いたところからいかにラインを上げていくか。そのためには相手にバックパスをさせなければいけないし、正しいポジションからアプローチしなければそうはならない。でも、それは選手個々でやっていてもダメ。連動してやっていかないと」(大橋浩司ヘッドコーチ)

 常にこちらの都合でゲームが展開されるわけではない。そんな中でも、チームが組織として連動することによって、優位性を持つことができる。そのための「原則」。張監督は局面局面でプレーを止め、ディテールまで追求し、あらためて選手の体に染み込ませた。
「グアムや西都(宮崎)のキャンプでも、ここまでやっていなかったかもしれない」
 練習を見ていたクラブスタッフも驚くほどの精密さは、シーズンをある程度こなした今だからこそ、選手たちに浸透していくものなのだろう。指揮官の教えを漏らさず、自らの物にしようと、彼らの視線は一点に集中していた。

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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