補強を行わないヴェンゲルの“確信”=東本貢司の「プレミアム・コラム」
出入り双方が控えめのプレワールドカップ・シーズン
アデバヨールとコロ・トゥーレを放出したアーセナル。ヴェンゲルに勝機はあるのか 【Getty Images】
このオフは、すっかりマンチェスター・シティー(とレアル・マドリード)の“バラマキ”事件に毒気を抜かれたのか、そのシティー、および、数だけはせっせと集めまくっている昇格組を除いて、総体的に補強が進んでいない。いや、出入り双方が控えていると言った方がいいだろうか。おそらくは、プレワールドカップ・シーズンということも少しは影響しているのかもしれない。代表プレーヤー(特に代表入り当落線上にいる面々)にとっては、下手に動いてしまってレギュラーが確保できない結果になってはまずい。また、新天地でいいところを見せようと気張りすぎて故障したりすれば、それこそ元も子もない。
もう一つ、プレミアは他国の同レベルリーグに比べて消化する試合数が多く、とりわけチャンピオンズリーグ出場組の“4強”は、ほぼ週2試合単位でシーズンを乗り切らねばならない運命にある。つまり、特に異邦の戦士たちにとっては、経験したことのない試合過多による疲労か、ローテーションシステムの二番手グループに甘んじるかの、いずれかを覚悟しなければならなくなる可能性が高いのだ。
ここまでの移籍状況を眺め渡せば、移動したほとんどのプレーヤーが「代表確定組」もしくは「今のところ代表とは無縁」のいずれかだということが分かるだろう。いずれにせよ、そんなこんなの思惑が働いているという事情もないとは言えない、という話である。
ヴェンゲルが白旗を掲げた?
ところが、アーセナルだけはその評価基準から外れてしまっている。アデバヨールとコロ・トゥーレを放出した“まま”だ。唯一の新戦力、若いベルギー人のヴェルメレンを即戦力と計算するのはさすがに早計。そこへもってきて、プレシーズンにナスリが骨折で晩秋までのリタイアが確定、やっと復帰したはずのロシツキーも再び故障再発の“ダブルパンチ”で、さらにマイナスポイントが増えてしまった。エドゥアルド? ブランクが気になる……。
誤算はまだある。狙いを絞ったマルーアン・シャマク(ボルドー)、マイクル・ターナー(ハル)は、それぞれの所属クラブの抵抗にあって見込み薄。仇敵スパーズが獲得に乗り出すというニュースを聞いて黙っていられなくなったのか、ヴィエラ(インテル)の“出戻り獲得”に心が動くも、その後進展なし(まだ芽はなくもないが。とりわけ、まかり間違ってファブレガスのバルサ移籍が実現してしまうような場合には)。
数多の“逆境”のすべてをグイッとのみ込んでか、アーセン・ヴェンゲルは10日、悪く受け取れば白旗とも聞こえる「開き直り発言」をした。
「現有戦力で開幕を迎えることになる。元より(わたしが進めてきた)チーム作りの主眼は“底上げ”であって、安易な“追加”に頼るものではない」