大物いないが脅威のポテンシャル秘める米国=北京五輪野球・直前リポート

阿部太郎

メジャーの壁が立ちはだかる米国代表

現役時代は巨人でプレーし、オランダ代表監督も務めるなど国際経験豊かな米国代表・ジョンソン監督 【Photo:Getty Images/AFLO】

 シドニー五輪から2大会連続の金メダルが懸かった2004年アテネ五輪。米国は本大会の参加すら許されなかった。マット・ホリデー(現ロッキーズ)、ジョー・マウアー(現ツインズ)ら若き才能を擁したにもかかわらず、キューバで行われた前年の予選で、メキシコによもやの敗戦を喫したからである。前回の屈辱、そしてワールドベースボールクラシックでの敗戦。今回の北京五輪は国際舞台での覇権奪回を至上命題とし、『野球大国・米国』復活を高らかに宣言したいところだが……またしても、本気度は?と言わざるを得ない人選を強いられた。
 バスケットボール米国代表のようにドリームチーム結成とはいかないのだ。野球米国代表には、メジャーリーグという決して超えることのできない壁が立ちはだかる。現在、発表されているメンバー北京五輪へ出場する24名の中に、デレック・ジーターやチッパー・ジョーンズら大物選手の名前はないし、現在メジャーリーガーと呼ばれる選手は1人もリストに入っていない。

将来のメジャーを背負う投打の目玉

 オリンピックよりメジャーリーグが優先されるなど足並みのそろわない米国代表を俯瞰(ふかん)すると、とてもじゃないが金メダルとは声高に叫べない。だからといってその実力を侮ることもできない。将来の米大リーグを担うポテンシャルを秘めた20代前半の選手が多く選出されているからだ。中でも注目はマット・ラポルタ外野手(インディアンズ2A・アクロン)とスティーブン・ストラスバーグ投手(サンディエゴ州立大学)だ。メジャーファンなら、ラポルタの名前を最近耳にしたかもしれない。インディアンスにいたCCサバシアのブルワーズ移籍で、交換要員となった1人だ。インディアンスはラポルタを軸にサバシアとのトレードを成功させており、その事実だけでも彼への期待の高さがうかがわれる。
 さらに、『ベースボールアメリカ』誌はこのラポルタをインディアンス下部組織のトッププロスペクト(もっとも期待の高い選手)にランクしており、数年後にはトップチームの主軸を担っていることも十分考えられる。スラッガーだが、ボール球に手を出さない選球眼を兼ね備え、守備も外野以外に一塁手も器用にこなすなど定評がある。デーブ・ジョンソン監督も「とても攻撃的な打者。打席でのアプローチも素晴らしい」と、大きな期待をかけている。

 打の目玉がラポルタとすれば、投の目玉はストラスバーグだろう。今回のメンバーの中では唯一の大学生だが、来年のドラフトでは全体1位(過去の全体1位はジョー・マウアー、ジョシュ・ハミルトンら)ではないか、という声もあるほどの注目株だ。魅力は何と言ってもストレート。100マイル(160キロ)近い球速を誇り、ことし4月のユタ大戦では23三振を奪った本格派右腕だ。今月にオランダで行われたハーレム・ベースボール・ウィークでは、日本代表相手に7回、7奪三振、2失点の力投で勝利投手となり、続く準決勝の台湾戦でも7回、11奪三振、2失点。米国優勝の大きな原動力となった。さらに、彼の強みは制球力の良さで、前述の国際大会では2試合14イニングを投げて、四球数はわずか1。今夏の米国代表遠征でも27イニングで4四球。自慢のストレートと切れ味鋭いスライダーを武器に、今回は若干20歳ながら米国の命運を託されることとなった。

日本でも馴染みのベテラン投手

 また、若手有望株以外にも注目選手がいる。今回の人選で、ジョンソン監督、ボブ・ワトソンGMは「バランス」を意識したと話す。若手中心のメンバーではあるが、要所要所に30代もしくは20代後半のベテランを配置している。打者では、現在マイナーリーグで3割7分以上を記録して首位打者であるテリー・ティフィー(29歳、ドジャース3A・ラスベガス)、3Aで30発放っているマイク・ヘズマン(タイガース3A・トレド、30歳)、投手では中継ぎのマイク・コプラブ(ドジャース3A・ラスベガス、31歳)やブレイン・ニール(タイガース3A・トレド、30歳)である。そして、最年長投手として、ブランドン・ナイト(メッツ3A・ニューオリンズ、32歳)を選出した。

 ナイトと聞いて、ダイエーファンや日本ハムファンはあれっと思ったかもしれない。2003年から2年間ダイエーに、05年に日本ハムに所属したナイトである。『MLB.COM』の記事によると、ナイトは2007年に引退を決意していたが、友人から独立リーグの誘いを受けて、野球を続けることになった。そこで結果を残し、今季メッツの3Aから誘いがきたという。その3Aでの登板が米国代表チームのスカウトの目に留まった。ジョンソン監督は彼の経験に期待をかける。
「彼はわれわれのニーズを満たしてくれるだろう。若手へ多大な影響を与えてくれると思う」
 プロ野球人生14年でほとんど日の目を見なかった男が、かつて主戦場としたアジアの地で輝きを放つことができるのか。日本戦での登板があると面白いのだが、果たして――。

勢いに乗ったときのポテンシャルは脅威

米国の中軸が予定されているラポルタ外野手。将来のインディアンズのスター候補として期待されている 【Photo:Getty Images/AFLO】

 こうして米国代表を見てみると、星野仙一監督の下、ダルビッシュ有(北海道日本ハム)、湧井秀章(西武)ら日本プロ野球のビッグネームを集めた日本とはかなりの温度差があり、マイナーレベルの選手を集めた米国は、実力的に劣るだろう。ただ、実力的というのは、あくまで戦う前の段階であり、若手主体のチームが名将に率いられて国際舞台で大化けすることはよくある。例えば、2000年のシドニー五輪ではトム・ラソーダ監督に率いられた米国代表。今や一流のメジャーリーガーとなったベン・シーツ(現ブルワーズ)やロイ・オズワルト(現アストロズ)が国際舞台で躍動し、金メダルを獲得した。
 北京五輪で米国代表の指揮を執るジョンソン監督のさい配も注目だ。プロ野球のオールドファンなら知っている人もいると思うが、日本プロ野球の巨人で活躍したこともある。彼は選手としても活躍したが、監督しては選手時代を上回るインパクトを残している。1986年、“ミラクルメッツ”と言われたメッツをワールドチャンピオンに導き、90年代に入っても、レッズ、オリオールズを地区優勝させた。その後は、国際舞台に活躍の場を移し、04年にはオリンピック野球オランダ代表の監督に就任。05年から米国代表監督につくと、06年にはオリンピック予選でキューバを破り、早々とオリンピック出場を決めた。この百戦錬磨の監督は他チームにとっては不気味な存在となるはずだ。

 ポテンシャルの高い若手の大化けとジョンソン監督のさい配がはまれば、今回もシドニー五輪のように米国代表が金メダルを獲得する可能性は十分にある。勢いに乗ったときの米国は、マイナーレベルといえど要注意だろう。特に、準決勝、決勝の一発勝負では脅威となる。星野ジャパンの行く手を阻むライバルであることに変わりはない。


■米国五輪代表24名メンバー
投手12人:
ブレット・アンダーソン(アスレチックス2A・ミッドランド)
ジェイク・アリエッタ(オリオールズ1A・フレデリック)
トレバー・ケーヒル(アスレチックス2A・ミッドランド)
ジェレミー・カミングス(レイズ3A・ダラム)
ブライアン・ダウンジング(ツインズ3A・ローチェスター)
ケビン・ジェプセン(エンゼルス3A・ソルトレイク)
ブランドン・ナイト(メッツ3A・ニューオリンズ)
マイク・コプラブ(ドジャース3A・ラスベガス)
ブレイン・ニール(タイガース3A・トレド)
ジェフ・スティーブンス(インディアンス3A・バッファロー)
スティーブン・ストラスバーグ(サンディエゴ州立大)
ケーシー・ウェザーズ(ロッキーズ2A・タルサ)
捕手2人:
ルー・マーソン(フィリーズ2A・リーディング)
テイラー・ティーガーデン(レンジャーズ3A・オクラホマ)
内野手5人:
ブライアン・バーデン(カージナルス3A・メンフィス)
マシュー・ブラウン(エンゼルス3A・ソルトレイク)
ジェイソン・ドナルド(フィリーズ2A・リーディング)
マイク・ヘズマン(タイガース3A・トレド)
テリー・ティフィー(ドジャース3A・ラスベガス)
外野手4人:
デクスター・ファウラー(ロッキーズ2A・タルサ)
ジョン・ギャル(マーリンズ3A・アルバカーキ)
マット・ラポルタ(インディアンス2A・アクロン)
ネイト・シャーホルツ(ジャイアンツ3A・フレズノ)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント