第2回 劇的な幕切れ(6月21日@プレトリア)=宇都宮徹壱の日々是連盟杯2009

宇都宮徹壱

わずか8分間で崩壊したイタリアの守備

イタリアの守備を打ち破ったブラジルが完勝を収めた 【Getty Images】

 前半は攻めるブラジル、守るイタリアという、実に分かりやすい展開。ロビーニョとルイス・ファビアーノの2トップに、トップ下のカカ、そして右サイドバックのマイコンが、中盤から巧みな仕掛けを作ってはチャンスをうかがう。対するイタリアは、カンナバーロとキエッリーニのセンターバック、そして守護神ブッフォンを核として、ブラジルのスキルとスピードに冷静に対応している。きっ抗した状況が続く中、次第に攻勢を強めるブラジルは、ルイス・ファビアーノ、ロビーニョが相次いで惜しいシュートを放つ。特に前線で存在感を示していたのは、スペインのセビージャに所属するルイス・ファビアーノ。相手DFを十分に引きつけてから鋭いスルーパスを出したり、そうかと思うと長いスルーパスに反応してブッフォンに突っ込んでいったりと、うまさと貪欲さがよい具合に共存した天性のストライカーぶりを発揮している。

 そのルイス・ファビアーノが、イタリアの堅い守りをこじ開けたのは、前半37分のこと。マイコンが左足で放ったシュート気味のボールを、オフサイドラインぎりぎりでルイス・ファビアーノが拾い、反転しながらゴール左隅を突き刺す。これにはブッフォンも反応し切れず、ついにブラジルが分厚いイタリアの壁に風穴を開ける。だが、ブラジルの本強発揮はここからだった。43分、ルイス・ファビアーノ、ロビーニョ、カカとボールが渡り、左サイドからカカが低いクロスを供給。これをロビーニョがスルーして、またしてもルイス・ファビアーノが豪快にネットに突き刺す。さらにその2分後には、ロビーニョの左からのクロスがイタリアDFドッセーナのオウンゴールを誘って3点目。ブラジルは、わずか8分間で3ゴールを挙げて、イタリアの守備を完全に崩壊させた。堅守を誇るイタリアが、前半だけで3失点。誰もが予想のしなかった展開である。

 後半は、ややこう着した観のある目前のゲームよりも、むしろルステンブルクの状況が気になって仕方がなかった。前半を終えて、米国が1−0でエジプトをリード。この時点で、勝ち点でブラジル以外の3チームが並び、得失点差でエジプトが2位に浮上した。イタリアとしては、とにかく攻めるしかない。後半、死に物狂いで相手陣内に殺到するイタリアであったが、この日のブラジルは守備面でも抜かりはなかった。相手の動きを的確に読み、人数をかけてしっかり囲んで未然にピンチを防ぐ。イタリアの猛攻が、なかなか実を結ばないうちに、ルステンブルクでは米国がさらに2点を追加して、3−0としたことが伝えられる。これで米国は得失点差でイタリアに並び、逆にエジプトは4位に沈んだ。こうなると、2位と3位はゴール数で決まる。イタリアは3、米国は4――。この結果、米国がイタリアを逆転した。何という、劇的な幕切れであろうか。

グループリーグの全日程が終了して

イタリア国旗を掲げる幼い兄弟。準決勝進出が本命視されていたイタリアだが、あえなく敗退となった 【宇都宮徹壱】

 結局、プレトリアもルステンブルクも、いずれも3−0のスコアで試合が終了。勝者であるブラジルと米国が、そのまま準決勝進出を決めた。最後に笑った米国は24日にブルームフォンテーンでスペインと、そして首位を守ったブラジルは25日にヨハネスブルクで南アと、それぞれ準決勝を戦うこととなる。
 一方で、W杯チャンピオンのイタリアと、そのイタリアを破ってアフリカ勢の存在感を大いに示したエジプトが、ともに大会を去ってしまうのは、いささか寂しい気もする。とはいえ、イタリアにせよエジプトにせよ、もしグループリーグの最終戦で0−3で敗れたチームが準決勝に進出してしまったら、やはり何とも言えぬ違和感を見る者に残したことだろう。むしろ、最後まで可能性を信じて戦い、アフリカ王者を相手に3ゴールをたたき出した米国がスペインへの挑戦権を得たのは、当然の報いだったのかもしれない。

 一方、これでコンフェデ杯2連覇に向けて大きく前進したブラジルについては、スペインと並んで最も完成度の高いチームという印象を受けた。思えば、前回優勝した05年のドイツ大会では、ロナウジーニョが10番とキャプテンマークを独占し、その指揮下でアドリアーノ、カカ、ロビーニョ、シシーニョといった選手たちが躍動していた。ところがその4年後には、すでにロナウジーニョの姿はなく、カカとロビーニョを中心に、セレソンはまったく新しいチームに生まれ変わっていた。毎度のことながら、ブラジルの新陳代謝の速度には、いつも驚かされる。現在、チームを率いるドゥンガについても、ブラジル国内での評価は非常に低いと聞くが、なかなかどうして、本大会に向けて十分に期待が持てるチーム作りをしているのではないか。

 かくしてコンフェデ杯は、グループリーグの全日程が終了。これから2日間のインターバルを挟んで、24日より準決勝が始まる。試合がない2日間は、来年のW杯開催国・南アについて、あれこれ考察するための取材に充てることにしようと思う。南アに到着して、怒涛(どとう)のような日々が続いたが、ようやく周囲を見渡せるくらいの余裕ができそうだ。あらためて日本のサッカーファンの目線から、来年のW杯のありようについて、あれこれ考察してみようと思う次第である。

<翌日に続く>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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