東西を隔てる鉄のカーテン=UEFAチャンピオンズリーグ

欧州ナンバーワンの夢はあきらめるしかないのか

90−91シーズンに欧州王者に輝いたレッドスター。その後、“ビッグイヤー(優勝カップ)”を掲げた東欧のクラブは存在しない 【Photo:Getty Images/AFLO】

 現在の東欧勢に、果たして過去の輝きを再び求めてよいのか。正直に言って、それは無理な話だろう。なぜなら、現行のグループリーグ6試合を戦い抜けば、おのずと最後には地力で上回るクラブが勝ち残るのは必然だからだ。もちろん、サプライズはいつだって起こり得るが、せいぜい1、2試合が限度だ。例えば、チャンピオンズカップ時代の完全トーナメント制を採用すれば、クラブはホーム&アウエーの2試合に集中でき、今季のCLグループリーグでCFRクルージュがチェルシーに、そしてゼニトがユベントスに善戦したように、より番狂わせの可能性は高くなる。だが、6試合をこなした後では、結局強豪クラブが納まるべき場所に納まってしまうのだ。

 潤沢なロシアマネーは、ゼニト、CSKAモスクワ、スパルタク・モスクワを新たな大富豪クラブへ変ぼうさせるかもしれない。だが、それもどこかの成金クラブのまねにすぎず、「大金がタイトルをもたらす」という結論を強調するだけである。

 それなら、欧州王者の道をあきらめるか。欧州ナンバーワンにこだわらなければ、“欧州B級カップ”のUEFAカップに本腰を入れればいい。来季からUEFAカップは、“UEFAヨーロッパリーグ”と名称を変え、新方式でスタートする。新ロゴとブランドを採用し、テレビ放映権と大会スポンサーが一元管理されることで、現行のUEFAカップよりもさらにお金が飛び交うことになる。注目度が上がることで、大会の存在価値、タイトルに重みはつきそうだ。

 自分が応援するクラブが欧州の舞台に出られないのなら、自国の選手、所属チームを応援すればよい(もうここまで来たら余計なお世話だが)。チェコ人はネドベドがいるユベントス、スロバキア人はシュクルテルがいるリバプール、ブルガリア人はベルバトフの所属するマンチェスター・ユナイテッドという具合にだ。わがチームの欧州制覇が無理でも、東欧出身の素晴らしい選手はいくらでもいる。彼らとともにCLを戦えば、少しでも気が晴れるだろう。

クラブの意地、誇り、国の名誉を懸けた試合が見られなくなった

 CLは世界最高峰のサッカーを堪能するためなら、これ以上の大会はない。ただ、誰にでも優勝予想ができる大会になってしまった。西欧の強豪クラブの名を挙げておけば、まず間違いはない。それだけ西欧と東欧のクラブレベルは広がってしまったのだ。私のように「ゼニトが台風の目になる」と声高らかに予想する人はいなくなっている。

 ただ、1つだけ言っておきたい。クラブの意地、誇り、そして国の名誉を懸けた試合は10数年前まではっきりと存在した。だが今では、大富豪のクラブが世界最高峰の選手を集め、“ドリームチーム”を作ることに必死だ。そのようなクラブは常に欧州王者のタイトルへの責務が課せられる。母国の威信を懸けて、純粋に戦いを挑む姿は以前と比べて少なくなっている。何とも寂しいばかりだ。

「バルト海のシュチェチンからアドリア海のトリエステまで欧州大陸を横切る鉄のカーテンが降ろされた」
 1946年、イギリスのチャーチル首相(当時)が、東西冷戦の緊張状態を表わした言葉である。意味は違えど、ここ10数年で西欧と東欧のサッカーの間には分厚い「鉄のカーテン」が降ろされ続けている。

<了>

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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