マリオン・ジョーンズの選択と人生

山脇明子

出所後、テレビ番組に出演

 陸上女子の五輪金メダリストで禁止薬物使用についての偽証罪などで禁固6カ月の実刑判決を受けたマリオン・ジョーンズが、米国の人気トークショー『オプラ・ウィンフリー・ショー』に出演し、その中で「もし薬物を使用していなくても、金メダルは取れたか? と自分自身に問うと、その答えは“Yes”」などと語った。
 ジョーンズと言えば、2000年のシドニー五輪で全米から熱い注目を浴びたアスリートだ。彼女がいくつのメダルを持ち帰るかに誰もが関心を持った同大会で、カメラはしつこいほどに、レース前の彼女の表情を追っていた。

 今でもあの場面を覚えている。ジョーンズは、何度も大きく深呼吸をし、目を閉じた。おそらく、緊張を和らげ、自らのレースをイメージし、自らの勝利を信じてレース前の時間を過ごしていたのだろう。そんな姿を見ていると、ただのテレビ観戦者のこちらまでが、ドキドキしていた。そして彼女が先頭でゴールを切った瞬間には、ホッと胸をなで下ろしたものだ。

バスケットでも名選手だったが……

 米国に住んでいるというだけで、日本人の私までもが、そんな気持ちで彼女のレースを見つめていたぐらいなので、米国のファンにとっては、あの時の彼女のレースを観戦した時の緊張と興奮と喜びは、相当なものであっただろう。
 それだけに、彼女が禁止薬物を使用していたと聞いた時は、誰もが落胆したに違いない。
 なぜなら、五輪という世界最高峰の戦いで純粋に感動したあの場面が、すべてうそになってしまうからだ。
 ただ、彼女が薬物に手を出さなくてもメダルを奪っていたのではないか? ということに関しては、私自身もそう感じている。

 ジョーンズは陸上のみでなく、バスケットボールでも名選手として有名で、バスケットの名門ノースカロライナ大に進学し、1年生の時には全米制覇を達成。03年には米女子プロバスケットボール協会(WNBA)のドラフトで、フェニックス・マーキュリーから指名を受けていたほどなのだ。
 それほど優れたアスリートだったのに、なぜ薬物に手を出さなければならなかったのか?

 一つの誤った選択が、才能ある選手の人生をヒーローから脱落者に大きく変えてしまった。 
 こういうニュースが一刻も早くなくなることを願ってならない。
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著者プロフィール

ロサンゼルス在住。同志社女子大学在学中、同志社大学野球部マネージャー、関西学生野球連盟委員を務める。卒業後フリーアナウンサーとしてABCラジオの「甲子園ハイライト」キャスター、テレビ大阪でサッカー天皇杯のレポーター、奈良ケーブルテレビでバスケットの中体連と高体連の実況などを勤め、1995年に渡米。現在は通信社の通信員としてMLB、NBAを中心に取材をしている。ロサンゼルスで日本語講師、マナー講師、アナウンサー養成講師も務めている。

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