18歳の入江が手にした大きな経験 4年後を目指して

萩原智子

200m背泳ぎ決勝で5位に終わった入江。目指すはロンドンでの表彰台だ 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】

 18歳の入江陵介選手が初めての五輪の舞台で、持ち前の美しい泳ぎを見せつけました。今季世界ランキング3位で迎えた、200m背泳ぎの決勝。最終結果は5位と残念な結果でしたが、彼はこの大舞台で、大きな“経験”という財産を手にしました。

メダル候補のプレッシャー

 2008年4月、入江選手は北京五輪日本競泳チームで、男子最年少代表として注目されていました。そんな彼に、転機が訪れます。6月に東京辰巳国際水泳場で行われた「JAPAN OPEN 2008」で、自らのベスト記録を2秒近く更新する1分54秒77をマーク。当時の世界記録に0.4秒まで迫りました。そこからは、一気にメダル候補に名乗りを上げ、大きな期待を受けることになりました。
 実は、私もシドニー五輪の際、試合前に、当時の世界ランキング3位で臨んだ経験があります。しっかりとした国際大会での経験がなかったのですが、一気にメダル候補になり、大きな喜びを感じた反面、大きな戸惑いも感じ取っていました。記録だけが先行し、経験不足の自分を忘れ、自分を見失ってしまいました。五輪は、経験が必要な大舞台です。どれだけ経験を重ねてきたベテランスイマーでも、五輪の魔物に足元を救われてきました。

 入江選手は、世界選手権にも出場経験がなく、主な国際大会経験と言えば、パンパシフィック選手権や世界競泳のみ。そんな中で、予選、準決勝、決勝と、五輪の大舞台で、自己ベストタイム更新まではいきませんでしたが、きちんと決勝まで記録を上げることができました。

北島から受けた最高の刺激

 試合後、彼は「全然ダメでした。4年後、頑張ります」と力強い握手をしてくれました。平泳ぎで2大会連続2冠を決めた北島康介選手とは、選手村の同部屋で生活を送っています。北島選手に金メダルを見せてもらい、「本当にかっこいいなと思った。4年後はしっかりトレーニングして、体調も完ぺきにして金メダルを取りたい」と、北島選手の熱い思いを受け継いだように感じました。北島選手がどのように金メダルを獲得したのか、一番近くで感じることのできた入江選手。歴史に残る偉大なスイマーとの時間は、入江選手に最高の刺激を与えてくれたはずです。

 日本のエース北島選手は、初出場のシドニー五輪で4位と悔しい思いを経験し、それをモチベーションに偉大なスイマーへと成長していきました。入江選手も初出場で5位入賞ながら、悔しさを感じました。入江選手にとって、この北京五輪は、世界のスタートラインに立つ重要な試合だったと言えます。

 「五輪での悔しさは、五輪で晴らす」と語った選手がいます。これから入江選手は、どのように成長し、どんな経験をするのか。うれしいことも、苦しいこともあるでしょう。しかし、どんな経験でも、無駄な経験はありません。たくさんの経験という武器を手にして、4年後、ロンドンで大きく成長した入江選手を見たい――そう心に感じました。入江選手の今後が楽しみです。

<了>
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著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

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