東北勢初優勝のために必要なものとは!?=タジケンのセンバツリポート2009 Vol.12

田尻賢誉

最後まで冷静だった今村と、直球で勝負した菊池

健闘をたたえ握手する清峰・今村(1)と花巻東・菊池。両投手の活躍がことしの選抜を盛り上げた 【写真は共同】

 今村の投球で特筆すべきは、平気で同じ球種を続けられることと、変化球の後のストレートが抜け球にならないこと。大会を通じてすっぽ抜けや逆球はほとんどなかった。これはブルペンでの投球練習からもきている。冬場は2日に一度、100〜150球の投球練習を行ったが、ストレートを中心に50球程度投げた後は、9球スライダーを投げたあとにストレート、9球カーブを投げたあとにストレートを投げる練習を繰り返した。これは、球種ごとにフォームが変わるのを防ぐためと、変化球のあとにストレートを投げても抜け球にならないようにするため。これに加え、打者を立たせて内角に投げる練習もした。

 また、成長を見せたのがマウンドでの態度と意識。新チーム結成以来、唯一KOされた昨秋の明治神宮大会の西条高戦では体調不良もあったが「あのときは下を向いていた」(捕手・川本真也)。やや投げやりな様子も見られたが、今大会ではポーカーフェイスで通し、表情や態度から心の乱れは見られなかった。昨夏まではここ一番でストレート勝負し、出会い頭の一打を食らうことがあったが、今大会は勝つ投球に専念。決勝では、優勝まであと1球と迫った9回2死カウント2−2から「最後は自分でもどうなるか分からなかった。ストレートで決めたかったけど、最後はカットボールです」(今村)とスライダーやカットボールなど変化球を連投。投手なら自信のあるストレートで格好良く優勝を決めたいもの。MAX148キロのスピードを持つだけになおさらその気持ちは強いはずだが、あくまで打たれる可能性の低い球種を選択した。

 ちなみに、花巻東高の菊池が7回に9番の橋本洋俊に決勝打となる三塁打を打たれた球はストレート。内角を狙ったものが、真ん中高めに浮いたところをとらえられた。
「今まで一番練習してきたボール。打たれるなら真っすぐの方が後悔はないと思いました」と菊池は言ったが、橋本は変化球が苦手な打者。前日の利府高戦でも内角を狙ったストレートが外角高めに入って遠藤聖拓に本塁打を打たれるなど、菊池は疲労を隠せない状況だったことを考えると、変化球の方がリスクは少なかった。
 最後にストレートに頼った菊池とリスクの低い球種を選択した今村。球史に残る投げ合いに決着をつけたのは、この差だった気がする。

決勝で惜しくも敗れる東北勢に必要なものとは……

 それにしても――。
 東北勢の優勝は遠い。決勝では、ほとんどの投手が優勝投手に値する投球を見せているにもかかわらず、だ。

 古くは1915年、第1回大会夏の秋田中・長崎広が延長12回まで1失点ながら13回にサヨナラ負け。69年夏は三沢高の太田幸司が、松山商高戦で延長18回を零封しながら引き分け再試合の末、敗退。71年夏の磐城高・田村寿は桐蔭学園高相手にわずか1失点で敗戦投手。しかも、その1点が大会を通じて唯一許した失点だった。89年夏、仙台育英高の大越基は帝京高相手に9回まで無失点の好投を見せながら、延長10回に2点を許して力尽きた。そして、今大会の菊池もたった1球が命取りになった。

 なぜ、東北勢は決勝になると得点が取れないのか。
 ズバリそれは、応援にある。

 駒大苫小牧高が初優勝を果たした2004年、57年ぶりの連覇を果たした05年ともに甲子園は満員。相手を圧倒するブラスバンドの音色に乗せられ、球場全体に「北海道ガンバレ」という雰囲気があった。特に04年は済美高相手に一時4点をリードされたが、観客の手拍子で力を増した打線が奮起。猛打で逆転劇を演じた。
 沖縄尚学高が県勢に初の大旗をもたらした99年春、2度目の優勝を果たした昨年の春は試合前から指笛が鳴り、お祭りムード一色。安打1本がそれ以上の意味を持つほどスタンドも盛り上がった。いずれも、手拍子は駒大苫小牧高側、沖縄尚学高側からスタンド全体に広がった。その手拍子が銀傘にこだまし、選手に力を与える。観客の声援による後押しで得点を奪っている雰囲気があった。

 ところが、今大会の決勝の観客は2万7000人。花巻東高側の三塁側スタンド、アルプス席とも寂しかった。アルプスから控えの部員たちが懸命の声援を送ったが、それは一般のファンには広がらず、最後までリニューアルされた銀傘に跳ね返るような手拍子は起きなかった。ちなみに、03年夏にダルビッシュ有を擁する東北高が決勝に進出したが、このときも「東北高を勝たせよう」という雰囲気はそれほど感じられなかった。むしろスタンドは、勇退の決まっていた木内幸男監督率いる常総学院高側についていた感じすらあった。もし、花巻東高に駒大苫小牧高や沖縄尚学高のような声援と手拍子があれば……。8、9回のチャンスでの結果も違ったものになっていたかもしれない。

 岩手県内では、新聞の号外が発行され、決勝当日は朝から特番も放送される盛り上がりだったという。その盛り上がりが、県内だけでなく、甲子園でもあったならと惜しまれる。
 勝手な意見かもしれない。根拠のない暴論かもしれない。だが、北海道と沖縄にあって、東北勢にないものは間違いなくスタンドの応援。一般のファンの方々まで巻き込むような、迫力があり、盛り上がるような応援だ。

 東北地方のみなさん、在校生のみなさん、甲子園へ応援に足を運んでください。雪国のハンディという言葉はなくなりました。優勝にふさわしいチームはあります。選手もいます。あと、足りないのは地元の方々の生の声援だけです。

 地鳴りのような手拍子が起き、アルプスが揺れて、東北球児に勇気と力を与えたとき――。そのとき、初めて大旗が白河の関を越える日がやってくる。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント