柴田亜衣、笑顔のなかにある強さ=競泳 女子1500m自由形決勝
守りに入ったパンパシでの反省
本来の姿を取り戻し、3レース連続で自己記録を出している柴田 【(C)Getty Images/AFLO】
その4カ月前の日本選手権では、腰痛のために世界選手権の派遣標準記録IIさえ突破できず、優勝無しで終わっていた。
アテネ五輪後、初めて迎えたといっていい危機。それを彼女はパンパシのメダル獲得で乗り切った。だがそれでも彼女は不満気だった。初日の1500mでは16分11秒13の自己ベストを出したものの、ジーグラーとピアソルには最初から突き放されての3位。優勝した3日目の400mと2位になった4日目の800mは自己記録には届かなかった。
大会が終了すると、柴田はこう言っていた。「400mと800mは前半が遅すぎでしたよね。いつもイーブンペースだけど、今回の400mのように、前半より後半の方が速い(200m通過2分04秒41。ゴールタイム4分07秒61)っていうのはあまりなかったから。田中先生(孝夫・鹿屋体育大コーチ)に『前半が遅いね。ちょっと消極的すぎない』と言われたんです」
日本選手権で不満足な泳ぎしかできなかった彼女は無難に結果を出そうとし、いつのまにか守りに入っていたのだろう。だがそんなことでは世界には通用しない。それは重々承知のことだった。
積極性で深めた自信
そして彼女自身が、最も重要な種目だと思う800mに向けては……。
「1500mに出る意味というと、一番は800mが短く感じるということなんですよ。それに400mと1500mで自己ベストを出せたから、気持ちもノリノリでいけるし。800m(決勝31日)もこのままいけば、絶対に自己ベストが出ると思うんです」
1500mでライバルのマナドゥは、8位に沈んだ。だがこの日彼女は午前中に200m自由形の予選(1位通過)を泳ぎ、午後は100m背泳ぎ決勝(2位)と200m自由形準決勝(5位通過)も泳ぐというメチャクチャなスケジュールだった。だが五輪種目であり、昨年世界歴代2位の8分19秒29をマークしている800mには照準を合わせてくるはずだ。
「800mは、負けると多分、ほかの種目より悔しいと思うから。決勝では前半を遅くて4分10秒で入るつもりです。もし10秒を切って入れるようなら、自己ベストは確実に出ると思います」
柴田の800mの自己ベストは04年アテネ五輪で出した8分24秒54。そして山田が持つ日本記録は8分23秒68。800mでも日本記録更新となれば、彼女のひとつの目標でもある、400mから1500mまでの自由形中・長距離の日本記録を独占することになる。
今、その可能性は高い。
好調さを支える自分らしさ
「だからといって油断しないようにしないと。結果ばかり気にして自分らしさを忘れてしまったら、失敗してしまうし。もう、2年前の失敗を繰り返したくありませんから」
笑いながら気を引き締める柴田。彼女はダークホースとして金メダルを獲得したアテネ五輪とは違う、新たな柴田亜衣として北京五輪へ挑戦する準備を、この世界選手権でしようとしている。31日の800m決勝は、その仕上げのレースになるのだろう。
<了>