MMAの世界基準。アメリカから目を逸らすな!
7月21日に開催されたUFCファイトナイトでミドル級王者アンデウソン・シウバは完勝 【Zuffa】
昨今のアメリカにおけるミックスト・マーシャルアーツ(MMA)の盛況ぶりを目の当たりにすると、そう思うしかない。市井の人々が当たり前のようにMMAの話題を口にする日常。つまり日本のカフェや居酒屋で野球やサッカーが語られるレベルで、老いも若きもMMAの話題を口にしているのだ。
もちろんいまだアンチMMA派もいるだろうが、以前のようにその声がMMAバッシングにつながることはなくなった。MMAはひとつのスポーツとしてアメリカに根を下ろしつつある。
そのきっかけを作ったのは、いまや世界一のMMA組織に成長したUFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)だろう。93年にスタートしたMMAの老舗は紆余曲折を経ながら、2005年からスタートした新人ファイターを発掘・育成を目的としたリアリティ番組『The Ultimate Fighter』(以下TUFと略)の人気爆発で、一躍メジャースポーツへと躍り出た。
TUF出身で、去る7月17日、後楽園ホールで行なわれたM−1グローバル国別対抗戦に出場したマイク・ドルチェは言う。
「TUFがアメリカにおけるMMAの環境を劇的に変化させた。TUF以前のUFCや格闘は武道をやっている人たちだけが知っているマイナーなスポーツでした。しかしTUFがスタートしたあとは誰もがMMAとは何かを知るようになったんですよ」
TUFに出演したことでマイクの知名度は飛躍的に上がった。
「ちょっとした有名人になってしまいました(照れ笑い)。スーパーマーケットに行っただけでも、未だ声をかけられますからね」
MMAの“世界基準”はアメリカに移った
6月21日に開催されたTUFシーズン7ファイナルを制したアミール・サダロー 【Zuffa】
日本では長らくWOWOWがUFCを定期放送していたが、昨年4月突如放送は休止。ヴァンダレイ・シウバやアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラなどPRIDEのトップファイターたちがUFCに移籍した直後の休止だっただけに、多くのファンや関係者をガッカリさせた。
ネットを通して見ることは可能だったが、PCではテレビのようにスムーズでワイドな映像は望めない。私は韓国で放送されたUFCをダビングしてもらったりするなどして“UFC観たい病”を凌いでいた。韓国や中国など隣国ではテレビで見られるのに、日本では見られないフラストレーション。日本はMMA先進国だと思っていたが、UFCをテレビで見れなくなってしまった環境は後進国そのものだった。
世界全体を見渡してみた場合、MMAの話題の中心がUFCであることは否定できない。野球とベースボールに大きな違いがあるように、総合格闘技とMMAの間に大きな温度差が出てきたと思うのは気のせいではないだろう。
しかも、日本で見られなくなったUFCではヴァンダレイやノゲイラらPRIDEの主力が苦戦を強いられ、“PRIDE最強幻想”に待ったをかけた。UFCの試合会場である金網に囲まれた八角形の試合場――オクタゴンとロープに囲まれた正方形のリングでの戦い方は似て非なるものだ。
そうした動きの中、PRIDEヘビー級王者だったエメリヤーエンコ・ヒョードルはオクタゴンに背を向け、新興団体の『アフリクション』の7・19旗揚げに参戦。元UFC世界ヘビー級王者ティム・シルビアをわずか36秒で葬り、“世界最強”の冠が偽りでなかったことを証明してみせた。
その『アフリクション』のペイパービューの裏ではUFCは無料放送の『UFCファイトナイト』(以下UFN)を開催。UFC世界ミドル級王者アンデウソン・シウバが一階級上のライトヘビー級挑戦という一戦をメインに、露骨な『アフリクション』潰しに出た。アメリカ国内における仁義なき興行戦争の勃発だ。
興行戦争の行方がどうなるかはわからないが、日本国内でUFCだけではなく、一連のUFCカテゴリーの中に入るTUF、WEC、UFNらも見れる環境を望んでいるのは私だけではあるまい。もっと言うと、UFCの対抗勢力でMMA史上初めてアメリカの3大ネットワークで放送された『エリート・エクストリーム・コンバット』や『アフリクション』も日本で当たり前のように視聴できるような環境になってほしい。
かつてMMAの“世界基準”は日本にあった。しかし、いまやそれは完全にアメリカに移ってしまった。国内のMMAイベントだけに注目していたら、世界の流れはわからない。アメリカから目を逸らしてはいけない。
■月刊FUSE通信
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