どっちのプロレス力!?

安田拡了

3.14両国大会で激突するムタ(の代理人・武藤=左)と高山 【スポーツナビ】

 だいたい、なんですね。不安定な国家か否か、国民に不審を抱かせるかどうかはトップの首相の器にかかっています。だから、日本の危機ということで自民党の麻生首相おろしが始まったりするわけで、その麻生首相を強力にこき下ろしているのが、民主党の小沢一郎でして……。と、なんで、そんな誰でも知っているニュースをまくらに持ち出したかというと、この政局不安定なところが、ズバリ、今回の3・14両国大会そっくりの混乱ぶりなんです。

 3・14の目玉は3大タイトルマッチで、メインは3冠ヘビー級選手権試合。この王者がグレート・ムタで2008年9・28横浜大会で諏訪魔から奪ったのだが、今年に入って一度も選手権試合をしていない。

 そうなると、やいのやいのと外野がうるさい。なにせ三冠は全日本の顔なのに、なぜ選手権試合をやらないんだというわけです。三冠王者というのは日本国で言うところの首相と同じ。諏訪魔あたりからトップを獲ったくらいで、タイトルマッチをせずにいるのはおかしいとなる。

ムタはムタ流に高山を潰す下準備をしている

ムタ(上)は3月シリーズに全戦参加し、対戦相手を魔界に引きずりこんでいる(写真は3.1後楽園) 【t.SAKUMA】

 そこで、もうそろそろやらせなきゃいけないかなというタイミングで高山善廣の挑戦を受けることになった。つまり政局不安定の中で高山という強力な挑戦を受けるわけです。

 その中でムタがいきなり今シリーズ、フル試合出場となったのは、当然なんですね。ムタが実績をどんどん積んでいくことによって政局不安を減少させ、地固めをしていく。そして最終段階で高山とベルトを争えばいいんじゃないかというわけです。

 これを鈴木みのるなんかは「焦りだったり悪あがきのような気がする。対戦相手が若手とかジュニアヘビーの選手。切羽詰っている感じがするんだよ。求心力が落ちていることをムタ自身も感じている。今回のシリーズ全戦参戦は、最後の花道を自分で作ったってこと。グレート・ムタも最終回だな」とこき下ろしていました。

 まあ、さすがに鈴木は言い当てているんですが、実は一方で対戦相手が若手やジュニア相手でやっているということは、3・14まで怪我なくコンディションを最高の状態にしておくという作戦に違いないわけで、ムタはムタ流に高山を潰す下準備をしているということ。

高山「ムタをボコボコにできるヤツがいなかった」

2.6後楽園では高山(奥)と武藤(右)が“前哨戦” 【t.SAKUMA】

 いずれにしてもムタの発想力は尋常ではない。だいたい1989年3月、WCWでゲーリー・ハートをマネージャーにしてムタが誕生してから、もう20年になる。20年という長い間も、ムタをやってこられたのは、ムタというキャラクターを臨機応変に進化させてきたからにほかならないわけです。

 まともに闘おうとしても一筋縄ではいく相手ではありません。ムタは表裏一体の武藤敬司のような芸術性の高い試合を必要としていないところが、きわめてクセモノです。対戦相手を固定観念のないムタのペースに引き込むことで、相手をかく乱させてきたわけです。

 当然、相手をかく乱させることが目的のムタのペースだと、いわゆる名勝負というものが少なくなってくる。だから、ムタと闘った選手たちは苦虫をかみ潰すしかないわけです。

 ところが、今回の相手、高山だけはちょっと毛色が違う。

 高山のプロレス力というのはご存知のように脅威です。あの巨体で直線的に蹴る殴る投げる圧しかかるというもので、そのものの強さがある。だから名勝負なんて考えたこともない。迫力だけで十分なんです。

「名勝負なんてどうでもいいが、これまでムタをボコボコにできるヤツがいなかったから名勝負が生まれなかっただけ」

 そんな高山の言葉に我々が「確かにそうかも」と頷いてしまうのは、それだけ高山そのものの強さを認めている証拠です。

 だから、この試合は「高山の一直線のプロレス力が勝つか、ムタの変幻自在のプロレス力が勝つか!」という点で、ワクワクしてしまうんです。

 失礼ながらムタ戦でこれほど好奇心をそそられる相手はいなかった。高山はそのプロレス力をどうムタにぶつけていくのか。ひょっとしたら、ムタのようにメーキングしてきてグレート・タカなんてやるんじゃないのかとか。そんなことをやったら、高山のプロレス力が半減してしまうかもしれないから、やらないんだろうな。しかし、ボコボコ狙いで直線的にやっていけばムタの思うツボかも。いや、そんなことはないか。高山のプロレス力は並じゃないんだから……。

 と、いろんなことを思ったりする。プロレスというのは、いろいろ想像するとたまらなく魅力的なスポーツになる。そうさせてくれるのが、ムタvs.高山戦なのです。

もしも高山が三冠を取ったら…

全日マットで快進撃を続ける高山(奥)は三冠ベルトを手中に収めるのか!?(写真は1.2後楽園) 【t.SAKUMA】

 しかし、高山が三冠を奪ったら全日本は大変なことになりそう。きっと盟友の鈴木みのると組むだろうからGURENTAIの仲間になるよなあ。

 となると……うう、大変なことになるではないか!

 3・14両国の世界タッグ選手権で鈴木ら王者組が防衛をすることを前提に話をすると全日本のベルトを世界ジュニアヘビー級をのぞいて、すべてGURENTAIが保有することになってしまう。全日本絶対絶命の危機!?

 いや、まだそうと決まったわけではないんだが、もしも高山が三冠を獲ったら、GURENTAIのことだから鈴木みのるとの防衛を真っ先にやって、もしも鈴木が獲ったら、挑戦者を高山にして再戦。その時、高山が獲ったら、今度はまた鈴木を挑戦者にして再戦……。有りえないけど、あの連中ならやりかねないではないぞ。

 ああ、恐ろしいことになってきた!

 ついでに内田雅之取締役が記者会見であまりの傍若無人の好き放題、勝手放題の鈴木みのるに「気分が悪い。3・14両国では絶対にうちの所属選手である諏訪魔組に頑張ってもらいたい。団体としてはいつまでも好き放題はさせない」と怒り心頭でしたが……。

ヤスカク情報局

 3・14両国で長州力とタッグ対決をする西村修は生涯、長州アレルギーは治らない。全日本に移ってからも、またしても長州が目の前にあらわれた。「ある意味最悪、ある意味楽しみ」とブログには書いていたが、実は言葉では語れないほど、もっともっと奥が深いとか。

「長州力は昔と変わったといわれていますが、根本は変わっていませんよ。私は藤波さんのところを去って、いろいろあった。時間の経過は感情を変えていきますが、長州力については対立の深みがいっそう深まっていった」という。こりゃ永遠だね、西村の反長州の図式。

【SKY PerfecTV!プロレス・格闘技 番組情報】

●全日本プロレス「2009 プロレスLOVE in 両国 Vol.7」3.14両国大会

放送日時 :3/14(土)後5:00〜 ※生中継/他
放送Ch :スカチャン 162他(スカパー!Ch.162他)

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