強豪の高さと戦う挑戦者たち =ウインターカップ2007 第5日

渡辺淳二

聖カタリナ女子、高さへの挑戦

 180cm台の選手5人を擁する東京成徳大(東京)、4人の180cm台と190cmの1年生・渡嘉敷来夢を擁する桜花学園(愛知)が下馬評どおり、今年の女子高校界のファイナリストとなった。だが、圧倒的な高さを誇る両チームに対して、4強入りを収めた聖カタリナ女子(愛媛)と山形市立商業(山形)、両チームとも手をこまねいて見ているだけではなかった。高さに挑む戦術・戦略がはっきりと見受けられた――。

 東京成徳大に準決勝で敗れた聖カタリナ女子・一色建志コーチは、間髪入れず「高さ」を敗因として挙げた。
「東京成徳大の間宮(佑圭/183cm)と篠原(恵/180cm)にある程度得点を取られるのは仕方がない。しかしもう少し、センター陣の前に出てディフェンスしてほしかった」
 センターの前に出て守るというのはつまり、ゴール下から外に向かって相手を押し出す基本的なディフェンスをするのではなく、思い切って前に出てパスコースを遮断することを意味する。攻撃側のセンターにゴール下でパスを受けられたらほかの選手がカバーするという、そのディフェンス面の戦略を有効に生かせなかったというのだ。

 それでも、聖カタリナ女子の脚力の強さ、当たり負けしない強さは、東京成徳大に対してボディーブローのごとくダメージを与えた。しかし、「東京成徳大には、3人も4人も控えが充実していますから」と一色コーチが苦笑を浮かべるように、試合の途中からコートに送り込まれる180cm前後の選手が、疲れの出始めた聖カタリナ女子の抵抗を抑えた。
「勝ちきる力がありませんでしたが、また鍛え直します」と、一色コーチは再挑戦の意志をはっきりと示した。

山形市立商業の対抗策

 初の4強入りとなる山形市立商業は、聖カタリナ女子と同様に「センターの前に出るディフェンス」で、桜花学園に食い下がった。だが、オフェンスを展開しているまさにその時、山形市立商業・高橋仁コーチの声が激しくコートへと向けられた。
「動け! 動け! 動け!」
 桜花学園のディフェンスを振り切って、シュートチャンスを作らせる指示だ。
「1対1の状態で、ドリブルして得点を取ることは難しい」(高橋コーチ)と、桜花学園の能力が上であるということを前提に、チームオフェンスを組み立てる山形市立商業。だが、攻撃の動き方を読まれていた。

「国民体育大会で対戦していますし、大会前の練習試合もしていましたから。でもその分、怖じ気づかないでプレーできたと思います」
 ベスト4が決まった直後も「今年は、崩れそうで崩れない気持ちの強さがあった」と語っていた高橋コーチ。高さに圧倒されてもゲームを捨てず、最後まで戦い抜いた選手を手放しで褒めたたえていた。

東海大学菅生、64歳コーチと選手たちの戦い

 東海大学菅生(東京)がウインターカップ初出場でベスト8に入る快挙を遂げた。名門・京北(東京)に並ぶこの戦績は、東京勢の躍進を印象付けた。
「(東京開催の)地の利で勝ったようなものですよ」と謙遜(けんそん)するのは東海大学菅生の小山正男コーチ。御歳、64歳。同校を指導する前は都内中学校の教諭として指導の日々を送っていた。全国中学校大会で3年連続ベスト8のほか、自身が練習で育てた中学校が全国優勝をしたこともある(※ベンチには入っていない)。また、日本代表の網野友雄(アイシン)が東海大学菅生で本格的にバスケットボールを始める前に、基本をたたき込んだのは小山コーチだった。

 このベテラン指導者に率いられて5年目となるチームは、ディフェンスで持ちこたえてカウンターを仕掛けるスタイルで東京都予選を突破。201cmのセネガルからの留学生がいるチームにも決して屈しなかった。
「バスケットは1対1でやるものではない。5対5で戦うんだということを選手に言い続けました。たとえ相手に高さがあっても、インサイドから逃げるのではない。相手との間合いを考えながら戦うのです。普段から高さのあるチームを想定して練習を積み重ねたことが、チーム力をアップさせたかもしれません」と小山コーチ。
 しかし、準々決勝で対戦した福岡第一(福岡)戦では、195cmと201cm、2人の留学生に加え、高校界屈指のガード並里成の存在が大きすぎた(※12月25日のコラム参照)。
「ゴールに向かって切り込んでくるのがうまいし、いろいろなことができる。(高さもうまさも兼ね備える)チームと対等に戦うには、体力面を強化できるくらいの練習時間を確保しないと厳しい。それが今は、2時間半しか練習できない環境なのです」

 それでも、64歳、小山コーチはあきらめていない。
「ベスト8に入ればベスト4に入りたくなるし、人間の欲は尽きないですよ(笑) とにかく、どんなに弱いチームでも丁寧に教えて頑張らせたい。バスケットが好きなヤツはみんな友だちですから!」

 小山コーチは50歳近く年下の、孫のような教え子たちに囲まれながら、高さやうまさ、そして速さに挑戦する人生を謳歌(おうか)しているかのようだった。

<了>
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著者プロフィール

1965年、神奈川県出身。バスケットボールを中心に取材活動を進めるフリーライター。バスケットボール・マガジン(ベースボール・マガジン社)、中学・高校バスケットボール(白夜書房)、その他、各種技術指導書(西東社)などで執筆。

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