インテル3連覇の陰で ホンマヨシカの「セリエA・未来派宣言」

ホンマヨシカ

“残念賞獲得レース”となった今季のセリエA

 かくして、今シーズンのセリエAは、久しぶりに最後まで手に汗握る展開となったわけだが、しかし手放しで楽しませてくれたとは言い難い。その大きな原因は、インテルとミランがCLで準々決勝に進出できなかったことである。しかも両チームとも、リバプールとアーセナルのイングランド勢に阻まれてしまった。レアル・マドリーを破って準々決勝に進出したローマも、マンチェスター・ユナイテッドと対戦して敗退。しかも3チームともホームゲームで敗れたのだから、イタリア勢の完敗である。

 CLからイタリア勢が消えてからは、いくらセリエAが盛り上がったといっても、何か負け犬同士のケンカと言ったらいいのか、CLの敗者が争う“残念賞獲得レース”のように思えてしまった。それに、最終節でローマが1ポイント差まで首位に肉薄したといっても、ローマの出来が素晴らしく良かったわけでもなく、単にインテルが失速したために、ローマに逆転のチャンスが転がってきたようなものだ。

 イタリアだけではなく、世界中で「インテルのリーグ3連覇」との報道がされているが、僕にとっては今回のスクデットは、インテルの2連覇、いや1・5連覇というところだ。2シーズン前にタナボタ式に獲得したスクデットは、のしをつけてイタリアサッカー協会にお返ししたいし、ユベントスを欠き、ミランがペナルティーでスタートした昨年のスクデットも手放しで喜ぶには抵抗があった。そして今シーズンのスクデットも、何か尻切れトンボのようですっきりしないというのが本音である。

 来シーズンこそは、すっきりした気持ちでスクデットを祝いたい。それには、スクデット獲得だけではなく、CL優勝、もしくは最低でもベスト4進出が絶対条件である。だが、次のシーズンはインテルにとって、よりいっそう厳しいシーズンになるだろう。来季は、ミランがカンピオナートだけにターゲットを絞ってくること。そしてセリエA復帰2シーズン目となるユベントスも、ターゲットをスクデット獲得に合わせて、大幅な補強をして新シーズンに備えることが予想されるからだ。

 しかもインテルは、これらのライバルに頭を悩ます以前に、マンチーニの去就という問題を解決しなければならない。
 恐らく、マンチーニがインテルを去る可能性の方が強いと思われるが、彼の後釜にふさわしい人材がいないのが、モラッティ会長の悩みの種だろう。以前からモリーニョの名前がささやかれているが、監督としての能力は別にして、あの傲慢(ごうまん)な性格の持ち主と、一癖も二癖もあるインテルの選手たちが、何も問題を起こさずにシーズンを無事終了できるとは想像し難い。加えて、モウリーニョの破格と思われる契約金もネックとなっている。おそらく今週中に回答が出ると思われるが、この監督人事が、来シーズンのインテルを占う最初の大きな動きであることは間違いないだろう。

森本が最終節で見せたアグレッシブなプレー

 ところで日本のファンにとって、この最終節の一番の話題はインテルの優勝よりも、むしろカターニアの森本貴幸の活躍だったのではないか。
 このローマ戦で森本は、後半開始早々から途中出場。シュートがバーを直撃したり、ローマGKドーニの好守に阻まれたりしたが、同点ゴールとなるマルチネスのゴールは、森本が放ったシュートが相手DFに当たって生まれたものであった。少なくとも、ゼンガ監督の期待に十分に応えるプレーを見せていた。

 話はそれるが、先週の水曜日の夜、ミラノのジャズクラブ「ブルーノート」で、日本人ピアニストの上原ひろみの演奏を聴く機会があった。テクニックはもちろんのこと、強烈なパーソナリティーとアグレッシブな演奏でミラノのジャズファンを魅了した彼女を見ていて、ふと思い出したのが、ユベントス戦でセリエAデビュー戦を果たした中田英寿(当時ペルージャ)の姿だった。そして、上原のようにテクニックがあって自己主張もできる日本人がサッカーの世界にも現れるなら、セリエAのトップチームでも十分活躍できるのにと思ったりもした。その意味で、最終節で森本が見せたアグレッシブなプレーは、これからの可能性を感じさせる、実に素晴らしいものであった。来シーズンの森本の去就を僕は知らないが、もしカターニアに残留するのなら、森本のさらなるブレークを期待できるかも知れない。

 最後に、恒例の今シーズンのベスト11を紹介して、今シーズンのセリエAカンピオナートを締めくくりたい。システムは4−4−2。

GK:ジュリオ・セーザル(インテル)
DF:右からマイコン(インテル)、パヌッチ、メクセス(いずれもローマ)、ゴッビ(フィオレンティーナ)
MF:右からサネッティ、カンビアッソ(いずれもインテル)、デ・ロッシ(ローマ)、アンブロジーニ(ミラン)
FW:イブラヒモビッチ(インテル)、デルピエロ(ユベントス)

監督:スパレッティ(ローマ)

サブ:
GK:フレイ(フィオレンティーナ)、DF:キエッリーニ(ユベントス)、コルドバ(インテル)、MF:カカ(ミラン)、マッジョ(サンプドリア)、FW:アマウリ(パレルモ)、ディナターレ(ウディネーゼ)

MVP:サネッティ(インテル)、最優秀新人:パト(ミラン)

<この項、了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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