初出場校がドラマを見せた開幕日=ウインターカップ2007 第1日

渡辺淳二
 高校生のスポーツの試合には、観る者の心をつかんで離さない力が宿る。甲子園球場で行われる夏の高校野球。準決勝以降の舞台となる国立競技場を目指して行われる、年末年始の高校サッカー。そしてクリスマス・シーズン、今まさに東京体育館で開催されているのが、バスケットボールの全国大会、ウインターカップだ。いずれも共通して感じられるのは、試合にかける高校生たちの熱い気持ち。いくつもの思いが一塊の力となって、強烈なメッセージを発してくる。
 試合を待つまでもなく開会式でさっそく、高校生の心底をうかがえる一言が耳に飛び込んできた。男子の昨年王者・洛南(京都)の田村晋主将と、昨年のチャンピオンを福岡県予選で下し、大会初出場を遂げた九州女子(福岡)・田中綾主将の選手宣誓だ。
「感謝の気持ちを忘れず、精一杯頑張りたい」
 感謝――。監督、両親、そしてチームメート。自分たちをこの大舞台に立たせてくれた人たちへの気持ちが込められた、素晴らしい宣誓だった。

冬、初勝利の味

 ウインターカップの特徴の一つは、大会4日目となる12月26日まで4面以上のコートを使い、男女の試合が東京体育館だけで一斉に行われるところである。注目カードと目されている試合を見ていると、接戦の様相を呈する別のコートから大歓声が巻き起こる。まさにウインターカップのパワーを感じる、この瞬間がたまらない……。
 そんな中、一際注目を集めたのが初出場チームである。なんと、男女ともにうれしい初勝利を飾ったチームがあるのだ。
 男子・金光桐蔭(大阪)は序盤リードを奪いながら、10年前の準優勝チーム・山形南(山形)に猛追され、一瞬ペースを乱した。それでも、序盤のリードを守り抜いた。金光桐蔭の武田充広コーチは、「40分間集中しろと言っているのに、気が抜けている時間がありました。なにしろまだ創部5年目のチームなものですから」と苦笑を浮かべる。
 今大会に合わせて作り直したユニフォームには、鮮やかに「STAG BEETLES」の文字が輝く。“クワガタ”という意味のこのチーム名は、ディフェンスで相手に襲い掛かってほしい、というコーチの願いが込められたネーミングだ。
「今日は角のないクワガタでしたがね(笑)。次の金沢戦をしっかり戦い抜いて、能代工に挑戦してみたい」と、武田コーチは次を見据えていた。

高さに勝った“ちびっ子集団”

 一方、女子の初出場チームの中では、市立長崎商業(長崎)が城北(徳島)との激闘を制した。
 粘り強くディフェンスして、相手のシュートミスを誘う。しかし、リバウンドが取れない。市立長崎商業の160センチ前後の選手が腕を精一杯伸ばしてボールに触ろうとすると、高さのある城北がボールをかっさらっていく。そんなシーンが幾度となく見られた。何しろ、市立長崎商業には150センチ台の選手が5人もおり、スタメン平均身長も城北の168.4センチに対して約160センチとかなり低いのである。
 そんな“ちびっ子集団”が高さに打ち勝つ秘訣は何なのだろうか。市立長崎商業の山崎寿郎コーチはこのように説明する。
「(シュートが放たれた瞬間)相手をゴールに近づかせないようにブロックアウトを徹底する。そして、相手のエースにボールが渡ったら3人がかりで対処しています」
 勝負どころの3ポイントシュートを決めた158センチの川上知絋主将も「うちのチームの中では大きい方の選手がブロックアウトをしてくれるから、私たち小さい選手がリバウンドを取るんです」と、力を込める。まさに全員バスケットでつかんだ勝利だった。

 初日から熱戦が相次いだウインターカップ。高校生活最後の全国大会に臨む3年生の思いがひしひしと伝わってきた初日だった。この大会の魅力を一人でも多くのスポーツ・ファンの方々に感じてほしい。ウインターカップは、12月29日まで東京体育館で連日開催されている。

<了>
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著者プロフィール

1965年、神奈川県出身。バスケットボールを中心に取材活動を進めるフリーライター。バスケットボール・マガジン(ベースボール・マガジン社)、中学・高校バスケットボール(白夜書房)、その他、各種技術指導書(西東社)などで執筆。

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