男子バレー、五輪切符獲得のポイントとは?=小林敦の見どころコラム

小林敦

出場権2枠の厳しい戦いに臨む植田ジャパン 【坂本清】

 バレーボールの北京五輪世界最終予選兼アジア予選男子大会が5月31〜6月8日、東京体育館で行われる。全8チームが出場する同大会では、全体の最上位とアジア最上位の2チームに五輪出場権が与えられる。
 スポーツナビでは、2004年アテネ五輪最終予選の全日本男子主将で、現在はVプレミアリーグ・東レのコーチを務める小林敦氏に、全日本男子の勝利のポイント、今大会の見どころを挙げてもらった。

欧米の代表に勝つことができれば優位に立てる!

 1992年バルセロナ五輪を最後に3大会連続で五輪出場が遠のいている全日本男子バレーボールチーム。今回の世界最終予選も4年前と同じく、各大陸代表が参加する世界最終予選とアジア大陸予選をセットで行うという方式で行われるようです。

 本来でしたら、まずアジア大陸予選が行われ優勝したチームが出場権を獲得します。そして優勝を逃したチームは、世界最終予選に参加して五輪出場権獲得を目指すのです。しかしアジア大陸予選は世界最終予選との合わせ技で行われ、大陸代表3チームを含めた計8チームで2枚の切符を争う方式がとられるようです。
 一見するとチャンスが一度しかない本方式の五輪世界最終予選は、アジア勢には不利に映ります。しかし、日本チームの場合は一概に不利とは言い切れない大きな理由があります。それは「近年の日本チームは、アジアの他チームより欧米のチームとの相性が良いから」です。

 まず前回のアテネ五輪世界最終予選を振り返ってみましょう。前回大会に出場したアジア以外の大陸代表チームは、フランス、カナダ、アルジェリアの3チームでした。その3チームに対する日本の過去の対戦成績は、以下のような状況でした。
・フランスとは前年のワールドリーグで2勝2敗の成績
・カナダには前年のワールドカップで勝利。(韓国、中国はカナダに敗戦)
・アルジェリアは格下評価

 これらから、最終予選に参加した欧米チームとの相性の良さが伝わるかと思います。
 その反面、アジアの他チームは欧米のチームを相手にしたときの戦績が日本とは対照的でした。

 本来のアジア大陸予選ですと、アジアの他チームに負けてしまえばその時点で五輪出場のチャンスがなくなってしまいます。しかし、たとえアジアの他チームに敗れたとしても、アジアの他チームが欧米チームに勝利する可能性が低いことから、日本チームが欧米のチームに1勝でもすることができれば、最終予選1位は難しいとしても、アジアトップの成績を残す事は可能になります。前回は結果的に2勝5敗(4敗はフルセット)という結果で出場権は逃しましたが、優勝したフランスからセットを奪ったのは日本だけでした。例えばフルセットにもつれ込んだゲームを一つでも二つでも取ることができていれば出場権を得る可能性は十分あったのです。日本にとっては単純にアジア大陸予選、世界最終予選とプロセスを踏むより可能性は高かったといえます。

 そして今回の北京五輪世界最終予選に目を移しますと、前回大会と同じような傾向が見えます。まず大会に出場する大陸代表の3チーム(イタリア・アルゼンチン・アルジェリア)を見てみましょう。
・イタリアには昨年のワールドリーグで2勝2敗
・アルゼンチンには昨年のワールドカップで勝利(オーストラリア、韓国は敗戦)
・アルジェリアは恐らく格下?

 やはり日本チームは欧米のチームとの相性が良いと考えられます。単純に前回大会との比較はできませんが、前回大会の再来と言っても過言ではないほど酷似しています。
 ですから前回大会と同じような理由から、イタリア、アルゼンチンの欧米チームどちらかから勝利を奪うことが、五輪出場へのチャンスを広げることとなりそうです。

 実力的には頭一つ飛び抜けているイタリアが、順当にいけば2つのうちの一つの五輪切符を手にするのは間違いないでしょう。続いてオーストラリア、日本、アルゼンチンあたりの実力が拮抗していて、アルジェリア、韓国、イラン、タイが追いかける形となりそうです。

五輪切符のボーダーラインは2敗まで

好調のスーパーエース山本。アテネ五輪最終予選のリベンジを果たしたい 【坂本清】

 5月31日に開幕する男子大会の初戦は優勝候補筆頭のイタリアです。しかし、日本チームにはホームコートアドバンテージがあるうえ、お互いに初戦という緊張感も重なります。女子が初戦でポーランドを破ったように、男子もイタリアチームを苦しめる可能性は十分に考えられます。この試合を勝利する事ができれば、勢いも手伝って高い確率で五輪の出場権を獲得する事ができると考えられます。
 大会2日目、6月1日のイラン戦は確実に勝って勢いをつけていきたいところです。前回の最終予選での日本は、初戦こそ3−0のストレート勝ちを収めたものの、つづく3試合で全てフルセット負けを期し、徐々に勢いを失っていってしまいました。イタリアに敗れることはあってもイランに敗れることは絶対に避けなければなりません。

 切符獲得のボーダーラインは2敗までだと考えられます。とにかく短期決戦の最終予選ですから、前半戦の戦い方と欧米チームとの決戦が切符獲得のキーポイントとなるでしょう。

全日本男子、2枚のエースがチームを左右する!

ワールドカップに続いての活躍が期待される大学生の清水 【坂本清】

 さて、全日本男子のシステムについてですが、日本チームは大きく2つのシステムに分けられます。サイドアタッカーはディフェンスを得意とする荻野正二選手が出場しない『超攻撃的布陣』と、荻野選手が出場する『分業制的布陣』が考えられます。
 個人的な意見としてはコート上のサイドアタッカー3枚のうち、2枚の攻撃的選手が機能すれば勝利に近づくと考えています。『超攻撃的布陣』で臨む場合は攻撃的選手3枚のうち2枚が、『分業制的布陣』では荻野選手以外の2枚のエースが“確実に”活躍することが求められます。

 その2枚のエース、勝敗の鍵を握るサイドアタッカー陣を見てみましょう。
 なんといってもVプレミアリーグMVP山本隆弘選手、またサントリーのレギュラーラウンド1位通過の立役者である越川優選手は、シーズンを通して好調を維持していましたので活躍が期待できると思います。また肩の故障で出遅れていた石島雄介選手も復調してきたようです。大学生の2人、清水邦広選手、福澤達哉選手も攻撃力と勢いのある選手ですから日本の起爆剤的存在となることを期待します。荻野選手は唯一の五輪経験者、チームのけん引およびディフェンスの軸として活躍することは、期待ではなく間違いないでしょう。

 それからほかのポジションの選手では、センタープレーヤーの齋藤信治選手、山村宏太選手、松本慶彦選手はいずれも高いスパイク決定力がありますから、あとは効果的なブロックとディフェンスのコーディネートでも力を発揮してほしいと思います。
 リベロの津曲勝利選手はレセプション(サーブレシーブ)成功率はもちろんのこと、数字に表れにくいブロックフォローやセットアップなどのプレーでも、そつなくこなしてくれるでしょう。さらにセッターの宇佐美大輔選手、朝長孝介選手はコントロールタワーとして、日本の攻撃陣の能力を十分引き出してもらいたいと思います。

 いよいよスタートする北京五輪世界最終予選。全日本を応援するとともに、初戦から最終戦までコラム解説を担当させていただきますので、よろしくお願いします。

<了>

※次回は6月2日(月)掲載予定。

■全日本男子試合日程
5月31日(土)イタリア戦
6月1日(日)イラン戦
6月3日(火)韓国戦
6月4日(水)タイ戦
6月6日(金)オーストラリア戦
6月7日(土)アルゼンチン戦
6月8日(日)アルジェリア戦
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著者プロフィール

深谷高校、筑波大学を卒業後、東レアローズへ入部。2000年5月〜05年5月までキャプテンを務め、05年3月にVリーグ初制覇。また、04年のアテネ五輪最終予選では全日本男子のキャプテンも務めた。06年5月の第55回黒鷲旗優勝を最後に現役引退。現在は東レアローズコーチ。

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