DAZNマネーは日本に何をもたらすのか? 代理人が移籍市場から見た今季のJリーグ

宇都宮徹壱

多くの選手たちのエージェントを務める田邉氏。今季の移籍市場をどう見ているのか 【宇都宮徹壱】

「浦和(レッズ)は、このところ堅実な補強を心がけていますよね。(中略)ただ、成功率ということでいうと、やっぱり鹿島(アントラーズ)のほうが高いと思います」

 18日に開催されたFUJI XEROX SUPER CUPで対戦した両クラブについて、選手の移籍という視点から興味深い証言をしていたのが、株式会社ジェブエンターテイメントの代表、田邉伸明氏である。確かに今オフの移籍リストを見ると、浦和は手堅く選手層に厚みを加えているのに対し、鹿島はより中期的な視野に立った補強をしているように感じられる。試合は3−2で鹿島が勝利したが、両クラブの編成の是非を語るのは、シーズン終了時の結果を見るまで控えるべきだろう。

 さて、敏腕エージェントとして知られる田邉氏には、日本国内の移籍ルールが大きく変わった2010年にもインタビューを試みている。あれから7年。JリーグはDAZN(ダゾーン)マネーの流入により、新たな時代の局面を迎えることになった。果たして、分配金や優勝賞金が倍増されることで、Jリーグはどのように変化してゆくのだろうか。そして、今オフの移籍市場から何が見えてくるのか。さっそく田邉氏の言葉に耳を傾けてみることにしたい。(取材日:2017年2月10日)

年俸の高いベテランの加入は何をもたらすか?

中村俊輔ら30歳以上の年俸が高い選手を獲得すると、チーム内の年俸バランスに大きな影響を及ぼす 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

(今年の移籍傾向について)去年と大きな違いはなかったと思っています。海外から、清武弘嗣(セビージャ/スペイン→セレッソ大阪)や小野裕二(シント=トロイデンVV/ベルギー→サガン鳥栖)、高萩洋次郎(FCソウル/韓国→FC東京)、太田宏介(フィテッセ/オランダ→FC東京)らが戻ってきましたが、決して特筆すべきことではない。スペイン系の監督が3人に増えた(東京ヴェルディのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督、徳島のリカルド・ロドリゲス監督、千葉のフアン・エスナイデル監督。エスナイデル監督はスペインで経験を積んだアルゼンチン人)ことも、たまたまそうなったという話でしょう。

 あるいは、大久保嘉人(川崎フロンターレ→FC東京)、田中マルクス闘莉王(名古屋グランパス→京都サンガF.C.)、中村俊輔(横浜F・マリノス→ジュビロ磐田)といった、元日本代表のベテランが移籍したというのも話題になりましたが、俊輔以外は(移籍金のかからない)フリーでの移籍でした。「そういうこともありましたね」で終わりだと思います。ただ、俊輔を獲得した磐田が典型例だと思いますが、30歳以上の年俸が高い選手を獲得したということは、移籍先のクラブはそれだけ積極的にお金を使ったということです。闘莉王を獲得した京都にしてもそう。

 そして、俊輔や闘莉王がやって来たことによって、チーム内の年俸のバランスが変わった。つまり「格差が生まれた」と言えます。すぐに影響が出るとは思わないけれど、今までいる選手にしてみれば「自分も活躍すれば(年俸が)上がるんじゃないか」と考えるでしょうね。

 俊輔の年俸がいくらか分かりませんが、新聞などで億単位の額が出ているから、磐田の選手も意識しているでしょうし、実際に来てみたら練習でも「さすがだな」と思いますよね。特に若い選手にいい影響を与えるでしょうから、単に戦力というだけでない部分で「獲得して良かった」と思えるでしょう。話題性のある外国人を獲得してくることも、もちろん悪いことではない。でも一方で、実力と名前がある日本人選手の年俸をアップすることでも、Jリーグの活性化に十分つながるというのが僕の考えです。

ポドルスキの「年俸7億円」を分配金で賄えるのか?

神戸への加入がうわさされたポドルスキ。獲得には高額な年俸だけでなく違約金も考える必要がある 【写真:ロイター/アフロ】

 先日Jリーグが発表した、理念強化分配金に関連する話をしましょう。今年のオフ、ヴィッセル神戸がルーカス・ポドルスキを獲得するのではないか、という報道がありました。結果としてこのタイミングでは実現しませんでしたけれど、DAZNマネーによる強化分配金の増加によって、「有名な外国人選手を獲得できるのでは」という意味でも話題になりました。分配金は、優勝チームには1年目で10億、2年目で4億、3年目で1.5億でしたよね。仮にその分配金があったとして、年俸7億円と言われるポドルスキを獲得することができたんでしょうか?

 おそらく契約(年数)は単年ではなく2年でしょう。そうすると2年目(の分配金)が4億だと、払えない。年俸4億円の選手を2年契約でギリですよね。でも本当は多くのJクラブの場合、違約金は3年で減価償却しますので、違約金を2億×3年で6億として、年俸が4億だと、かかるお金が「(1年目)6億・(2年目)6億・(3年目)2億」になるんですね。であれば分配金の分割は「10億・4億・1.5億」ではなくて、「5億・5億・5億」にしたほうが良かったんじゃないですかね。

 分配金の他に(J1で)優勝したら、賞金が3億円入るんですよね。となると、10億プラス3億で13億か。でも、これをもらえるのが12月だとしたら、そこから億単位の選手を獲得するのは、なかなか難しいですよ(編注:Jクラブの多くが1月決算)。賞金は「選手に分配して終わり」ではないでしょうか。鹿島の人も言っていました。「今年はクラブワールドカップ(W杯)をはじめ、12月にたくさん賞金が入ってきたけれど、できれば年明けにもらいたかった。選手に分配することはいいことなんですけれど」って(笑)。そのタイミングだと使い道が限られてしまうので、選手に配るしかないんですよ。

 それにしても、分配金がちゃんと「強化」に使われているのかどうか、Jリーグはどうやって調べるんでしょうね。つまり、どんなことにお金を使えば、それが「強化」と認定されるのか。たとえば、海外からアカデミーダイレクターを年俸1億円で連れてくる。あるいは、新しいクラブハウスを建てることになった。こういった費用は、果たして「強化」と認められるのか。僕の認識としては、十分に認められると思うんですけれど。いずれにせよ、今季から分配金が増えるということで、それぞれのクラブがそのお金をどう使うのかは、ぜひ知りたいところです。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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