揺るがないアイシンの黄金時代とオン・ザ・コート・ワンの効果=JBL08−09シーズン 総括

小永吉陽子

JBLプレーオフファイナルを制し、表彰式で喜ぶアイシンの選手たち。決勝でも貫録の強さを見せた 【写真は共同】

 共に高いディフェンス力を誇るアイシンと日立の対決となった日本バスケットボールリーグ(JBL)プレーオフファイナル。“我慢比べ”が動いたのは、1勝1敗で迎えた3戦目。インサイドに偏ったオフェンスを修正したアイシンが内外角自在な攻めを展開し、王者の貫録を取り戻した。3、4戦目と、日立につけ入るすきを与えず快勝。ファイナルを3勝1敗で制し、JBL2連覇を達成した。

「王者アイシン」と「躍進の日立」が激突したファイナル

今季は五十嵐(写真左)、佐藤稔のタイプの違うガードや、ベスト5にも選ばれた竹内譲らが活躍し、準優勝まで躍進した日立 【写真は共同】

 2009年1月に行われた天皇杯決勝と同じカードとなったファイナルだが、双方が受け身になり、自滅しあってロースコアゲームとなった天皇杯とは大きく違っていた。今回のファイナルは、互いの持ち味である激しいディフェンスを真正面からぶつけ合ったため、1、2戦はロースコアながらも見応えがあった。
 その要因となったのは日立の躍進だ。若き大黒柱である竹内譲次を軸に、スピードでかき回す五十嵐圭と、巧みなゲームコントロールを持つ佐藤稔浩というタイプの違うガードを状況に応じて起用。それがチームに調和し、リーグ終盤、7連勝でレギュラーシーズン2位まで上昇する破竹の勢いを見せた。
「選手がゲームの組み立てを考えられるようになった」と小野秀二HC。プレーオフ準決勝でパナソニック、決勝でアイシンと、高さがある両チームに対して、インサイドへのカバーリングディフェンスで対抗し、「日立=ディフェンス」のチームカラーを確立させたシーズンだった。

「実質オン・ザ・コート2」だけじゃないアイシンの強さ

竹内公(写真右)、柏木ら日本人選手の成長もあり、アイシンは今「第2の黄金期」を迎えている 【写真は共同】

 ディフェンス決戦とはいえ、ディフェンディング・チャンピオンであるアイシンの強さはディフェンスだけではなかった。試合を重ねるごとに、その強さは貫録として表れた。
 天皇杯決勝やファイナル2戦目でも陥ったが、アイシンはインサイドの帰化選手・桜木ジェイアールに攻撃が偏ると、外角陣の脚が止まる弱点がある。だが3戦目で竹内公輔が18得点、16リバウンドと奮起したように、主役になれる日本人はたくさんいるのだ。
 昨季のMVP、司令塔の柏木真介は「去年はチームの成長のために自分が積極的にやったが、今年は数字に残らない部分の貢献を心がけた」という。その言葉通り、このプレーオフでは窮地になると存在感を示し、持ち前の強い体躯からは強烈なシュートが放たれた。
 リズムが崩れれば、パスで展開を作る佐古賢一や、要所で1本を決める小宮邦夫ら、短時間の出場で役割を果たす仕事人もいる。強固なきずなを見せつけるアイシンの総合力は、もはや揺るぎないものだ。

 かつて、後藤正規、外山英明らを擁してリーグ連覇、天皇杯4連覇を達成した2002〜05年が第1期黄金時代だとすれば、若い能力が成長した今は第2期黄金時代か。強さの秘訣(ひけつ)を鈴木貴美一HCは「過去に勝ったり負けたりした経験を、選手たちが考えながら継承してきた」と語り、第1期黄金時代から支える38歳の佐古は「チームの進化」を理由に挙げた。

「オン・ザ・コート・ワン」で出てきた日本人選手の自覚

「オン・ザ・コート・ワン」(外国人籍選手の同時出場枠が2名から1名にルール変更)が施行された今季は、これまでフィニッシュを外国人選手に頼っていたチームの多くは、新しいスタイル作りを余儀なくされた。8チームの平均得点は昨季の81.75点から78.33点と80点を切った。その分、「日本人主体でディフェンスの細かい部分が統一できた」とディフェンス強化を掲げるチームは多くなった。しかし、これは日本人選手の得点能力の欠如が一因していることでもあり、パワフルな攻防が減ったことの表れでもある。
 外国人選手とマッチアップすることでレベルアップを望んでいる竹内公輔・譲次兄弟からは「攻め気は出てきたが、このルールがいいか悪いかは分からない」(公輔)との声もある。

 その一方で、オン・ザ・コート・ワンの狙いである日本人選手の活躍の場は確実に増えた。日本リーグ時代を含めて北原憲彦以来24シーズンぶりとなる日本人得点王に輝いた川村卓也(リンク栃木=平均20.43得点)を筆頭に、得点10傑には帰化選手を含めて6名の日本人選手の名が挙がった(昨季は0名)。「出場機会を得た若手が競争している」(清水良規HC)というパナソニックからは、大西崇範、濱田卓実、広瀬健太らフォワード陣が台頭。新規参入したリンク栃木は田臥勇太と川村が2枚看板となり、リーグ終盤には「トランジションバスケ」という個性的なスタイルで観客を沸かせることも多かった。

 オン・ザ・コート・ワンの功罪は引き続き検討されなければならないだろう。ディフェンス勝負とはいえ、やはりファイナルで60点台のゲームでは物足りなさもある。JBLでは来季からレギュラーシーズンが140試合(35試合/チーム)から168試合(42試合/チーム)に増加することが決定。日本人の得点力不足を解消すべく、日本協会ではこの春からは「個を育成する」(倉石平強化部長)目的のもと、学生の育成強化キャンプが始まった。日本人選手の自覚が芽生えてきたことが、今シーズンの収穫だったと言える。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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