マンU優勝のあとに=決勝 キト 0−1 マンU

宇都宮徹壱

しばしの別れとなるクラブW杯

優勝候補大本命の欧州王者マンUが予想通り実力を見せつけクラブ世界一に輝いた 【Getty Images】

 街中でクリスマスソングが鳴り響く12月21日の日曜日。11日間にわたって開催されたFIFAクラブワールドカップ(W杯)も、この日の3位決定戦と決勝を残すのみとなった。師走といえば、忘年会のお誘いやら大掃除やら年賀状やらで頭を悩ませる時期だが、この大会が日本で開催されるようになった2005年からは、師走の慌しさにさらなる拍車が掛かるようになった。

 思えばこの4年の間には、およそスペクタクルのかけらも感じられない内容の試合も、決して少なくはなかった。「トヨタカップの時代は1試合で済んだものを」と、寒空の下、いささか恨みがましく思ったことも、なかったわけではない。しかしながら、それまでのトヨタカップではあり得なかった魅力や楽しみが、この大会に少なからず含まれていたのは紛れもない事実である。

 これまでほとんど目にする機会のなかった各大陸のクラブチームからは、あらためてサッカーの多様性を実感させられたし、そうしたチームが欧州や南米の強豪にチャレンジする姿に感動したりもした。そのうち、競技レベルや有名選手の有無に関係なく、気が付くと私は、この大会を心底楽しむようになっていた。
 それだけに、この大会が今年を最後に、しばし日本から離れることに、何ともいえぬ物悲しさを覚えてしまう。2009年と2010年は、UAE(アラブ首長国連邦)で開催。日本に帰ってくるのは、3年後の2011年である。

 さて、決勝に先立って行われたパチューカとガンバ大阪による3位決定戦については、簡潔に事実のみを記しておく。試合は、前半29分の山崎雅人のゴールが決勝点となり、ガンバが1−0で勝利。前回大会の浦和レッズに続いて、見事、クラブW杯3位に輝いた。いつになく泥臭い試合となってしまったのは、似たタイプ同士の対戦ゆえだろうか。いずれにせよ、2大会連続でアジア王者が大会3位を確保したこと、そしてその快挙がJクラブによってなされたことについては、素直に喜ぶべきであろう。あらためてガンバの選手とスタッフ、そして西野朗監督には「お疲れ様でした」と申し上げたい。

マンUの前に立ちはだかるキトの守護神

 さて、今大会も決勝は「南米対欧州」の顔合わせとなった。
 南米王者はエクアドルのリガ・デ・キト。そして欧州王者はイングランドのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)。だが、マンUについては「欧州王者」というよりも、むしろ「世界選抜」と表現した方が適切であろう。この日のスターティングメンバーを見ると、南米の選手(アンデルソン、ラファエル、テベス)、アジアの選手(パク・チソン)、そしてアフリカの選手(エブラ。国籍はフランスだが出身はセネガル)と、4大陸連合チームであることが見て取れる。

 対するキトは、エクアドル人が8、アルゼンチン人が3。純然たる南米連合チームである。クラブの年間予算は6億円弱と報じられているから、C・ロナウドの年俸の半分以下で運営されていることになる。欧州と南米の経済格差は、もちろん今に始まったことではないが、今年の顔合わせはこれまで以上に顕著だ。そして両者の経済格差は、そのまま戦力の格差として、ピッチ上で色濃く展開されることとなる。

「攻めるマンU」「守るキト」という構図は、序盤から鮮明であった。
 10分、キャリックからの長いボールを胸で受けたルーニーが、ワンバウンドから右足ボレー。これはキトのGKセバジョスが素早い反応ではじき返す。その5分後、キトのDFがヘディングでカットしたボールをルーニーが拾い、今度は低めのミドルシュート。これもGKセバジョスが反応するが、体に当ててCKに逃れるのが精いっぱいであった。19分には、C・ロナウドの左からのクロスにテベスがヘディングで押し込むも、またしてもセバジョスが横っ跳びでキャッチ。さらに22分、アンデルソンの縦パスに反応したルーニーがセバジョスと1対1となり、すぐさまループシュートを放つも、ボールはわずかにバーを越えた。

 12分間に4度の決定機。そのうち3本のシュートを放ったルーニーもすごいが、キトの守護神セバジョスの好判断も素晴らしい。キトのサポーターも感動したのだろう。やがて、お馴染みの「シ・セ・プエデ(なせば成る)!」の大合唱が沸き起こる。
“赤い悪魔”(マンUの愛称)のアタッカー陣は、前半終了間際にも雨あられのシュートを浴びせるが、いずれもGKセバジョスが防ぐか、わずかに枠を外れて得点ならず。惜しいシュートを積み重ねるたびに、キトの守護神の存在感が増し、逆にマンUの攻撃陣にはわずかながら焦りの色が見られるようになる。

 結局、前半は両者スコアレスのまま終了。ボール支配率は、マンU66%、キト34%。シュート数ではマンU11本(枠内5本)、キト4本(同0本)。マンU優勢に変わりはないが、このままキトが粘り続ければ、そして何かしらのアクシデントが起これば、ゲームはどう転ぶか分からない。事実、欧州王者は後半早々、予期せぬアクシデントに見舞われることとなる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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