出場を逃した学校の奮闘に期待=ウインターカップ2007 第6日

渡辺淳二

超大型ルーキー「ラム」

桜花学園が誇る190cmの1年生センター・渡嘉敷来夢(写真は準決勝・山形市立商業戦より) 【写真提供:(C)日本バスケットボール協会】

 ウインターカップは数々の名プレイヤーを輩出してきた。1989年に、県立金沢総合(当時の県立富岡)の得点源として準優勝に輝いたジェットこと、中原貴子(旧姓・加藤/元シャンソン化粧品)。1992年に、オールラウンドの活躍で東亜学園を準優勝に導いたエースこと、大山妙子(元JOMO)。
 1994年に、目を疑いたくなるようなジャンプ力で周囲を驚愕させた純心女子のミラこと、永田睦子(元シャンソン化粧品)。
 3選手とも、決勝の「メーンコート」に立ちながらあと一歩のところでウインターカップ優勝を逃したが、その後日本代表としてオリンピックにも出場。高校生当時のプレイぶりは「怪物伝説」として今なお語り継がれている――。

 そして2007年、日本女子バスケットボール界待望の超大型プレイヤーがついに現れた。桜花学園(愛知)の1年生・渡嘉敷来夢(とかしき らむ)である。身長190cm、ジャンプ力をも兼ね備えた高さに加え、中学時代からダイナミックなランニングプレイを披露してきた逸材。だが、ウインターカップの下位回戦では、「成長期に伴う痛みをヒザに抱えている」(桜花学園・井上眞一コーチ)ため、出場時間は限られていた。まだ背が伸び続けているという。そして、井上コーチがこうつぶやいた。
「決勝に間に合ってくれればいい」

桜花学園のキーマン

東京成徳大が桜花学園に激しくプレッシャーをかける 【写真提供:(C)日本バスケットボール協会】

 迎えた女子決勝、桜花学園(愛知)対東京成徳大(東京)。
「前の試合で『逃げている』と叱られたので、積極的に行こうと思った」という渡嘉敷が開始早々から大爆発!
 東京成徳大、183cmの1年生センターが必死にマークするが、渡嘉敷に渡るボールまで手が伸びない。
「ラム(渡嘉敷)の身長とジャンプ力を考えて、かなり高い位置にパスを入れるようにしています」とは、桜花学園・佐藤詩織主将だ。この司令塔に導かれるように渡嘉敷は、リングに程近い位置で受けるボールを次々とリングへと運んだ。さらに、「走って相手を疲れさせれば後半に相手の体力が落ちる」と井上コーチから言われたとおり、足の痛みを堪えて賢明に走った。ところが、東京成徳大が、1対1で守るマンツーマンから、スペースを埋めて守るゾーン・ディフェンスに切り替えると、桜花学園のリズムに狂いが生じる…。
 その時、桜花学園・佐藤詩織主将は「ハッ」とした。
「3年前の全国中学校大会の決勝と同じだと思いました。私は児玉中で相手は東京成徳中。その時もゾーン・ディフェンスを敷かれて、成徳の高さを打ち破れなかった。本当に悔しい思いをしました」
 しかも、東京開催の全国中学校大会だったため、まさに東京体育館のメーンコートで当時も戦っていた。
「あの時はミスをするとアタフタしたけど、今日は2点差に詰められても、『次』『次』って落ち着いていました。(渡嘉敷をはじめ)センター陣がしっかりしていますから」と佐藤。2点差に詰められたその緊迫した状況について記者会見で問われた渡嘉敷は「え?  2点差に詰められましたっけ?」と、きょとんとしていた。
 経験を積み重ねた3年生の佐藤と、コーチに言われることをまっとうした1年生の渡嘉敷。「普段から明るい、この2人がいるからチーム全体が明るかった」(井上コーチ)という今年の桜花学園。それもまた4年ぶりに3冠獲得できた要因の一つかもしれない。

3冠を取る難しさ

桜花学園が4年ぶりに3冠を達成した瞬間、歓喜に包まれた 【写真提供:(C)日本バスケットボール協会】

 高さとスピード、そしてパワーまで兼ね備えた桜花学園の優勝は順当な結果と言える。しかし、3冠を獲得したことにより、井上コーチは改めて感じたようだ。それは3冠を獲得する「難しさ」である。
「純粋な気持ちでプレイしてインターハイで優勝する。すると、受け身になって走らなくなるもの。そして進路を決定する時期も、気持ちがコートから離れてしまいがちだ。そこからいかにモチベーションを高めていくかなのです」
 昨年までの3年間、桜花学園はウインターカップ優勝を逃してきた。
「(インターハイで優勝した後)髪の毛を伸ばし始める選手も過去にはいました。『そんな髪の毛では重くて、リバウンドに飛べないだろう』と選手に諭すこともありした」
 選手たちの言動に目を配りながら、いかにバスケットに集中させるか。その成否が3冠に関わってくると井上コーチは言う。そして渡嘉敷の口からは、「来年も、その次の年も3冠を取りたい」と、早くも9冠宣言だ。1998年に県立能代工業しか達成したことのない3年連続3冠、すなわち「9冠」を女子で初めて達成しようと目を光らせる。だが、ライバルも当然、今度は黙っていないだろう。東京成徳大が誇るツインタワー、間宮佑圭(183cm)、篠原恵(183cm)が雪辱を誓う――。

 渡嘉敷来夢を擁する桜花学園をウインターカップで見られなかった! というバスケットボールファンの方々もご安心あれ。2008年1月1日には、第83回天皇杯・第74回皇后杯全日本総合選手権大会(通称:オールジャパン)に出場するため、東京体育館に戻ってくる。桜花学園が拓殖大と対戦する他、山形市立商業、岐阜女子、県立福井商業も出場。また、ウインターカップ出場を逃した中村学園女子、大阪薫英女学院の奮闘にも期待しよう!

<了>
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著者プロフィール

1965年、神奈川県出身。バスケットボールを中心に取材活動を進めるフリーライター。バスケットボール・マガジン(ベースボール・マガジン社)、中学・高校バスケットボール(白夜書房)、その他、各種技術指導書(西東社)などで執筆。

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