“成功”の秘訣はコートの外にあり =ウインターカップ2007 第4日

渡辺淳二

県立能代工業が大事にしていること

 ウインターカップ3年ぶりの優勝と、同時に9年ぶりの3冠を目指す県立能代工業(秋田)が順当に3回戦を突破した。最後に3冠を獲得した1998年(第29回大会)は、現在米国でプレーする田臥勇太を中心に3年連続で3冠、すなわち「9冠」を成し遂げた年。前代未聞の快挙に、東京体育館は異様な熱気に包まれた。あれから9年がたった今もなお、強豪校であり続けられるのはどうしてだろうか――。

 大会初日。開会式が始まる30分も前に、コートの中央に整列する県立能代工業のメンバーの姿があった。周りにはどのチームもいない。場内がざわめく。
「何でも一番を目指しています。だから真っ先に並ぼう、と。それが能代工業らしさですから」
 そう説明してくれたのは県立能代工業の新岡潤マネージャーだ。県立能代工業では代々、ベンチに入れるくらいにプレーのうまい選手がマネージャーになる。それはマネージャーという役割を重要視しているからにほかならない。加藤三彦コーチが職務などで不在の時には、選手たちはマネージャーの指示に従う。
「練習の合間の切り替えや練習試合などの準備にしても、一つ一つの行動を素早く行うようにしています。そうした心構えが試合にもつながるからです。たとえAチームの選手が試合に出る機会が多くても、ベンチ入りしていないメンバーも含めていかに一体になれるかが大事だと思います。ですから、Bチームが練習試合をする時などは、Aチームにもテーブル・オフィシャルズやモップなどの係をしっかり務めさせているのです」
 試合終了直後、加藤三彦コーチの隣りで戦況を見つめていた新岡マネージャーが最後まで残り、チームメイトが座っていたいすを一つずつきれいに並べ直す姿が印象的だ。
「試合のスコアブックもこれから先、ずっと残されていくものなので、丁寧につけるようにしているんですよ」
 県立能代工業の強さの秘訣(ひけつ)は、そんなところにも隠されていそうだ。

ウインターカップを支える高校生

 このウインターカップも、試合には出場しない高校生たちによって支えられている。T・O(テーブル・オフィシャルズ)、記録作成、受付などの役割にあたる大勢の高校生スタッフが広い体育館を行き交っている。プレスルームで報道陣の仕事をサポートしてくれている報道委員の高校生スタッフに、その役割について話を聞いた。
「作成された記録や資料をコピーしてから整理したり、報道の受付などもしています。大会の裏側を見られるのは楽しいですね。それに受付であいさつした時、あいさつを返してもらえると私たちもうれしいです。でも、難しいところもあります。昨年、初めてこの役割にあたった時には、電話に出ることすら、みんなが目を見合わせて譲り合うような感じでした」
 今年は、「はい、東京体育館プレスルームです」という電話の受け応えから、さまざまな用件への対応もスムーズにできるようになったそうだ。
「バスケットボールの面白さを少しでも多くの方に広めてもらえるように、私たちも頑張ります」と、彼女たちは目を輝かせた。
 一方、観客の誘導、ご案内、応援の入れ替えなどにあたる会場委員の高校生スタッフは、その役割についてこう説明する。
「私たちはゴミ拾いや、ゴミ箱の中のゴミの回収が主な役割です。ゴミって、すぐにたまるのでマメに回収するようにしています。手際よく仕事を進めるには、やっぱりお互いが協力し合うようなチームワークが大切ですね。……できれば、飲み残しを捨ててから、ペットボトルを分別していただけると助かります」
 なるほど、エコの意識をしっかり持って、会場をきれいにしてくれているというわけか。そんな高校生たちの頑張りが、ウインターカップをより素晴らしい大会にしている。

 そんな大会スタッフに対して、県立能代工業の新岡マネージャーは、頭を低く下げるようにして言う。
「大会を支えてくれるのを、ありがたく感じています。作成して下さる記録の戦評を見て、自分たちがどう見られているか知ったり、記録のデータをもとに戦う準備をしています。そして選手がケガしないようにモップがけしてくださるから、精一杯の力を発揮できるのです」

 大会はいよいよ5日目。終盤戦に突入しようとしているが、東京体育館で試合の名シーン、選手たちの名プレーを存分に堪能していただきたい。そして立派に働く高校生を見かけたら「ご苦労さま」と、一言声を掛けてみてはどうだろうか。

<了>
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著者プロフィール

1965年、神奈川県出身。バスケットボールを中心に取材活動を進めるフリーライター。バスケットボール・マガジン(ベースボール・マガジン社)、中学・高校バスケットボール(白夜書房)、その他、各種技術指導書(西東社)などで執筆。

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