それでも私は不動心を支持する!

布施鋼治

「戦極〜第二陣〜」でホジャーと対戦する近藤 【スポーツナビ】

 ホジャー・グレイシーの日本デビュー戦、ジョシュ・バーネットの再登場、北岡悟、光岡映二といった粋のいい旬のMMAファイターの参戦と話題の事欠かない『戦極〜第二陣〜』(5月18日・有明コロシアム)。今のところ話題はホジャーやジョシュに集中しているが、私は密かにホジャーと対戦する近藤有己に注目している。

「エッ、近藤?」

 そんな声が飛んできても不思議はない。それは十分承知している。確かに最近近藤の戦績は芳しくない。昨年から今年にかけての戦績は1勝2敗と負け越している。それでも私が近藤を推すのはヨイショでもジョークでもない。大真面目だ。

 近藤はとらえどころのないMMAファイターだ。誰もがアッと驚く大金星を得たかと思えば、まさかと思う選手に惜敗を喫してしまう。先日、ホームのパンクラスで行なわれたKEI山宮戦などその最たるものだろう。

 近藤自身、そのとらえどころのなさは自覚している。以前、私は近藤から冗談半分でこんなことをいわれたことがある。

「あんまり期待しないでください。僕はエッというようなところでつまずきますから」

ブラジリアンファイターに分がいい近藤

03年12月のPRIDE男祭りではスペーヒー(左)にTKO勝ち 【t.SAKUMA】

 なぜ、近藤は安定したレコードを残せないのか。それは彼が典型的な“感覚派”であるからだろう。理詰めで相手を追い込むのではなく、その場その場のフィーリングで勝負するタイプなのだ。

 プロ野球に例えると、長嶋茂雄系だ。このタイプは教えるのに不向きな人が多い。理由は簡単。言葉で技術や動きを覚えているのではなく、五感や直感に頼って闘っているからだ。

 一度リズムに乗った近藤の攻撃は読みづらいといわれる。それは当然だろう。頭で考えてから動いているのではなく、体が動くままに攻撃を仕掛けているのだから。

 03年大晦日に男祭りで行なわれたマリオ・スペーヒー戦もそうだった。フィニッシュはグラウンドでの顔面ヒザ蹴り。マリオにとっては「なぜここで?」と言いたくなるような場面で近藤はヒザを炸裂させ、流血ドクターストップに追い込んだ。

 翌04年8月、当時PRIDEミドル級の絶対王者として君臨していたヴァンダレイ・シウバと闘った時には近藤に対する期待がピークに達したような気がする。ただ、残念ながら、その後近藤は同年11月のエバンゲリスタ・サイボーグ戦を除けば、目立った勝ち星をあげていない。

 いくら感覚派として名を馳せる近藤とはいえ、アップセットがなければ、世間から注目を集められないのは仕方あるまい。

 しかし、忘れてはいけない。過去のデータを振り返ってみると、近藤はブラジリアンファイターに分がいいのだ。通算戦績は強豪相手に3勝2敗。白星の中には前述のマリオ戦のほか、UFCでTKO勝ちを収めたアレッシャンドリ・ダンテス戦や東京ドームで行なわれたコロシアム2000でのサウロ・ヒベイロ戦が含まれている。

 振り返ってみれば、ヒベイロ戦もこれぞ近藤有己というべき一戦だった。試合開始早々、近藤はいきなり飛びヒザ蹴りを決め、組み技のスペシャリストをKOで沈めてしまったのだ。スペーヒーやヒベイロはブラジリアン柔術のベースとするMMAファイター。奇しくもホジャーも同じタイプだ。近藤にとっては相性のいい選手といえるだろう。

結婚し、私生活も充実

結婚をし、私生活も充実した近藤(左)のホジャー撃破はなるか 【チナスキー】

 私生活でも大きな変化があった。今春、以前から交際していた中嶋(旧姓)明日美さんと籍を入れたのだ。中嶋さんは元パンクラスのスタッフ。愛想のいい笑顔を振りまきながらテキパキと仕事をこなしていたため、マスコミの受けもひじょうに良かった人だ。

 何度か仲間内で飲んだ時、中嶋さんも一緒だったことがあったが、彼女は近藤と付き合っていることを一切明かさなかったし、その素振りを見せることすらなかった。

 さすが不動心。プライベートでも抜かりはない。結局、私は近藤が自身のブログで結婚を発表するまで、全然ふたりの関係を知らなかった。だけど発表した時には「やられた!」と思うより、「おめでとう」という感情の方が先に出た。近藤とは何度かプライベートで食事をしたことがあるが、ちょっとボ〜ッとしているいい人という印象しかない。

 家族を持ったからには責任重大。近藤は最大の武器であるフィーリングにもさらに磨きをかけているだろう。近い将来、グレイシー一族を背負って立つ存在といわれるホジャーだが、MMAは今回が2戦め。キャリアでは近藤の方が遥かに上だ。久しぶりに近藤のビッグアップセットを見たがっているのは私だけではあるまい。

月刊FUSE通信

 最近はあまり外にも出ず粛々と初の書き下ろしを執筆中。発売予定は7月下旬。夜中に飲んでいるのはビールではなく、ノンアルコールビール。「そこまでして飲みたいのか?」という声が聞こえてきそうだが、飲みたいのだから仕方ない。書き終わったら、どこに飲みに行こうかな。


【SKY PerfecTV!プロレス・格闘技 番組情報】

●「戦極−SENGOKU−第二陣 5.18 有明大会」

放送日時 :5/18(日)16:00〜21:50 ※生中継/他
放送Ch :パーフェクトチョイス(スカパー!Ch.162/172/174/176/179)
      視聴料金:PPV 2,625円/番組

スカチャン! ハイビジョン(e2 by スカパー! Ch.800)
生中継と再放送2回の計3回視聴可能


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著者プロフィール

1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。

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