マンU優勝のあとに=決勝 キト 0−1 マンU
しばしの別れとなるクラブW杯
優勝候補大本命の欧州王者マンUが予想通り実力を見せつけクラブ世界一に輝いた 【Getty Images】
思えばこの4年の間には、およそスペクタクルのかけらも感じられない内容の試合も、決して少なくはなかった。「トヨタカップの時代は1試合で済んだものを」と、寒空の下、いささか恨みがましく思ったことも、なかったわけではない。しかしながら、それまでのトヨタカップではあり得なかった魅力や楽しみが、この大会に少なからず含まれていたのは紛れもない事実である。
これまでほとんど目にする機会のなかった各大陸のクラブチームからは、あらためてサッカーの多様性を実感させられたし、そうしたチームが欧州や南米の強豪にチャレンジする姿に感動したりもした。そのうち、競技レベルや有名選手の有無に関係なく、気が付くと私は、この大会を心底楽しむようになっていた。
それだけに、この大会が今年を最後に、しばし日本から離れることに、何ともいえぬ物悲しさを覚えてしまう。2009年と2010年は、UAE(アラブ首長国連邦)で開催。日本に帰ってくるのは、3年後の2011年である。
さて、決勝に先立って行われたパチューカとガンバ大阪による3位決定戦については、簡潔に事実のみを記しておく。試合は、前半29分の山崎雅人のゴールが決勝点となり、ガンバが1−0で勝利。前回大会の浦和レッズに続いて、見事、クラブW杯3位に輝いた。いつになく泥臭い試合となってしまったのは、似たタイプ同士の対戦ゆえだろうか。いずれにせよ、2大会連続でアジア王者が大会3位を確保したこと、そしてその快挙がJクラブによってなされたことについては、素直に喜ぶべきであろう。あらためてガンバの選手とスタッフ、そして西野朗監督には「お疲れ様でした」と申し上げたい。
マンUの前に立ちはだかるキトの守護神
南米王者はエクアドルのリガ・デ・キト。そして欧州王者はイングランドのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)。だが、マンUについては「欧州王者」というよりも、むしろ「世界選抜」と表現した方が適切であろう。この日のスターティングメンバーを見ると、南米の選手(アンデルソン、ラファエル、テベス)、アジアの選手(パク・チソン)、そしてアフリカの選手(エブラ。国籍はフランスだが出身はセネガル)と、4大陸連合チームであることが見て取れる。
対するキトは、エクアドル人が8、アルゼンチン人が3。純然たる南米連合チームである。クラブの年間予算は6億円弱と報じられているから、C・ロナウドの年俸の半分以下で運営されていることになる。欧州と南米の経済格差は、もちろん今に始まったことではないが、今年の顔合わせはこれまで以上に顕著だ。そして両者の経済格差は、そのまま戦力の格差として、ピッチ上で色濃く展開されることとなる。
「攻めるマンU」「守るキト」という構図は、序盤から鮮明であった。
10分、キャリックからの長いボールを胸で受けたルーニーが、ワンバウンドから右足ボレー。これはキトのGKセバジョスが素早い反応ではじき返す。その5分後、キトのDFがヘディングでカットしたボールをルーニーが拾い、今度は低めのミドルシュート。これもGKセバジョスが反応するが、体に当ててCKに逃れるのが精いっぱいであった。19分には、C・ロナウドの左からのクロスにテベスがヘディングで押し込むも、またしてもセバジョスが横っ跳びでキャッチ。さらに22分、アンデルソンの縦パスに反応したルーニーがセバジョスと1対1となり、すぐさまループシュートを放つも、ボールはわずかにバーを越えた。
12分間に4度の決定機。そのうち3本のシュートを放ったルーニーもすごいが、キトの守護神セバジョスの好判断も素晴らしい。キトのサポーターも感動したのだろう。やがて、お馴染みの「シ・セ・プエデ(なせば成る)!」の大合唱が沸き起こる。
“赤い悪魔”(マンUの愛称)のアタッカー陣は、前半終了間際にも雨あられのシュートを浴びせるが、いずれもGKセバジョスが防ぐか、わずかに枠を外れて得点ならず。惜しいシュートを積み重ねるたびに、キトの守護神の存在感が増し、逆にマンUの攻撃陣にはわずかながら焦りの色が見られるようになる。
結局、前半は両者スコアレスのまま終了。ボール支配率は、マンU66%、キト34%。シュート数ではマンU11本(枠内5本)、キト4本(同0本)。マンU優勢に変わりはないが、このままキトが粘り続ければ、そして何かしらのアクシデントが起これば、ゲームはどう転ぶか分からない。事実、欧州王者は後半早々、予期せぬアクシデントに見舞われることとなる。