課題と可能性が垣間見えたスタート=新生JBL開幕戦リポートコラム

鈴木栄一

アイシンの勝利で幕開け

開幕戦は、アイシンが勝利。写真は、第4Q終盤のダメ押しシュートなど、14得点を挙げた柏木 【鈴木栄一】

 10月11日、バスケットボール男子日本リーグ(JBL)の開幕戦となる日立サンロッカーズ(以下、日立)対アイシンシーホース(以下、アイシン)が東京体育館で行われた。試合はアイシンが第1Qにいきなり13対0とスタートダッシュに成功し、第1Qを終え20対8と大きく先行。第2Qに入ってもアイシンは、アメリカ人選手のジャメイン・テイトをケガで欠き、高さで劣る日立相手に着実に得点を重ね、38対18と大量リードを奪って前半を終える。しかし、第3Qに入ると「後半は選手たちが吹っ切れ、チームのコンセプトである速さを発揮することができた」と小野秀二ヘッドコーチ(HC)が語ったように、日立は持ち味であるスピード感溢れるバスケットを展開。このQで点差を9点にまで縮める。
 さらに第4Qに入っても日立の勢いは止まらず、カール・トーマスの連続得点などにより残り約5分で1点差にまで詰め寄った。しかし、アイシンは、ここから地力を発揮しアルファ・バングラ、桜木ジェイアールらが得点を挙げると、最後は柏木真介のシュートで再び10点差に突き放し67対57で勝利を飾った。前半の楽勝ペースから、一時は危ない場面もあったアイシンの鈴木貴美一HCは、「試合の入り方は良かったが、第3Qは自分たちのオフェンスが悪く、日立にスピードのミスマッチを突かれてやられしまった。しかし、最後はきちっと締めて勝てた。トータルで見て、相手を57得点に抑えたのは良かった」と振り返った。

エンターテインメント面は課題も

 これまでのスーパーリーグから日本リーグと名前を変更し、新しいスタートを切ったJBL。しかし、演出面ではスーパーリーグ時代と比べ、良くも悪くも目立つような大きな変更はなく、試合の演出面は課題の一つと言える感じだ。例えば、試合中に流れる音楽はオフェンス、ディフェンスともにワンパターンで単調。また、新リーグの開幕戦という記念の試合でありながら、試合前、ハーフタイムに特別ゲストが登場し、歌やダンスなどを披露するといったパフォーマンスもなし。リーグの活動規範の一つとして「スポーツビジネスとしての成立のために」というスローガンを抱えているにしては、1試合を通して観客を飽きさせないためには工夫がまだまだ足りないと感じた。世界一のプロリーグであるNBA(米プロバスケットボール協会)でさえ、試合中に観客を楽しませようとさまざまなイベントやパフォーマンスを行っている。JBLがスポーツビジネスとして成立するため、観客を増やすには質の高い試合に加え、プラスアルファとなるエンターテイメント性をより高めることが必要だろう。

竹内兄弟がJBL初対決

開幕戦でJBL初対決が実現した竹内兄弟(左が兄の公輔、右は弟の譲次) 【鈴木栄一】

 開幕戦の大きな注目ポイントの一つが、アイシンの竹内公輔、日立の竹内譲次の205センチ双子対決だった。日本代表の2人は、すでに大学時代(公輔が慶応大、譲次が東海大)に何度か対戦している。そして東海大が76対73で競り勝った昨年のインカレ決勝では公輔が29得点、13リバウンド、譲次が30得点、16リバウンドを挙げるなど、両者とも大学ではチームの絶対的な中心選手だった。しかし、JBLでの初対戦となった今回の試合を見る限り、今の2人のチーム内に置ける立場は違っている様だ。

 日立は外国人のテイトが欠場中であり、インサイドの軸の一人としてゲームハイの38分26秒出場の譲次は7得点、10リバウンドという数字に「得点はシュートの本数からいって15得点、リバウンドは出場時間からいってあと2〜3本は取らないといけない。テイトがいない分、自分がもっと頑張らないといけなかった」と、チームの主力として納得していなかった。そして、公輔については、「アイシンは外国人選手が2人いることもあり、ノーマークの状況からしか打ってこなかった。敵としては嫌だが、もっと攻めて来られた方が恐い印象があると思う」と語っている。

 一方の公輔は、チームの主力選手として34分19秒の出場で10得点、8リバウンドを記録。だが、譲次の発言については「大学時代は自分がチームの中心だったが、アイシンの中心はバングラやジェイアール。チームとしては1番確率の高い所(バングラやジェイアール)から攻めるのが大事だと思う。しかし、コーチからはミスを恐れずに思いっきりやれと言われており、これからは徐々にオフェンス面でも目立っていきたい」とコメントするなど、自分でも積極性の面で足りないことを自覚している様子。タレントぞろいのアイシンにいることもあり、まずはサポート役という意識の方が強いように感じた。現在の2人の状況を見れば、譲次の方がチームの勝敗により大きく影響を及ぼす立場と言えるだろう。

試合増の成長促進に期待

 今季のJBLはレギュラーシーズン試合数が昨年より11試合増え、計35試合となった。スケジュールは厳しくなった訳だが、鈴木HCは、「試合数の増加は良いこと。今まで試合数が少なく、若手が経験を積める機会が少なかった」と歓迎している。また、「これまで外国人に頼ることが多かったが、日本人が外国人を破るようになってもらいたい。譲次君、公輔君ともパワーでは劣るが、高さとスピードではJBLの外国人選手より上。彼らの素材は間違いない。また、竹内兄弟以外にも東芝の石崎(巧)君、菊地(祥平)君ら、有望な若い選手がいます。彼らには経験を積んで、日本に来ている“NBAに行けなかった”外国人選手には負けないようになってもらいたい」と、試合数増加が若手の成長を促進することを期待している。鈴木HCの語ったように若手選手たちが、リーグ戦で外国人選手と互角に渡りあう姿をぜひとも見てみたい。なぜなら、それこそが日本代表の復活に欠かせないことだからだ。

<了>
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著者プロフィール

1977年、山梨県生まれ。アメリカ・オレゴン大学ジャーナリズム学部在学中に「NBA新世紀」(ベースボールマガジン社)でライター活動を開始し、現在に到る。毎年、秋から冬にかけて母校オレゴン・ダックスの成績に一喜一憂している。

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