異なる野球文化へのアジャストメント=日本野球とMLB経験者の証言

カルロス山崎

時には楕円形のボールも!?

今シーズン苦戦している松坂は、依然アジャストメントの途中なのだろうか 【写真は共同】

 米国で地下鉄やバスなどに乗っていると、携帯電話で通話している乗客を目にする事がよくある。これが日本なら、周囲から白い目で見られそうなものだが、 米国ではこれが日常(一部の地域では違うかもしれないが)であって、“マナーモードうんぬん”の車内アナウンスもない。だが、アメリカ人が日本に行けば、通話をしないようアジャストメントが求められるはずだ。

「adjustment」=適応、適合、調整、調節……

 これまでに何度、「アジャストメント」という言葉を聞いた事か。例えば2007年、井川慶のメジャー1年目ではジョー・トーリ監督(現ドジャース監督)が、松坂大輔に関してはテリー・フランコーナ監督やジョン・ファレル投手コーチが、「彼は今、米国の野球にアジャストメントしているところなんだ」などと、度々口にしていたのを思い出す。

 日本から米国に来た野球選手の多くは、さまざまな違いに戸惑う。投手なら固いマウンドや滑るボールに対して、打者ならツーシームなどの動くストレートや、外に広いと言われているストライクゾーンに対して。とはいえ、これはほんの一例に過ぎない。選手によってとらえ方はさまざまだろうが、例えば、現在、メッツ傘下3Aバファローで先発投手としてのルーティーンに取り組んでいる高橋建は、こう感じている。

「食事、練習方法、言葉……。すべてが違うし、すべてクリアできていない。ボールなんか明らかに違いますよ。例えばこっちのボールは、審判からもらって、パッと持ってみると“なんだ、この楕円形は!”というのもありますし、ハッキリ言って、気にしていたら切りがないんです。確実に、日本製のボールは素晴らしいし、質が高い。日本では恵まれていたと思いましたね」

 マイナースタートで開幕を迎えた高橋だったが、4月末にはメジャーに昇格。カギになったのは、制球の良さだった。

「ストレートが130キロ後半から140キロ前半のピッチャーが、こっちで通用するためには、やっぱり、何かを求めていかなくてはならない。僕の場合、コントロール。具体的には低めに投げること。そこを、人より強い意識をもって臨めるか、最終的にはメンタルだと思いますね。あと、どれだけ(さまざまな違いに対して)気にしないでいられるか」

日本でプレーする外国人選手の戸惑いは

 一方、日本でプレーする外国人選手はどのような違いに戸惑い、適応しようと努めているのだろうか。6月2日、東北楽天イーグルスのダレル・ラズナー投手(元ヤンキースなど)はこう話してくれた。
「日本では、(先発投手の場合は)登板間隔がある分、投げ込みの量(球数)も多い。フラストレーションを感じる事もあるが、今はいろんな事を学んでいるところで、徐々に良くなっていくと思う。(日本の)ボールは問題ないが、マウンドは軟らかいというか、軟らか過ぎる。このアジャストメントは正直言って、簡単ではないが、それでも慣れていくしかない」

 この日、阪神戦に登板したラズナーは、7回8安打2失点で3勝目をマークし、お立ち台にも上がった。球数は135を数え、「こんなに投げたのは大学以来かもしれない。でも、中4日ではないし、大丈夫だと思う」と前向きにとらえたが、これを最後に、勝星から遠ざかっている。

 中日(03〜06年)、広島(07〜08年)でプレーしたアレックス・オチョア(08年限りで引退し、現在はレッドソックスのアシスタントコーチ)は、来日当初に受けた衝撃について、次のように振り返った。

「早い回の、無死一塁で送りバントというベンチの作戦にとても驚いた。それと、例えば無死三塁での守備。内野手は必ず前進守備で、正直、最初は“ヘイ、何をやっているんだ!?”って心の中で叫んだよ(笑)。でも、それが日本の野球なんだ。とにかく、自分の考えを変えるしかないと思ったし、少しずつ、いろんなことを理解できるようになった。あの頃、僕はドラゴンズで成功したかったから」

 試合展開にもよるが、米国では無死三塁だろうが、一死二、三塁だろうが、内野が前進守備隊形をとることはほとんど見られない。つまり、定位置が多い。これは“失点1はいい”という考えがあるが、「前進守備=相手のヒットゾーンが広がること」を避ける、要するに定位置で次のアウトを確実に取るための最善策をとるという考えの方が強いように思う。

 現在、レッドソックスの中継ぎ投手として活躍しているラモン・ラミレスは02年、広島カープの二軍でプロ投手としてのキャリアをスタートさせた。同郷のアルフォンソ・ソリアーノ(カブス)も広島時代、「生卵をごはんにかけて食べるなんて、衝撃的だった」という経験を持つが、ラミレスも生活の中でのアジャストメントに苦労したようだ。

「最初に、日本式のリスペクトに戸惑った。日本では、年上の人、センパイは必ずリスペクトしなければならない、と教えられてね。そのことを理解し、実行するのに苦労したかな。僕の国(ドミニカ共和国)では、例えばチームメートだったら、年上だろうが、年下だろうが、みんなアミーゴ(友達)なんだ」

 そんなラミレスも、03年から米国に渡り、1A、2A、3Aとステップアップしていったが、「日本のボールに慣れてしまった分、最初は米国の滑るボールに対応するのはちょっと難しかった」という。だが、「人それぞれだろうけど、対策はある。それよりも、気にしたって何も始まらない」ということが、彼が出した結論のようだ。

「プロセスをエンジョイするのがいい」とヒルマン

日米両方で監督経験のあるヒルマンはシンプルな意見を述べた 【Getty Images】

 ラミレスとは時期がかぶってはいないが、広島カープのブラウン監督は、米国流を選手たちに強いるのではなく、どちらかというと日本流を尊重する方向で舵取りをしているようだ。彼の話も興味深い。

「日本の選手が、毎日のように300回、あるいはそれ以上のスイングをするのは理解できなかった。米国に、そんな選手はまずいない。しかし、日本に来て、日本のやり方もあると考えるようになった。例えばある選手が打ち込みが必要だというのであれば、私は打撃投手を務めるなど、彼の助けになることをしたい。これが私にとっての大きなチャレンジであり、アジャストしてきたことだ」

 日米の野球、文化、習慣などの違いについて、身をもって経験した一人、北海道日本ハムで指揮を執っていたロイヤルズのトレイ・ヒルマン監督は実にシンプルな意見を持っていた。

「もし、米国から日本へ行く選手がいるとしたら、日本の文化や習慣、野球そのものに対して、自らを調整する必要があるぞ、と助言したい。日本の文化や習慣を尊重し、監督、コーチを信じる事だ。マウンドやボールの違いについては、調整するしかない。なぜなら、それらは自分では変えられるものではないのだから。むしろ、その経験、プロセスをエンジョイするのがいい」

<了>
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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