最後の五輪で、究極の泳ぎを手に入れた北島

萩原智子

最後の思いを共有した北島と平井コーチ

8月14日、北島が北京五輪男子200メートル平泳ぎ決勝で優勝し、2大会連続の金メダルに輝いた 【Photo:ロイター】

 北島康介選手が、五輪2大会連続の2種目連覇――競泳の歴史に残る偉業を成し遂げました。最後の最後まで、北島選手らしい、ゆったりとした大きな泳ぎでした。100m平泳ぎ決勝の大興奮とは違い、200m平泳ぎ決勝は、「北島選手の泳ぎを目に焼き付けておきたい、この興奮を少しでも味わっていたい」という気持ちでした。

 北島選手にとって、今回の北京五輪が最後の五輪となると思います。200m平泳ぎで金メダルを獲得したあと、彼は「寂しい」という言葉を口にしました。この気持ちは、指導している平井伯昌コーチも、同じ気持ちでした。平井コーチは、「これで康介の200mを(五輪で)見るのが最後だと思うと、涙が出た」と話しています。

 200m平泳ぎで金メダルを獲得する直前まで、二人の心は、勝敗の行方や作戦、気合いやプレッシャーを考えていたのではなかったのです。五輪という夢舞台での最高の緊張感や二人でいる安心感、二人でしか味わえない最後の瞬間を思い切り味わっていたそうです。レースで勝つか負けるかの瀬戸際で、ハラハラドキドキするのではなく、そういったことを超越し、最後の熱い思いを共有した二人の世界だったのです。

「スイマー北島康介」は五輪で金メダルを獲得できる選手だと信じ、指導を続けてきた平井コーチ。そして、「指導者・平井伯昌」がいなければ、今の僕は存在しないと言い切った北島選手。二人はお互いの存在があって、はじめて輝くのです。

北京五輪でのテーマは「極める」

 北島選手は、北京五輪でのテーマを「極める」ことだと教えてくれました。皆さんは「極める」の意味を知っているでしょうか? 辞書で調べてみると、「これより先はないというところまで行き着く」「残るところなく尽くす」「深く研究して、すっかり明らかにする」(参照:大辞泉)などと記載されています。この言葉には、北島選手の最後の覚悟を感じました。

 200m平泳ぎの決勝後、北島選手に「極められたか?」と問いかけてみると、「極めたっしょ!」と、何とも言えないスッキリとした清々しい笑顔で答えてくれました。同じく平井先生にも、同じ質問をしてみました。「北島選手の北京五輪でのテーマは、『極める』でしたが、平井先生はどう思いますか?」と。すると、「極めたよね」と、北島選手と同じ表情で答えてくれました。

 二人三脚で作り上げてきた世界一の信頼関係。二人に共通しているのは、お互いを尊敬しあう心。そして何よりも、水泳が大好きで、誰よりも速く、そして強くなりたいと思う少年のような心です。
 北島選手の五輪最後の泳ぎは、男子4×100mメドレーリレーです。最後の最後まで、北島選手の大きな泳ぎを見届け、目に焼き付けたいと思います。

<了>
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著者プロフィール

2000年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位入賞。「ハギトモ」の愛称で親しまれ、現在でも4×100メートルフリーリレー、100メートル個人メドレー短水路の日本記録を保持しているオールラウンドスイマー。現在は、山梨学院カレッジスポーツセンター研究員を務めるかたわら、水泳解説や水泳指導のため、全国を駆け回る日々を続けている

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