3冠達成のアイシン、新たな黄金期到来の予感

鈴木栄一
 今季から新たに誕生した日本バスケットボールリーグ(JBL)。その記念すべき初代チャンピオンに輝いたのはアイシンだった。3戦先勝方式のプレーオフ決勝では、先に1勝2敗とトヨタ自動車に王手をかけられながらの逆転勝ち。前身のスーパーリーグ時代を含めると4季ぶり3度目の優勝を飾った。

桜木封じに成功したトヨタが先に王手

 ファイナル初戦は、アイシンが81対65と快勝。しかし、トヨタは第2戦でエースのチャールズ・オバノンが37得点と大爆発し、82対76で接戦を制す。これで流れをつかんだトヨタは、続く第3戦で持ち味の「走るバスケットボール」で勝利。前半で13点のリードを奪うと、後半に入っても4人が15得点以上をあげるバランスよい攻撃でアイシンに付け入る隙を与えず86対72と圧勝、王手をかけた。
 トヨタは渡邉拓馬が「やることは決まっている。相手のインサイドを抑え、走る展開に持っていくこと」と語ったように、桜木ジェイアールを2試合連続で20得点以下に抑える。そして、ディフェンスリバウンドから自慢の速攻を次々と決める、理想的なバスケットボールを披露した。

堅守を取り戻したアイシンが逆転勝利

 一方追い込まれたアイシンだが、第4戦ではトヨタの持ち味である速攻を封じると、過去2試合で精彩を欠いていた桜木が25得点、13リバウンドとゴール下を支配、88対69と大差をつけて勝利した。
「レギュラーシーズン中にやってきたディフェンス、オフェンスともにチームで戦うことができた」と柏木真介が試合を振り返ったように、本来の自分たちのバスケットボールを取り戻すことに成功。シリーズを2勝2敗のタイに戻した。

 そして迎えた第5戦では、第1Qから両チームとも最後の力をふり絞る熱戦が展開される。だが、前日の勝利で勢いをつかんだアイシンが、前半を終え45対38とリード。さらに第3Qでも突き放し15点のリードを奪う。このまま試合はアイシンの楽勝で終わるかと思われたが、ここからトヨタが猛反撃。新人の岡田優介が連続8得点をあげるなど猛追、試合残り4分55秒には70対71と1点差にまで詰め寄る。しかし、アイシンはその後、ファウルを奪うと確実にフリースローを成功させ、粘るトヨタを振り切って93対79で勝利した。

新生アイシンをけん引する柏木と竹内公

 アイシンが逆転優勝を飾った勝因は、何といってもディフェンスだ。勝った3試合では、全てトヨタを70点台以下に抑えている。鈴木貴美一ヘッドコーチは、「一番トヨタに対して効果的なのは、試合をコントロールすること。そして(竹内)公輔君の高さを生かしてトヨタのローポストの攻撃を防ぐこと」と勝因についてコメント。実際、勝った試合ではトヨタにほとんど速攻を出させず試合のテンポを落として、得点を低くすることに成功している。また、新人の竹内公は「チームには点を取れる人がたくさんいる。自分の仕事は、まずディフェンスとリバウンド」と述べたようにブロックショットを含め、ゴール下の守備で奮闘。外国人選手と競り合っても負けないリバウンド力は、ともに新人王を受賞した双子の竹内譲次(日立サンロッカーズ)とともに、他の日本人選手にはない存在感を放っていた。

 そして優勝の最大の立役者と言えるのが、レギュラーシーズンに続きプレーオフでもMVPを獲得した柏木。堅実なディフェンスに加え、精度の高いアウトサイドシュートを要所で成功させチームを勝利へと導いた。前所属の日立では五十嵐圭の、昨季は佐古賢一の控えを務める場面が多かった柏木だが、今季はシーズン当初から正ポイントガードとして活躍してきた。日本バスケットボール界では髄一といわれる身体能力をもち、安定したボールコントロールと激しいディフェンス、さらに正確な外角シュートで、今回2つのMVPを獲得した柏木は、名実ともに日本一の司令塔になったといえるだろう。

満身創痍のトヨタ、3連覇達成ならず

 スーパーリーグ時代からの3連覇をあと一歩で逃したものの、敗れたトヨタも大いに観客を沸かせてくれた。今季はオフシーズンに桜井良太、折茂武彦、山田大治と3人の日本代表選手が移籍し、チームの選手層が一気に薄くなった。そんな中で、ファイナルまで進出したのは評価すべきところだ。また、第4戦でポイントガードのルイス・キャンベルが試合中に背中を激しく打って負傷。第5戦は試合前には病院に行って治療を受けての強行出場で、ロイブルヘッドコーチいわく、「50%のスピードしか出せなかった」ようだ。さらに、第5戦で主力の1人高橋マイケルが、前半に左膝を痛め、後半は出場できずと満身創痍(そうい)の状態。そんななか、第4Q中盤には最大15点差を1点差まで迫る底力を見せてくれた。

 これでアイシンは、今季開幕前に行われたリーグカップ、年始の天皇杯に続く優勝で3冠を達成。柏木、竹内公と、アウトサイド、インサイドにしっかりとした日本人の核をおいた。さらに、インサイドには日本人に帰化した桜木もいる。来季から外国人がオン・ザ・コート1となるJBLにおいて、ゴール下は桜木、竹内の二枚看板が圧倒的な支配力を持っている。
 新リーグ発足の年、アイシンは新たな常勝チームの誕生を大いに予感させる強さをバスケットボールファンに見せてくれた。

<了>
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著者プロフィール

1977年、山梨県生まれ。アメリカ・オレゴン大学ジャーナリズム学部在学中に「NBA新世紀」(ベースボールマガジン社)でライター活動を開始し、現在に到る。毎年、秋から冬にかけて母校オレゴン・ダックスの成績に一喜一憂している。

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