東京体育館の“熱”を、外へ広げるために=高校バスケ・ウインターカップ第3日

北村美夏

「地元の星」を毎年1度応援する楽しみ

東京体育館の前に集まったファン。選手の頑張りと観客の後押しとのコラボレーションで独特の濃い熱気が生まれる。 【(C)JBA】

 12月25日、クリスマスの朝を迎えた東京の最低気温は約5度だった。その中で屋外に1時間も立っているのは耐え難いが、1年に1度の高校バスケ・ウインターカップは例外だ。男子のシード校が登場することもあり、大会3日目にして東京体育館の入口にはバスケットファンの長い列ができていた。

 先頭に並んだのは、「地元の市立船橋を応援するために、千葉から来ました!」という永田さん。早朝に出発し、開場1時間前の朝8時に到着したという。市立船橋の試合は16時開始だったことを考えると、ウインターカップという全国の舞台で地元のチームを応援することを、本当に楽しみにしていたことが感じられる。昨年もやはり市立船橋の応援に訪れたそうだが、東京体育館に1度足を踏み入れたが最後、外気と正反対の熱気に魅入られてしまうのかもしれない。

スコアシート2枚にわたる新記録誕生

第1回大会の優勝メンバーである北原憲彦さんの、58点という最多記録を塗り替えた藤枝明誠の藤井祐眞。なんとまだ2年生だ。 【(C)JBA】

 そんな熱い視線に応えるかのように、大会3日目にすさまじい記録が生まれた。男子の藤枝明誠(静岡)と海部(徳島)との試合で、藤枝明誠がなんと162点をたたき出し、17年ぶりに大会最多得点を更新したのだ。得点経過を記録するスコアシートは、欄自体が160点までしかない。それだけ、めったにお目にかかることのない点数であることが分かるだろう。藤枝明誠はしかも、それをこの全国の舞台でやってのけた。チームで最も得点を稼いだ藤井祐眞の79点も、これまでの個人最多得点を20点以上更新する新記録だった。

 どうしたら40分の試合で162点も取れるのか。また、79点も得点を挙げられる選手とはどんな選手なのか。残念ながら、東京体育館に足を運び、かつ複数の試合が同時進行する中でそのコートを見ていた者しか目撃者にはなれない。ほかにも、男子の最多優勝を誇る能代工(秋田)が東海大四(北海道)に97−94、第3シードの北陸(福井)が佐賀北(佐賀)に70−67と薄氷の勝利を挙げたが、東海大四と佐賀北がどうやって強豪チームを追い詰めたのかは、やはり得点の記録からだけで読み取るには限界がある。つまり、東京体育館で渦巻く熱気が、外に広がりにくいのだ。
 
 しかし、今年は違う。大会の熱気を外に伝えたいと考えていた人たちが、満を持して一大チャレンジに乗り出した。そのチャレンジとは――“全96試合テレビ放送”である。

「ウインターカップを機に、広い目でバスケットを見てほしい」

コート脇にカメラを設置できるようレイアウトを変えるなど、多くの人の様々な協力があって全試合放送は実現した。 【(C)JBA】

 今年、ウインターカップ男女全96試合テレビ放送に踏み切ったのはCS放送のJ SPORTS。その制作・技術本部でバスケットを担当する考藤隆寛プロデューサーは、「もともと構想はあった」という。では、なぜこのタイミングだったのか?

「やり急いで失敗したら、二度とできなくなってしまう。だから社内で応援してくれる人を少しずつ増やしていって、社外でもバスケット協会や高体連(全国高等学校体育連盟)から協力を得て、今年やっと実現できました。構想5年、本番一瞬という感じです」

 実は、さまざまなジャンルのバスケットを年間150試合以上も放送してきているJ SPORTSだからこそ実現できたと言えるが、放送は会場に足を運べない人のためだけにあるわけではない。むしろ高校バスケをよく見る、という人にこそ「もっと広い目でバスケットを見るきっかけにしてほしい」と考藤プロデューサーは考えている。

「高校バスケも素晴らしいですが、それがすべてかというとそうではない。真のバスケットファンなら、さまざまな国の、さまざまな年代のバスケットを見て、文化の違いを感じた上で、じゃあ日本は何が足りない?といったことを考えてほしいです」

 今は東京体育館からの帰路でも、上記のような広い内容のバスケット談義を聞くことはほとんどない。サッカーのようにとまでは言わないが、ウインターカップの会場では確かに生まれている“熱”を外へ持ち出すことができたら、このウインターカップの重要性もより増すのではないだろうか。

<了>
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著者プロフィール

 1983年生まれ。バスケットボール男子日本代表を中心に、高校、大学からJBL・WJBL、ストリートや椅子バス、デフバスまで様々なカテゴリーのバスケットボールを取材。中学・高校バスケットボール(白夜書房)などの雑誌、「S−move」「JsportsPRESS」等のウェブ媒体で執筆。2009年末に有志でポータルサイト・「クラッチタイム」創設

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