東西を隔てる鉄のカーテン=UEFAチャンピオンズリーグ

東欧勢の決勝トーナメント進出はゼロ

ゼニトのアルシャービン(左)は、チームをCL決勝トーナメントに導くことができなかった 【Getty Images】

 今季のチャンピオンズリーグ(CL)で東欧勢の6クラブは非力だった。決勝トーナメントに進出したクラブはゼロ。ゼニト・サンクトペテルブルク(ロシア)、ディナモ・キエフ(ウクライナ)、シャフタル・ドネツク(ウクライナ)、BATEボリソフ(ベラルーシ)、CFRクルージュ、ステアウア・ブカレスト(共にルーマニア)の計6チームは、目立った功績を残すことなく、欧州最大のカップ戦から姿を消した。
 唯一の慰めは、グループリーグ3位に与えられるUEFAカップの出場権(要は敢闘賞みたいなもの)を、ゼニト、ディナモ・キエフ、シャフタル・ドネツクが手にしたぐらいで、残りの3チームは予想通りの最下位となった。

 私は、グループリーグが始まる直前、「ゼニトが台風の目となる」と絶対の自信を持って予想した。結果は1勝2分け3敗でグループ3位。まったくの的外れだったというわけだ。「ゼニトはFWアルシャービン、MFティモシュチュクが大爆発する」と大まじめに予感していた自分が恥ずかしい。

 CLで生き残り、そして勝ち抜くためには“大金持ち”クラブになるしかない。“金持ち”ではなく“大金持ち”である。言うまでもなく、ポーランド、チェコ、ルーマニア、ブルガリア、セルビア、クロアチアなどの東欧(国によっては中欧と言う人もいる)の地域に、“大金持ち”クラブは存在しない。
 その一方で西欧の“大金持ち”クラブは、東欧のクラブが羨望(せんぼう)のまなざしを送るほどの資金、最新の設備を擁し、クラブの年間予算は破格だ(もっとも、世界同時不況の影響でクラブ経営は困難を極めているが)。質の高いプレーヤーが所属しているのは明らかで、監督がチーム内に溢れた有能選手の起用方法に悩むこと自体、いかにぜいたくなものか、彼らは知る由もない。

 クラブが選手の獲得競争に勝ち、世界中から良い選手を買いあさる。必然的にチーム力は向上。その結果、ビッグタイトルを獲得するのは、もはや当然の成り行きである。ひと昔前まで世界に名をはせたベンフィカ、アヤックス、そしてバイエルンでさえ、他クラブがビッグクラブへと成長したおかげで、かつての存在感が薄くなっている。

欧州王者の栄光、そして衰退

 西欧と東欧のクラブ間に存在する溝。それは、われわれが想像し難いほど深まるばかりだ。いまや東欧有数の強豪クラブは、CLで決勝トーナメントに進出することを偉大な目標として掲げている。それ以上の結果は夢物語である。近年、CLの常連となったディナモ・キエフやシャフタル・ドネツクでさえ、奇跡を信じる以外に最高の結果は望めないのだ。

 とはいえ過去に2度、東欧勢が欧州チャンピオンに輝いた瞬間があった。1985−86シーズンにステアウア・ブカレストが名門バルセロナを下して東欧勢初の欧州王者となると、90−91シーズンにレッドスター・ベオグラードがマルセイユを撃破。レッドスターはその後のトヨタカップ(当時)で、チリのコロコロ相手に圧倒的な強さを見せつけて、世界一の称号を手にした。
 あれから20年近くの歳月が流れた。東欧のクラブレベルは、ソ連、東欧諸国の共産主義体制の崩壊と並行するように急速に衰えを見せ、サポーターは過去の栄光にすがる、または慰めを求めることでしか、忘れかけていた誇りを取り戻せなくなった。自国リーグでは「わがクラブは最強」と声を大にしてうたうが、舞台を欧州カップ戦に移せば、西欧の強豪クラブの勝ち点稼ぎの格好の餌食となっている。イングランド、スペイン、イタリアの一流クラブにとって、彼らは“蚊帳の外”の存在である。

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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