小林雅、熱い胸の内 念願のクローザー昇格へ

阿部太郎

「反省しない」を貫くスタイル

ボロースキーの解雇で新守護神の座を任されることになったインディアンスの小林 【写真は共同】

 キーワードは「ハイタッチの数」だと言う。きっちり抑えて、ベンチでハイタッチする回数が増えれば増えるほど、インディアンスの小林雅英はチームメートから認めてもらえると話す。ただ、2日(現地時間)のホワイトソックス戦では、心踊るハイタッチを交わすことはなかった。A・J・ピアジンスキーにサヨナラ被弾を浴びる。ホワイトソックスナインがベースを回るピアジンスキーを今か今かと待ち構える中、小林は足早に去るでもなく、ゆっくりと歩を進めてダッグアウトに消えて行った。

 だが、小林はこういった劇的な幕切れでも卑屈にならない。むしろ、クラブハウスを訪れると、少し語弊はあるかもしれないが、すっきりとしたような表情さえ見せているように感じる。この日のコメントも、悔しさはあるのだろうが何か“さっぱり”した感を伴っていた。「自分としては投げるべきボールを投げたと思ったんですよ、打たれた瞬間にね」「別に安易に(甘いコースに)入ったわけではないので、しょうがないって割り切ってやるしかないですね」。

 小林のスタイルは「反省しないことにある」という。ゲームの後にああだこうだと振り返っても後の祭りだと。しかし、その「反省しない」という裏には彼なりの理由がある。「次に生かすって言っても、また同じ状況って野球の中に2度とないと思うんですよね」。そして、この言葉の後、もう一度繰り返した。「まったく同じ状況っていうのは、僕が野球をやっている中で1回も経験したことがないから」。

守護神として最後のアウトを

 この話を聞いたとき、やはり彼はクローザーだなと思った。小林のスタイルは「そのときそのときが一番大切」という考えに基づいている。「そのときにそのバッターを打ち取ることとか、イニングを抑えることが一番必要とされていること」と力強く話す。それは、日本で長きに渡って失敗の許されないクローザーを務めた男が導いた野球哲学なのだろう。

 その小林がインディアンスのクローザーに昇格した。チームの守護神であったジョー・ボロースキーの戦力外通告を受けての抜擢(ばってき)。ただし、エリック・ウェッジ監督は小林で固定というよりも、まずは試すといった意向のようで、失敗が続けばまた中継ぎに戻る可能性も十分あるだろう。

 小林にとっては“棚ぼた的”な昇格であり、少し驚いているのかもしれない。しかし、これは大きなチャンスでもある。5月の中旬、ようやく競った場面で起用され始めたころ、小林はクローザーへの思いをこう口にしていた。「そこは目標にしないと、僕自身の向上心にもならないですし、(米国に)来た意味もない。中継ぎ、抑えということをずっとやってきたので、一番最後のアウトを取るという難しさを知っていますし、喜びも知っていますし、(アウトを)取れなかったときのしんどさも知っています。そういう意味では、いろんな付加価値のある最後のアウトだと思うんで、そこ(クローザー)を取りたいなと思ってますけど」。

 最後のアウトという言葉に、自然と語気が強まる。彼が望む場所にわずか3カ月でたどり着いた。ただ、これからが本当の戦いとなる。チームの責任がすべてのしかかる。だが、彼はそういう場所が、そういう興奮が大好きなのだろう。それは彼の言葉が物語っている。「思うようにならないのが野球。でも、それをやっているのが楽しくてしょうがない」。

 やはり、彼は根っからのクローザーだなと思う。

<了>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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