プロバスケットbjリーグ、2年目の進化

鈴木栄一

向上を見せる“ゲームの質”

大阪エヴェッサの連覇で幕を閉じたbjリーグの2年目。日本初のプロバスケットリーグとしての課題、手ごたえとは…… 【鈴木栄一】

 今季がリーグ創設2年目の男子プロバスケットボール、bjリーグのプレーオフが4月21日、22日に東京・有明コロシアムで行われた。レギュラーシーズン上位4チームの大阪エヴェッサ(1位)、新潟アルビレックス(2位)、高松ファイブアローズ(3位)、大分ヒートデビルズ(4位)による勝ち抜きトーナメントで行われ、21日のセミファイナルでは大阪が69対63で大分を、高松が79対67で新潟をそれぞれ下して22日のファイナルに進出。初代王者の大阪が、新加入の高松を94対78で撃破し連覇を達成した。シーズンMVPには、セミファイナルで27得点、ファイナルで33得点を挙げた大阪のデイビット・パルマーが選出された。また、大分対新潟の3位決定戦は、大分が90対72で快勝した。

 さて、大阪の連覇で幕を閉じたbjリーグの2年目。大阪の天日謙作ヘッドコーチ(以下、HC)は「昨年の優勝と比べると、今年の方がかなり大変だった。特に各チームともサイズアップをしており、ゴール下のリバウンド争いに苦戦した」と振り返った。レギュラーシーズンの成績は昨季の31勝9敗に比べ、今季29勝11敗と勝率的には大差ない。しかし、平均得失点差は、昨年の10.2点から5.6点へと半分近くにまで減少している。リーグ全体のレベルが上がり、昨季以上に厳しい戦いだったと言うのもうなずける。
 背景には日本人選手の台頭もある。bjリーグには外国人の出場制限枠がなく、各チームとも3〜4人の外国人選手を起用している(※日本バスケットボールリーグでは、一度に出場できる外国人選手は2人まで)。そのため、日本人選手の存在感が薄いことを疑問視する声も挙がっていたが、今季を見ると例えば準優勝した高松ではセミファイナルで岡田優がチームトップの23得点、ファイナルでは中川和之が20得点を記録。また、ベスト5に選出された東京の青木康平が3月11日の試合で38得点をたたき出すなど、日本人選手が試合の勝敗に大きな影響を与えるケースが増えてきている。総体的に見て、日本人選手のレベルも上がったことから、昨年までと比べて接戦になる試合の割合は増え、ゲームの質自体は高くなっていると言えるだろう。

観客数増、大会場確保は引き続き課題

MVPを獲得したデイビット・パルマー(写真)を擁する大阪など、着実に観客動員数を伸ばしているチームもある 【鈴木栄一】

 試合内容の向上と同じく、プロリーグにとって発展に欠かせない要素が観客数の増加だ。言うまでもなく、入場料収入は各チームの貴重な財源となる。観客数が多い人気リーグ、チームとなれば、より多くの、そしてより高額のスポンサー契約を獲得しやすくなり、リーグ全体としても潤うことになる。リーグ定着への一つの指標として、観客数についてはシーズン開幕から特に注目していたが、今年のプレーオフ2日間の観客数は初日が5724人、2日目は8019人で、昨年のプレーオフ(初日5450人、2日目7641人)とほぼ同じ結果となり、同じ有明コロシアムで行われた東京対大阪の開幕戦9170人を上回ることはできなかった。河内敏光コミショナーは、「今年は昨年と比べ、ファミリー層を意識してプロモーションを行ってきた。しかし、小さいお子さんにとって2試合、5〜6時間、同じ場所にいるのは大変なこと。お子さんへの対応というのは、今後の課題。また、なんだかんだいっても地元の東京(アパッチ)が、昨年と違って出場していなかったことも影響した」と、分析している。

 プレーオフだけでなく、シーズン全体を総括した場合、観客数については1試合平均で2486人と昨年の2078人を上回った。しかし、一方でシーズン開幕前に目標として掲げていた1試合平均3000人、総観客数50万人という目標には達成できなかった(今年の総観客数は39万7788人)。この件について河内コミッショナーは、「目標を達成できなかったのは残念。しかし、今季はリーグの知名度をもっと各地域で広めようと、いろいろな場所で試合を行った。大阪や新潟など4000人以上を集客できるチームが、満員でも2000人規模の小さな体育館で試合を行っていたこともあった。会場の占有率については満足している」と、コメント。それならば観客数アップのために、来季は大会場での固定開催を実施するかの問いをしたところ、「リーグが行政に対しては、まだまだ認められていない部分もある。地域との共存もあり、プロの試合だからといって他のいろいろな地域のイベントを差し置いて優先的に使わせてくださいとは言えない。大規模アリーナでの固定化は(まだ)無理な状況」と、施設確保の難しさを明かしている。

 この問題は、プレーオフの開催方式とも関わってくる。本来ならばホーム&アウエー方式で行うことが理想だが、1年も前に会場の利用を申請しなければならないという現状では、直前までカードが決定しないプレーオフ用の申請はほぼ不可能。全チームともプレーオフ用に会場を抑えておけば良いという考えもあるだろうが、人気のある施設を週末に抑えておいて直前にキャンセルというのは、施設を管理している地元自治体との信頼関係が完全ではない現状では、今後の利用を考えると無理なことだ。信頼関係とは一朝一夕で生まれるものではなく、今年でようやく2年目を終えたbjリーグにとって、会場の問題は今後も大きな課題となってくるだろう。

地域拡大へ沖縄、福岡が加入 オーエスジーの移籍も

沖縄で行われたオールスターで、大歓声を受けた地元出身の呉屋貴教(富山グラウジーズ) 【鈴木栄一】

 一方、明るい話題も出てきている。bjリーグは今年、観客動員とともにメディアへの露出を大きな目標にしてきた。こちらの面では、BSフジでのレギュラー番組誕生など「何とか目標はクリアできたかと思っている」(河内コミッショナー)と、成果を挙げることができた。プレーオフには出場チームの地元から多くのメディアが詰めかけ、約100社が取材に訪れていた。また、ファイナルでは自民党の中川秀直幹事長が、統一地方選の投票日でありながら試合前のティップオフイベントに登場。4月24日には優勝した大阪の首相官邸訪問が予定されているなど、リーグの知名度アップへさまざまな試みを行っている。海外のリーグとの交流にも積極的に動いており、会場を確保できなかったために実現できなかったが、今年の秋にはユーローリーグとのプレシーズンマッチ開催の合意に達していた。そして昨秋に実施した韓国リーグKBL王者とのチャンピオンシップは、今年も開催を予定している。

 また、目標とする東カンファレンス6チーム、西カンファレンス6チームによる12チームのリーグ構成についても、今季の富山グラウジーズ、高松に続き、来季には琉球ゴールデンキングス(沖縄)と福岡ライジングBBの2チームが新規参入し計10チームとなる。その沖縄で今年行われた第1回オールスターゲームには、満員となる3223人が集まった。試合当日は会場がオープンする1時間以上前から数百人が入場待ちで長蛇の列を作り、試合終了後に会場で行われた選手のサイン会にはほとんどの観客が詰め掛けるなど、大変な盛り上がりを見せていた。このオールスターゲームでの観客の熱狂ぶりを見ると、来季の沖縄では多くの観客が期待できそうだ。また、2009年の参戦を目指し、現在はJBL(日本バスケットボールリーグ)に所属するオーエスジーがbjリーグ加入申請を行っていることも明らかになっている。リーグ側は、他にも申請しているチームがあり地域性などを考慮して決める、と述べている。オーエスジーは現在、愛知県豊橋市、豊川市を本拠地としている。そして、地域性で見るとbjリーグにはまだ愛知県、静岡県といった東海圏をフランチャイズとしているチームはない。資金力については申し分ないオーエスジーを母体とするプロチームが、現在の拠点である愛知県など東海圏をホームタウンとするならば、有力な参入候補となってくるのは確実だ。

 新潟、大阪と観客が順調に伸びているチームがある一方、東京、埼玉と首都圏のチームが苦戦している現状。また、アリーナの確保や日本人スター選手がまだ少ないことなど、課題はある。しかし、bjリーグは今年でようやく2年目を終えたばかり。観客も増加し、メディアの露出が増えるなど、着実に前進していることも確かだ。3年目には、どんな進歩を遂げるか、リーグの更なる進化を楽しみにしたい。

<了>
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著者プロフィール

1977年、山梨県生まれ。アメリカ・オレゴン大学ジャーナリズム学部在学中に「NBA新世紀」(ベースボールマガジン社)でライター活動を開始し、現在に到る。毎年、秋から冬にかけて母校オレゴン・ダックスの成績に一喜一憂している。

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