平野孝、北米で駆け抜けた左サイド=インタビュー

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ベッカム、鈴木隆行、そして海外初ゴール

LA・ギャラクシーとの親善試合ではベッカム(右)と対戦 【Vancouver Whitecaps FC】

――さて、5月の親善試合では、ベッカムが所属するロサンゼルス・ギャラクシーと対戦しました

 ベッカムとはちょうど対峙するポジション関係だったんです。ですから、彼のプレーを間近で見させてもらいました。彼は無理なプレーをしないんです。いいパスを出せるときは早めに出す。厳しいようなら別の選手に預ける。
 ただ、パスの正確さは相変わらずで、すべてのパスがピンポイントでした。だから、そのパスを出させないためにも体を寄せなきゃいけない。そこは常に意識してプレーしていましたし、それなりの対処はできたと思っています。ただ、どれだけ彼が本気だったかは分かりません。あと、ヨーロッパでプレーしていた時期と比べたら、運動量は多少落ちていたかな。僕らはその試合に勝ったんですが、ベッカムは悔しがっていましたよ。

――USLには元日本代表FWの鈴木隆行選手(ポートランド・ティンバース)も所属していますよね。何度か対戦する機会があったと思いますが

 彼と対戦するチャンスは全部で3回ありました。でも、1回目は僕がけがをしていてポートランドのアウエー戦(5月24日)に行けませんでした。2回目のホーム戦(6月7日)では、隆行は出場したんですが、僕がけが明けで最後までベンチ止まりでした。3回目のホーム戦(8月22日)のころにはけがが完治して、先発フル出場したんですが、今度は隆行がけがをして、バンクーバーにすら来ていなかったんです(笑)。だから、1回しか会えなかった。隆行とは、USLの日程について話しました。30試合を約6カ月間でこなしていかないといけないので辛いな、と。あとは移動の大変さについてかな。
 USLにはカリブ海のプエルトリコのクラブが所属しているんですが、アウエー戦は、朝6時にバンクーバーを出発して、向こうに着くのは夜の21時すぎ。移動は大変ですし、時差や暑さもありますからね。最初は慣れるまでに苦労しました。

――そのアウエーのプエルトリコ戦(8月31日)で、入団後初ゴールを記録しました。後半41分に挙げたFKからのゴールで、バンクーバーは1−1の同点に追いつき、勝ち点1を得ました

 実はシーズン中に一度もFKを蹴ったことがなかったんです。それなのに、ベンチから監督が、「タカ、おまえがFKを蹴れ」って。「え、おれが?」ですよ(笑)。「今まで一度も蹴ってないのに?」ってね。
 結果的には、うまくゴールすることができました。チームが同点に追いついたのは良かったんですが、あのゴールで勝っていたらもっと良かった。でも、相手チームに勝ち点2を与えなかったので良しとします。自身の海外初ゴールだったし、みんな喜んでくれたのは本当にうれしかった。

34歳で新人賞を獲得

左サイドバックを任される平野は、持ち前の攻撃力を生かしてリーグ優勝に貢献 【Vancouver Whitecaps FC】

――チームでは左サイドバックを務めることが多かったですよね。平野選手と言えば、左サイドを駆け上がる攻撃的なイメージが強いですが、入団当初から守備的なポジションを?

 いや、もともとは攻撃的なポジションでした。でも、左サイドバックを務めていた選手がヨーロッパに移籍すると、監督から「できるか?」って言われて。それで「できないわけじゃないけど」って答えたんです。そしたらシーズン最後まで左サイドバックをやっていました(笑)。でも、日本で全くやっていなかったわけじゃないので、違和感なくプレーできましたよ。
 サイドバックですが、監督からは攻撃的な役割を求められています。前の選手を追い越してチャンスメークをしたり、左MFの選手がチャンスメークできるようなパスを出したり。

――シーズンを通した活躍が認められて、リーグのベストイレブン、チーム内の新人賞(新加入選手に対する賞)を受賞しました

“34歳で新人賞”というのも違和感がありましたが(笑)。まあ、年齢を考えると、なかなかもらえない賞をもらったと思います。

――でも、今の年齢の平野選手だからこそ、チームの若い選手たちに何か与えられるものがあると思います

 今までプロ選手として培ってきたものを、試合でも、練習でもひたすら実践することを努めています。すごく地味な作業かもしれませんが、選手に直接言葉を掛けるよりも、グラウンドの上でいろいろなことを見せる方が伝わりやすいですから。
 そして、積極的に質問してくる若手には、僕もしっかりと答える。本当に自分がうまくなりたい、今後もプロ選手としての人生を送りたい、という選手は常に質問してきます。やはり若い選手はそうあるべきだし、そうじゃなかったらプロとして成功しないと思います。

――海外でプレーしてみて、平野選手自身に何か変化はありましたか?

 もちろん、ありますね。日本とは全く違う文化に身を置くわけですから、生活になじみ、その上でプレーに専念することの大切さをあらためて感じました。私生活は自分のプレーに間違いなく影響してきます。
 これは日本でプレーしていたときの話ですが、多くの外国人選手が、チームの助っ人としてJリーグに来ますが、中にはなかなか結果を出せずに日本から去っていく場合も多い。そういう選手は、私生活で満足できていない場合が多いんです。必ずピッチ上にそれが結果として表れてしまう。それは今回バンクーバーに入団して、自分が“外国人選手”となって気づきました。私生活がいかに充実しているか、その大切さを身を持って感じました。

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