福岡第一と洛南を決勝に導いた要因とは=高校選抜バスケ

北村美夏
 29日に行われる男子決勝と3位決定戦を残すのみとなったウインターカップ。決勝に駒を進めたのは、第2シードの福岡第一(福岡)と第4シードの洛南(京都)だった。今年の高校男子は群雄割拠と言われ、今大会も好ゲームが多かったが、その中でこの2チームが勝ち残れた要因は何だったのか。決勝への道のりから読み解いた。

福岡第一の経験に裏打ちされたディフェンス

福岡第一の狩野は、毎試合前に「第一高校の体育館を思い出そう」と声を掛ける。日々の積み重ねで悲願の優勝をつかめるか!? 【(C)JBA】

「第一高校の体育館を思い出せ」
 福岡第一はこれを合言葉に勝ち上がってきた。

 初戦から気の抜けない組み合わせだったが、最も苦しかったのは明成(宮城)との準々決勝だろう。この大会唯一、リードを許してハーフタイムを迎えた。すると、井手口孝コーチは、「ここで負けていいのか。お前たちは練習で何を頑張ってきたんだ?」と選手たちに問い掛けた。
「大会前はずっとディフェンスの練習ばかりやっていた」と2年生の玉井勇気も言うように、選手たちの頭に浮かんだ答えは1つだった。後半はゲームキャプテンの狩野祐介を中心に選手同士で「ディフェンス!」と声を掛け合い、31失点に抑えての逆転勝ち。続いての準決勝も、大会平均90点近くをたたき出す破壊力で第3シードの北陸(福井)を退けた八王子(東京)を、最後は失速させて逃げ切った。

「これがたくさん試合を経験し、かつ勝ってきたチームの強さなのか」と八王子の石川淳一コーチが脱帽するしかなかったほどのディフェンス。練習通りやろう、というのはオフェンス面でよく聞かれるが、福岡第一にとってはディフェンス面でも当てはまった。
「練習で積極的にやっていれば、試合ではちょうどいい」(玉井)
 まだ見ぬ優勝の瞬間をイメージするよりも、いつもの体育館をイメージすれば結果がついてくる。それだけの練習を積み上げてきたことこそが、福岡第一の強さといえる。

洛南を支える大黒柱のリーダーシップ

自分の影響力に気付いた洛南の谷口。きっかけをくれた延岡学園の永吉とは準決勝で対戦し、「勝った方は優勝すること」を約束した 【(C)JBA】

 一方の洛南は、準々決勝までは余力を残すことに成功し、準決勝で第1シードの延岡学園(宮崎)と激突した。結果的には延岡学園のオフェンスパターンを読み切り、70−58と勝利を収めたものの、スコア以上の激戦だったことは「今日は一番つらかった」と大黒柱の谷口大智(3年)も認めるところだった。
 それでも、谷口は黙々とプレーを続けたばかりでなく、「ここ1本頑張ろう」「もう1回集中」と常に周りに声を掛けた。春は「声を出すのはちょっと苦手で……」と言っていたが、もうその姿はどこにもなかった。

「自分がしんどい様子を見せたらチームに影響する」
 これは8−9月に行われたU−18アジア選手権のとき、U−18代表ではチームメートである延岡学園の永吉佑也(2年)に指摘されて、はっと気付いたという。周りを見れば、アジア選手権の前に行われたインターハイで洛南の上を行った2チームには、それに気付いているリーダーがいた。
 延岡学園の司令塔・和田力也(3年)は、「みんながミスしても、自分が盛り上げれば悪い流れも断ち切れる」といつも笑顔でプレー。福岡第一のシューター、狩野祐介(3年)も「自分が決めれば、みんなが落ち着いていつも通りできる」という気持ちをシュートに込めていた。では、谷口にとって譲れないことはというと、「3年間死ぬ思いで練習についていった。ここで負けたら3年間はなんだったんだ?」という思いだった。
 チームの中心である谷口が、その思いを泥臭いプレーとして表した。だからこそ、洛南は大事な準決勝で、これほどの点差を開くことができた。

それぞれが描く優勝への思い

 先に挙げたディフェンス力と精神的支柱の存在は、2チームとも共通点があるといえる。しかし、決勝を迎えるにあたっての優勝への思い、その種類だけは異なる。

 洛南は京都府代表として今秋の国民体育大会を制し、ウインターカップも2連覇中。「完成度が問われる冬に勝ってこそ洛南というところを見せたい」と谷口は言う。特に3年生にとっては、1、2年時に勝っているからこそ、自分たちの代で負けたくないという気持ちもあるだろう。
 福岡第一は逆に、現在在籍するメンバーはインターハイ(高校総体)、国体、ウインターカップの3大タイトルのうちどれも、一度も取ったことがない。「最後に優勝して終わりたい」と3年生は口をそろえる。

 その「優勝」を引き寄せる要素はたくさん絡まり合っている。しかし、ある選手の言葉を借りれば、最後はシンプルな戦いになりそうだ。
「バスケットは5対5なので、最後にまとまったチームが勝つと信じています」

<了>
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著者プロフィール

 1983年生まれ。バスケットボール男子日本代表を中心に、高校、大学からJBL・WJBL、ストリートや椅子バス、デフバスまで様々なカテゴリーのバスケットボールを取材。中学・高校バスケットボール(白夜書房)などの雑誌、「S−move」「JsportsPRESS」等のウェブ媒体で執筆。2009年末に有志でポータルサイト・「クラッチタイム」創設

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