新しいフランスが進む道=ユーロ敗退、その後

木村かや子

もはや博打の様相 大穴はカントナ!?

 一世代の終えん、支離滅裂な采配という面で、フランスと非常に似た立場にあったイタリアは、26日にドナドーニの首をはね、大会中から準備万端となっていた2006年W杯優勝時の監督、マルチェロ・リッピが復活した。ドナドーニの契約更新時の条件に、『準決勝に至ること』という項目があったため、対スペイン戦を待って、あらかじめ決めていたことを早々に実行に移したのである。後任者が采配の達人リッピであれば、決めるのはずっと簡単だ。

 しかしフランスの場合、後任者の誰1人として、迷わず決められるような好条件をそろえていない。フランスの監督は、もともと戦術の達人というより、よき育成者タイプが多い。だが代表監督には、例えば交代がずばりと当たる、といった感じのはったり屋的部分も重要だ。その意味では、ドメネクの采配能力の不十分さは引っ掛かる。一方で選手時代のデシャンは、ジダンのようなアーティスティックな能力こそなかったが、耐久力に加え、そのリーダーシップと、戦術眼の鋭さで知られた男だった。ただし監督しての経験が浅い彼が、ベンチでもその能力を発揮できるかは、また別の問題ではある。しかし、とりあえず素質はあるわけだ。

『フランス・フットボール』誌が、無理を承知で名前を挙げた理想の監督モリーニョとヒディンクは、采配能力だけでなく、選手の信頼を勝ち取り、チームをまとめる能力にも秀でている。デシャンの場合、マン・マネジメントの部分がやや心配ではあるが、ちょっと目を離すと腰抜けになるこの代表だけに、デシャンくらいハードな男がかじを取った方が、ガツンと喝が入るのではないか、と個人的には思う。

 デシャンが監督になった場合には、アラン・ボゴシアンをサブに付けるという説も浮上した。次期監督有力候補の2人ともが元世界チャンピオンとは、いまだに過去の栄光を振り払っていないきらいもあるが、新しいスタートに新しい監督、という方が気分的にすっきりするのは確か。しかしまた、くじけないドメネクのしぶとさにも感服する。こうなると、あとはもう博打(ばくち)だ。

 最後に、最も面白かった意見として、代表では無冠の元マンチェスター・ユナイテッドの英雄、エリック・カントナの言葉を紹介しよう。ドメネクにもデシャンにも賛成していない様子の彼は「プレーのプランという意味では、デシャン任命は、ドメネク路線の継続になると私は思う」と言ったのだ。
「フランス代表について目に映るのは、私がサッカー界で忌み嫌っているもののすべてだ。とりわけ退屈極まりないプレーでW杯に優勝したレ・ブルーは、ほかのやり方でプレーするのは不可能だと思うようになった。しかし、美しいサッカーで勝てない理由はどこにもない」

 現在ビーチサッカー代表監督であるカントナは、ついでに自分の野望も打ち明けた。「私は11人制サッカーの、世界で最も偉大な監督になりたいんだ。そして、いずれそうなるだろう。しかし私は創造者、アーティストとしてその仕事を行うつもりだ。サッカー界で何か新しいことを発明したいんだ。そう、70年代のアヤックスのトータルサッカーのような何かをね。それをどこでやるか? マンチェスター・ユナイテッド、あるいはイングランド代表監督としてがいいだろうね」。フランス代表を見捨てている様子のカントナだが、相変わらずビッグマウスのこの異端児が監督となったら、楽しめることだけは請け合いだ。

 ここ2年のフランスのプレーは「堅固なディフェンス。そしていつ何時にもゴールし得る能力」という言葉で表現されていた。「その『いつ何時』がなかなか来ないがね」と言ったのは、ほかでもないドメネク監督である。いずれにせよ、今回のユーロでスペインが壮観なサッカーを武器に勝ち上がったことを励みとし、新生フランス代表には、ここ2年見せていた“超つまらない”サッカーから脱皮してほしいと願うばかりだ。

<了>

3/3ページ

著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント